(Isabela Kronemberger on Unsplash)
「あお向け寝でないとなかなか眠れません。これは何か原因があるのでしょうか?」(50歳)
A.肩や足腰に隠れ不調がある可能性もあります。
「私は腰が痛いとき、あお向けでじっとしていないと寝られないことがありました。
ですから、肩や腰が痛いときはあお向けでないと寝られない場合もあるかと思います。
もしかしたら、ご相談者は肩や足腰に隠れた不調があり、横向きになりづらいのかもしれません」(坪田聡先生)
これについてさらに坪田先生に伺うと、横向き寝はウエストが下に落ちてしまうため腰に負担がかかりやすくなるそう。
横向き寝よりもあお向け寝のほうが腰への負担が軽減できる場合があるそうです。
とはいえ、あお向けに寝る際は、枕の高さが合っていなければかえって負担がかかってしまうので注意が必要だそう。
また、口を開けて寝る傾向がある人も気をつけるべきことがあるようです。
「口を開けて寝る傾向がある人は、口に貼る専用のテープを使うのがおすすめです。
喉のまわりには免疫に関わる器官が多くありますが、それは湿っているときに働きがよくなるもの。
口を開けていると乾いてしまうので、意識して口を閉じられない睡眠中は、テープなどを活用して湿度を保つようにしましょう」(坪田先生)
また、体の不調などとは関係なく、「自分はあお向けでないと眠れない」と思い込んでしまっている場合も。
でも、それはあまりよくないことだと山田朱織先生は話します。
「『あお向けで寝たい』『あお向けでしか眠れない』と決めつけてしまうのは、実はよくないことなんです。
以前もお話ししたとおり、人間は生理現象として寝返りを打っています。
あお向けばかりで寝ると、同じ部位にずっと圧迫がかかってしまい、その部分の血液循環が悪くなって痛みやしびれにつながることがあります」(山田先生)
また寝姿勢を固定しないという意味では、ベッドを置く位置も重要だそう。
「ベッドは壁に寄せて置くことが多いですが、本当は避けたほうがいいです。
というのは、無意識のうちに壁にぶつからないように動くなど、寝姿勢に制限が出てしまうから。
可能ならベッドの両側から出入りできる状態にするのが理想です。
とはいえ、なかなかそんなふうに配置できる家に住んでいる人は少ないと思うので、せめて壁にぴったりつけるのではなく、壁から5㎝程度離すようにしましょう。
それだけでも睡眠中に圧迫感を感じたり無意識に動きの制限をしていたのがなくなり、寝返りのしやすさが全然違ってきますよ」(山田先生)
同様に、夫婦で同じベッドに寝ることも睡眠姿勢を制限してしまうという意味であまりよくないそう。
「誰かと一緒に寝ると、無意識にそちらに行かないようにと体が反応してしまいます。
また、親子や夫婦では体格や身長・体重が違うので、それぞれに適したマットレスも異なります。
どちらか一方には合っているけど、もう一人には合っていない寝具を使い続けることにもなりかねません。
同じベッドで寝るのであれば、まずは平均的な硬さのマットレスを選びましょう。
そして、体が大きい夫側には硬めの敷きパッドを、体が小さい妻は柔らかめの敷きパッドを敷く、といった調整をすることで、寝姿勢を整えることができます」(山田先生)
◆「枕が外れる」「枕の下に手を入れる」は枕が合っていない証拠!?
40代~50代になると肩こりをはじめ、疲れやすい、だるいなど、さまざまな不定愁訴に悩まされがちです。
この不定愁訴も、寝姿勢を整えることで解消につながることもあるのだそう。
「肩こりや手のしびれが、高さが合わない枕を使うことで首の神経が圧迫されて起きているなら、自分に合う枕を使うことで症状がよくなります。
また、自分に合わない枕が原因でよく眠れていない人は、痛みやつらさに対する感受性がとても高くなってしまいます。
自分に合う枕でよく眠れれば、痛みに対する感じ方が弱まり、不定愁訴が減る可能性があります。
つまりは合わない枕を使うことで寝姿勢が悪くなり、なんとなく調子が悪いな…という状態になってしまっているのです」(山田先生)
でも、今使っている枕が自分に合っているかどうかは、どうしたらわかるのでしょうか。
「それは朝起きたときの状態を見れば一目瞭然」だと山田先生は話します。
「朝起きたとき、枕の端っこにちょっとだけ頭がのっている、枕が斜めになっている、頭から枕が外れている、という経験をしたことはありませんか?
