新型コロナの症状でよく耳にする、肺炎などの病気。ウイルスは肺や気管以外に全身に取りつくのでしょうか? ハーバード&ソルボンヌ大学医学部・根来秀行教授に詳しく伺いました。
毛細血管を介して全身へ。離れた場所でも悪さをします
新型コロナが細胞に侵入する際の入り口となるのは、細胞表面にある「ACE2」受容体です。このレセプターに、名前の由来にもなっている冠(コロナ)状の突起「スパイクタンパク質」を差し込むのです。
結合がうまくいったら、細胞膜にあるタンパク質の分解酵素「TMPRSS2」や「FURIN(フーリン)」がスパイクを切断し、ウイルスと細胞が融合するのを手伝います。細胞内に侵入した新型コロナウイルスは、遺伝物質(RNA)を注入して自己複製し、ウイルスを大量生産していきます。
新型コロナウイルスは、基本的にACE2受容体とTMPRSS2やFURINが発現している組織―気管、肺、心臓、腎臓、肝臓、小腸、精巣など―の表面にある上皮細胞や、血管の血液が流れる部分に面した内皮細胞に感染する傾向にあります。
内皮細胞1層でできている毛細血管は全身に張り巡らされているため、感染のメインルートに。気管や肺を取り巻く毛細血管に入り込んだウイルスは、血液に乗って全身を移動し、さまざまな場所に取りつきます。
重症者の多くに全身的に血栓症が見られるのは、全身の血管、毛細血管の内皮細胞に新型コロナが侵入し炎症反応が起こるためで、心筋梗塞や脳梗塞で亡くなる人もいます。
また、全身の血管に炎症が起きる小児の稀少疾患「川崎病」に似た症状も報告されていますが、これも新型コロナによる毛細血管の炎症が引き起こした血栓が原因でしょう。
根来秀行さん
Hideyuki Negoro
1967年生まれ。医師、医学博士。ハーバード大学医学部PKD Center Visiting Professor、ソルボンヌ大学医学部客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授、杏林大学医学部客員教授、信州大学特任教授、事業構想大学院大学理事・教授、社会情報大学理事。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など。最先端の臨床・研究・医学教育の分野で国際的に活躍中。本連載から生まれた『ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業「毛細血管」は増やすが勝ち!』『ハーバード&ソルボンヌ大学 Dr.根来の特別授業 病まないための細胞呼吸レッスン』(ともに集英社)が好評発売中
撮影/森山竜男 イラスト/浅生ハルミン 取材・原文/石丸久美子