血管力を高め、突然死を防ぐNO(エヌオー=一酸化窒素)の働きを高める、具体的な方法を解説していきましょう。
「血管力を高めるために不可欠なのが、“適度な運動”です。運動は続けて20分以上しないと…、または1日12000歩!などと言われると、なかなか腰が上がらないものです。しかし、歩き方を変えるだけ、簡単な体操を気が向いたときに5分…これを習慣にするだけでOK!と聞いたらどうでしょうか? 実はそれだけでも十分効果があります」(池谷敏郎先生)
運動①
5cm歩幅を広げるだけでもOK!
「NO(エヌオー)ウォーキング」
そのひとつが、池谷先生が名づけた「NO(エヌオー)ウォーキング」です。その方法は、背すじを伸ばして、歩幅を普段より5cm広げて、速足で歩くだけ!
「動脈を拡張させて血液の循環をよくするには、“有酸素運動による筋肉の収縮”が有効です。それにはウォーキングが最適。これは動脈にとってはリラックスマッサージのようなものです。筋肉を動かして、血流がよくなると、筋肉からブラジキニンという物質が放出されます。これが血管内皮細胞を活性化して、NOの分泌を促すのです。血管内皮細胞の機能は年齢とともに低下するので、NOの分泌も減っていきます。実は、運動は“血管を若返らせる薬”なんですよ」
NOウォーキングの方法は、背すじを伸ばして、お腹と背中をくっつけるようなイメージで、下腹を凹ませます。そして、いつもより5cm広い歩幅で、速足で歩くのがポイント。こうすると全身の筋肉が使われるため、さらにNOの分泌が活発になります。
わざわざ運動の時間をつくらなくても、これなら通勤や買い物のときの歩き方を変えるだけでOK! ただし、膝などに痛みがある場合には無理をしないでください。
運動②
立った姿勢、座った姿勢でもできる!
「ふくらはぎ体操」
歩く時間がなかったり、膝が痛い…といった場合には、手軽な「ふくらはぎ体操」がおすすめです。“ふくらはぎは第二の心臓”といわれていることをご存じでしょうか?
「心臓から送り出された血液は、動脈に乗って全身の隅々まで運ばれます。そして老廃物などを受け取って、静脈に乗って心臓に戻ってきます。ただし、体の末端、特に心臓より離れた、低い位置にある足先から、血液を心臓に戻すのは大変です。それを助けるのが、ふくらはぎの筋肉の収縮運動。これがポンプ役になって、下半身の動脈や静脈の血流をよくすることができます」
「ふくらはぎ体操」を立った姿勢で行うには…
①テーブルなどに片手を置いて体を支え、ゆっくりかかとを上げます。
②続いて、ゆっくりかかとを下ろして、今度はつま先を上げてかかとで立ちます。
これを、膝を曲げないようにして、約2分間繰り返します。朝、昼、晩の1日3回を目安に行いましょう。
「ふくらはぎ体操」を座った姿勢で行うには…
①椅子に座り、両手で座面を持って体を支え、両脚を真っすぐ前に伸ばします。
②次に、ゆっくりつま先を上へ向け、続いて前に伸ばします。
この足先を動かす動作を、仕事や家事の合間に数回行いましょう。
運動③
上半身のこりもほぐれる
「手クロス体操」
シドニー大学が行った「平日の総座位時間」の調査では、日本がサウジアラビアと並んで世界1位!(420分) まさに座りっ放し民族ともいえそうです。座る時間が長いほど、心臓の病気が増えるというデータもあるので、これはちょっと不名誉な順位。せめて小まめなストレッチで、血流を促すことが必要です。メソッド①と②は主に下半身の血流アップでしたが、③では上半身の血流を促します。
「ポイントは血流を一時的に止め(=血管を収縮させる)、その後、パッと解放して(血管を拡張させる)、主に上半身の血流を促します」
手クロス体操を行うには…
①椅子に深く腰かけ、へその下に力を入れて上半身を安定させます。
②左右の手を握ってこぶしをつくり、胸の前で両腕をクロスさせ10秒ギュッと強く握ります。
③その後、パッと両腕を左右に大きく広げます。
ギュッ→パッとメリハリをつけて、これを交互に3 ~5分間繰り返します。
寒い季節になると、一日中家から出ない…という日も! こうした簡単な体操を習慣にするだけで、NOの働きが高まるので、ぜひ実践してみてください。
【教えていただいた方】
池谷医院院長。1962年生まれ。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。1997年に、池谷医院理事長兼院長に就任。専門は内科・循環器科。現在も臨床現場に立つ。心臓、血管、血圧などの循環器系のエキスパート。
【池谷敏郎先生の著書】
「血管を鍛える」と超健康になる!(三笠書房) ¥649
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子