実はこれは、枕が合っていない証拠なんです」(山田先生)
例えば、起床したときに下のイラストのような状態になっていれば、枕が合っていないのだそう。
また、気づいたら枕の下に手を入れて寝ている、という場合も枕が低すぎる可能性が。
朝起きたとき、頭と枕の位置関係をぜひチェックしてみましょう。
不調を感じている人におすすめなのが、身近なもので自分の体に合った枕を作る方法。使うのはなんと玄関マットとタオルケットです。
その作り方を山田先生に教えていただきました。
1.玄関マットを3つ折りにする
裏地がついていて、硬くてしっかりした耐久性のある玄関マット(60×90㎝程度)を、Z形(3つ折り)に折ります。
2.大判のタオルケットをZ形に折りたたむ
長さ2mくらいの大判で、毛足が短く、なるべく硬いタオルケットを用意します。
端をそろえて縦に2つ折りしてから横に2つ折りし、Z形に3つ折りします。
3.玄関マットとタオルケットを重ねる
玄関マットの上に、タオルケットを重ねます。
タオルケットはめくれるほうが首元にくるようにします。
上の写真でいえば、下の辺が肩口にしっかり当たるように寝て、この連載2回目の枕の選び方を参考に寝返りしてみます。
高さが高いようであれば、下の写真のようにタオルケットを1枚1枚めくりながら調節しましょう。
以上が「玄関マット枕」の作り方です。
これならすぐに試してみることができそうですね。
ただし、一晩寝るとどうしても形が崩れてしまうので、毎日たたみ直してこまめに高さをチェックする必要があります。
そこまでまめにメンテナンスをするのは難しい…という人は、自分に合うオーダーメイド枕を購入することもできます。
山田先生が所長を務める山田朱織枕研究所では、20年間にわたり5万人の計測データやサポートデータを蓄積。
そのデータに基づいて年齢・性別・身体計測値と枕高との相関について統計解析を行い、計測方法を検証。医学的に検証された計測方法で、その人に合った高さの枕である「整形外科枕」を販売しています。
整形外科枕(標準サイズ)縦25㎝×横50㎝ ¥31,900(山田朱織枕研究所)
また、研究所まで計測に行けない人に向けて、自動計測システムを活用してネットショップで自分に合った枕が購入できる「整形外科枕ドクターズピロー」も手がけています。
整形外科枕ドクターズピロー(標準サイズ)縦25㎝×横50㎝ ¥19,800(山田朱織枕研究所)
それにしても「自分でチェックするのは難しいのでは」と思う睡眠中の姿勢(寝姿勢)の判定が、起床したときの枕と頭の位置でできるなんて驚きですね。
朝、起きたときに枕がずれていたという人は、一度枕の見直しをしてみましょう。
〈教えていただいた方〉
1963年生まれ。雨晴クリニック院長。睡眠専門医として30年以上現場に立ち続ける。日本睡眠学会に所属。ヘルスケア・コーチング研究会代表世話人も務める。医師として診療にあたるうちに、睡眠障害がほかの病気の発症や経過に深く関係していることに気づき、睡眠障害の治療を開始。その後治療から予防に重点をシフトし、睡眠の質を向上させる指導や普及に尽力。2005年に生涯学習開発財団認定コーチを取得。『女性ホルモンが整う オトナ女子の睡眠ノート』(総合法令出版)ほか著書多数。
取材・文/倉澤真由美 イラスト/シギハラ・サトシ