気張りすぎないのが長続きの秘訣
気づくと何時間も座りっぱしで、一日で歩いたのは近所のスーパーやコンビニに行っただけだった、などという人も少なくないのでは? そんな慢性的な運動不足を解消しようと、意を決してエクササイズを始めてみるも、長続きしないという声もよく聞きます。
「筋トレなどのエクササイズは始めて2カ月後には約80%の人が中断しているというくらい、長く続かないのは普通のことです。ですから、続かないのは『意志が弱いから』や『飽きっぽい性格のせい』などと自分を責める必要はありません。続かなくても気にしない、飽きたら一度やめてまた始めればいいのです」(大渕修一先生)
運動は週2回以上実施しないと効果が出にくいのですが、なかなかできない日もあるでしょう。できなかったことが心理的に負の報酬となって、さらに運動を続ける意欲がなくなり、フェイドアウトしてしまうことも。
「やりたいときにやればいいと初めから決めて、気軽に始めたほうが長続きすることがあります。運動とはこれからも長い付き合いになるわけですから、完璧主義ではなく、穏やかに付き合うのがいちばんです」
【長続きするケース】
気軽に始めた
↓
できない日は諦める
↓
効果が小さくても充実感を得られやすい
↓
楽しくなり、運動しないと落ち着かなくなる
↓
成功!
【長続きしないケース】
意を決して始めた
↓
続けることがプレッシャーに
↓
効果が小さいと充実感を得られない
↓
つらいばかりで、楽しくない
↓
挫折!
「気軽に始めて、体調が悪かったり痛みを感じるときは積極的に休む。効果が出れば儲けものぐらいの意識で、運動量への意識をできるだけ少なくすること。加えて、小さな効果であっても自分を褒めちぎることが大事です。
例えば『駅の階段を上るときに少し足取りが軽く感じられた』『家事をするとき少し疲れにくくなったような気がする』など、体の小さな変化に敏感になって、運動したことと結びつけて自分を褒めることでモチベーションを上げることが長続きするポイントです」
40歳から悪化する外反母趾やウオノメ・タコが寝たきりの第一歩!?
また、中断する原因のひとつに痛みがあります。40歳を過ぎた頃から、手足に痛みを感じることが増えてきます。これも挫折する大きな要因です。
連載の第1回で寝たきりになる原因のサルコペニアについて、その第1段階として「歩く速度が遅い人は要注意」といったお話をしました。もうひとつの引き金になる要因が、40歳頃から増える手や足の痛みです。
特に足の痛みは将来寝たきりに直結します。
「運動不足の状態が続くと、特に女性では40歳を過ぎたあたりから、ホルモン分泌の変化の影響で関節の靭帯が緩み、筋量が少なくなってきます。これが足部に起こると、たくさんの関節で構成されている足のアーチ構造、すなわち土踏まずが落ちて扁平足ぎみになります。
このとき、足は上から潰された感じになりますから、足指も外に開きます。この状態でつま先が細い靴などを履くと、ちょうど外反母趾のような変形を引き起こします。これが癖になると足指の付け根に痛みを起こします。また、扁平足になると、これまで体重を支えてはいなかった足の部位に力がかかるので、ウオノメやタコなどができやすくなってしまいます。
このような加齢に伴う足の変形メカニズムを理解して、これを補う筋肉を新たにトレーニングすることが大事です。もちろん外反母趾のパッドや土踏まずを支える足底板などの利用も有効です」
【痛みによる悪循環】
痛いので歩かない
↓
活動量が減る
↓
さらに筋力が落ちる
↓
歩けなくなる
↓
将来、寝たきりに
「まずは足指や足裏、足まわりの筋肉を鍛えて、扁平足や外反母趾を悪化させないことがとても重要です。特に40歳頃から足まわりの筋トレが必要な理由はここにあります」
【サルコペニアチェック】
サルコペニアに要注意! 筋肉の衰えは40歳から始まっている
●握力/男性28kg、女性18kg未満
未開栓のペットボトルのキャップが開けられればOK。
●両腕脚筋肉量指標(SMI・BIA※測定)/男性7.0kg/m²、女性5.7kg/m²未満
※BIA法:体に微弱な電気を流し抵抗値で筋肉量を推定する方法。
簡単な目安はふくらはぎの周径が男性34cm、女性33cm未満。さらに簡単な目安として両手の親指と人差し指で輪を作り、ふくらはぎのいちばん太い部分を指で囲んだとき、指で囲める場合は筋肉不足です。
●歩行速度/1秒当たり1m(1分間で60m)未満
横断歩道を青で渡り切れればOK。
●5回椅子立ち上がりテスト
椅子から立って座る動作を5回繰り返します。それを終えるまでに12秒以上かかる場合は身体機能が落ちています。
これのどれかに該当するようなら注意が必要です。今から筋トレをしっかり行うことをおすすめします。
【教えていただいた方】
東京都健康長寿医療センター 研究所・福祉と生活ケア研究チーム研究部長。国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院卒業後、米国ジョージア州立大学大学院にて理学修士号、北里大学医学部大学院にて医学博士号を取得。北里大学医療衛生学部助教授などを経て現職。専門は理学療法学、老年学、リハビリテーション医学。著書に『70歳からの筋トレ&ストレッチ』(法研)など多数。
イラスト/green K 取材・文/山村浩子