【教えていただいた方】
医療法人美健会 ルネスクリニック東京・管理栄養士。北陸学院大学短期大学部食物栄養学科卒業。産科婦人科、人工透析科、栄養療法を主とする自由診療クリニックでの勤務を経て、2019年より現職。「人の身体はみな同じではない」をつねに意識し、日々の栄養カウンセリングに臨む。「食事は治療」との信念から一生続く食事という行為を根本治療ととらえ、論拠が納得できる正しい情報を届けたいという思いから、書籍などで情報を発信。著書に『9割が間違っている「たんぱく質」の摂り方』(青春出版社)がある。 金津さんphoto/久富健太郎
タンパク質が不足すると老化が進み、更年期症状が悪化する可能性も
タンパク質が大事だということは、近年、さまざまなメディアで情報発信されていますが、40代、50代の私たち世代にとって、なぜそれほど大事なのか、不足すると起こる不調って? について、金津さんに伺いました。
「タンパク質の働きとしていちばんよく知られているのが、筋肉や骨、肌や髪、爪など体をつくる材料になるということだと思います。
そのため、タンパク質が不足すると、筋肉が減ってしまい、代謝が落ちて太りやすくなったり、よい姿勢が保てなくなって、体型もくずれやすくなりますし、骨ももろくなります。
肌のハリや弾力を保つコラーゲンはタンパク質とビタミンC・鉄で作られるので、不足すると肌がたるみやすくなって、老けた印象にもなってしまいます。
また、タンパク質不足は髪のパサつきや抜け毛、切れ毛、爪が割れるなどのトラブルも招きます。ですから、若々しさを保つのにはタンパク質が欠かせないのです」(金津里佳さん)
また、特に更年期の女性にとって重要なタンパク質の働きが、「ホルモンの材料になる」ということ。
「ホルモンの中でも女性ホルモンや男性ホルモンなどの性ホルモンや、副腎皮質ホルモン(抗ストレスホルモンのコルチゾール)は、タンパク質を材料として作られます。
もう少し詳しく言うと、私たちが食事でとったタンパク質と脂質を材料にコレステロールが作られます。
そのコレステロールからこれらのホルモンが作られるので、タンパク質が不足すると女性ホルモンの分泌も正しく行われなくなってしまいます。
そのため、更年期の不調が強く出たり、PMSなど生理時の不調がひどくなったりすることがあります。ですから、更年期の女性には特にタンパク質が大切なのです」
タンパク質が不足すると、メンタルの不調も起きやすくなる
さらに、タンパク質はメンタルにも深い関係が…。
「タンパク質は、メンタルに関係する神経伝達物質やホルモンの材料にもなります。
例えば、意欲や集中力を高めるのに大切なドーパミンや、“幸せホルモン”とも呼ばれ精神を安定させる働きのあるセロトニン、眠りの質を司るメラトニン、興奮を抑えて気持ちをリラックスさせるGABAなどを作るのにタンパク質が欠かせません。
ですから、タンパク質が不足すると、やる気が出なくなって本来の自分の能力を発揮できなくなったり、訳もなく憂鬱になるなど情緒不安定になったり、睡眠の質が悪くなったりと、メンタルの不調につながります。
私自身も、栄養に無頓着だった若い頃は、いつも頭がぼんやりしていて、やる気がなく、何でもすぐ諦めてしまう人間でした。
それを生まれ持った性格だと思っていたのですが、栄養学を学び、食事でしっかりタンパク質をとるようになると、やりたいことが次々に出てくるなど明らかに変わったので、今思えば、原因はタンパク質をはじめとした栄養不足だったのだと思います」
そのほか、あまり知られていませんが、タンパク質は、40代、50代の女性にも多い悩みである“むくみ”とも深い関係が。
「むくみやすいのを体質と思っている人も多いと思いますが、病気でむくむ人は別として、むくみやすくなる大きな原因はタンパク質不足からくる脱水です。
血中のタンパク質が減ると、血液はタンパク質濃度を維持しようとして、水分を血管の外に出してしまいます。その水分を受けた組織が水ぶくれのようになって、むくんでしまうのです。
朝起きたときなどに、まぶたがむくみやすい人もタンパク質不足の可能性が高いです。
むくんだときはカリウムをとりましょうとよく言われますが、実はタンパク質不足が原因のことが多いので、その場合はいくらカリウムをとっても改善しないのです」
タンパク質をとっていても消化吸収できないと、タンパク質不足になる
このように大事なタンパク質ですが、実はしっかりとっているつもりでも、多くの人が不足しているとか。
「40代、50代の女性は、健康意識が高く、野菜をたくさんとって、肉や油は控えめにしていることが多いように思います。
そのせいで、摂取するタンパク質量が減っている人が多数。
それだけでなく、タンパク質をちゃんと消化吸収できていない人も多く、さらにタンパク質不足になっている人も。
お肉をたくさん食べると、胃もたれや膨満感などの不調を起こしたり、下痢や便秘になったり、においの強いガスがたくさん出るなどといった症状が起きる人は、タンパク質が消化吸収できていないサインです」
タンパク質は摂取量を少しずつ増やして、消化吸収できる量を増やしていくのがポイント
では、消化吸収を考えたとり方とは?
「食べるタンパク質の量を少しずつ増やしていくことですね。
胃もたれなど不調にならないように気をつけながら、❝気持ちよくお腹いっぱい❞を目安に、少しずつ食べる量を増やしていく。そうすると、消化吸収に必要な消化酵素や胆汁酸(これらはタンパク質から作られます)が十分に生成されて、タンパク質をしっかり消化吸収できるようになります。
年だから食べられないと諦めず、肉、魚、大豆など、種類の違うタンパク質をとるようにし、時間をかけて、ゆっくりと増やしていきましょう」
PHOTO/shutterstock 取材・文/和田美穂