今でこそ、絵もパソコンで描いてますけどね、もとは一条アンチデジタル派で、イヤホンつけてスケルトンのMac持ってスタバでカッコつけてる“意識高い系”を見ると妙にイラッとして、「私はアナログな女でいい」と思っていたものですよ。
でも、20年くらい前だったかな。原宿で全国物産展やってて、県別にパソコンがずらーっと並んでいて、自由に調べものができるようになっていたの。
パソコンの前で立ち尽くす一条。若者たちは楽しそうにパソコンをいじくりまわしながら、ご当地ラーメンなんか見ている。 見たい!私だって見たいけど!大問題!!
スイッチがどこにあるのか解らない!人生でパソコンに触ったことなんかないんだよ!!
途方に暮れるが、好奇心が勝ち、係のお姉さんに聞くことにした。そう…聞くことは恥ではない。誰だって最初は初心者なのである。お姉さんは親切に教えてくれた。「ここをクリックして、カーソルを…」「クリック!?」「なんだ?クリックって!?」「…カーソル…」
ああ…お姉さんの声がどんどん遠のいていく。私が悪かったです。ここは私のようなおばさんが来る所ではなかったです。
その時!フリーズしている一条の隣りに杖をついたすでにミイラ化したようなおじいさんが、オヨヨヨ~ンとやって来たと思ったら!パソコンの前に座るやいなや、キーボードをアタタタターッとすごい勢いで打ち始めたじゃありませんか。ケンシロウか!?
それを見て、一条がどれほどの敗北感を味わったか、ご理解いただけるでしょうか?
もはや言い逃れ0。自分の無力さを、歳にかこつけて肯定してしまったことがみっともなくて、負けず嫌い魂に火がついてしまったのでありました。
屈辱にまみれた一条は心機一転、ただちにパソコンを購入し、松苗あけみの夫に教えを乞い、脳内破裂しそうになりながら吉祥寺のデザイン事務所でPhotoshopの短期講習に出かけました。
さらに調子に乗った一条は無謀にもデジタル漫画制作キットComicStudioにも手を出し、ちょっと教えてもらっただけで「やはり実践しないと身につかないわ」と、ほとんど練習しないですぐに本番。困った時の再起動、いざとなったら工場出荷時に戻すを何回やったことか(泣)。そんな私が今ではすっかりデジタル生活です。
通販しまくり、新聞もテレビも見ないけどYouTube見まくり。特に私は目が悪いので、画面が拡大できて超便利。最近は、iPadやスマホの音声機能も便利に使ってます。私は使ってないけど、声で命令するだけで部屋の電気を点けたり消したり、ニュース読んだり好きな音楽かけてくれたりと、“アレクサ”はものすごくお年寄りに評判いいです。
体が不自由になるお年寄りこそ、ハイテクなものを使えると実に便利!!
しかも!機械には「すみませんねぇ、お願いします」って頭を下げなくていいし、「え〰️〰️面倒臭~い」って顔も文句も聞かなくて済む!電気さえ食わせておけば、24時間休みなしで寡黙に働くタフなやつ。分からないことは何でもGoogle先生が教えてくれます。
そのうち超優秀な介護ロボットもできるはずだから、きっとオプションで好みの顔もオーダー出来るはず!ううむ、どんな顔がいいかなぁ、絶対高いよな、買えるか!?レンタルはどうよとか、あれこれ想像してしまう一条でした。
「有閑倶楽部」集英社文庫<コミック版>
取材・文/佐藤裕美