HAPPY PLUS
https://ourage.jp/kounenki_no_chie/more/254182/

横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン3 自由という名の孤独 第7話 年老いたタヌキ親父

横森理香

横森理香

作家・エッセイスト。1963年生まれ。多摩美術大学卒。 現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代 大人女子のためのお年頃読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちんバブル純愛物語』は文化庁の主宰する日本文学輸出プロジェクトに選出され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブ諸国で翻訳出版されている。 著書に『コーネンキなんてこわくない』など多数。 また、「ベリーダンス健康法」の講師としても活躍。 主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行っている。 日本大人女子協会代表

記事一覧を見る

年老いた父親の介護の問題に直面した瞳。ひさびさに訪れた故郷で、幼いころの自分と女性蔑視とモラハラgがひどかった父親の姿を思い出していた・・・・・作家・横森理香がお届けする、乾いた心を癒す、フェイシャルスチームならぬマインドスチーム~mist~をどうぞ。

横森理香小説

第7話 年老いたタヌキ親父

 

お盆の提灯が飾られる駅前商店街には、代変わりしているであろう同級生の店が数軒あった。そこを訪ねるのが、今回の楽しみでもあった。

 

「およ? まーたまた、洒落たお茶屋になっちゃってんじゃん」

 

同級生の一人、ケンちゃんちの茶店が、なんだか今風に改装されている。

ガラス張りで、店内に並べられた大きな茶筒がまるでマリアージュフレールのようだ。

 

茶、と丸囲みで書かれた大きな暖簾をくぐると、これまた気障な白衣を着たケンちゃんらしいオジサンが、カウンターの中にいた。

胸にソムリエバッジがついている。店には額に入れた「日本茶ソムリエ」の認定証も飾ってあった。

 

「いらっしゃいませ」

まるでホテルマンみたいに、ケンちゃんが頭を下げた。

「ったく、気取ってんじゃないよ、私だよワタシ」

瞳はサングラスを取って、同級生に声をかけた。それでも分からないようなので、マスクを一瞬はずした。

「・・・えっ、田中?」

ケンちゃんは瞳の変わり果てた姿に驚いたが、同級生であることを確認すると、笑みがこぼれた。

 

 

「どーしたの? 同級会にもぜんぜん来ないし、田中はどっか海外でも行っちゃったんじゃないのかって、みんなで噂してたんだよ」

「いやぁ、父親がボケちゃったらしくて、様子見に来た」

「あ、それなー。あるあるだよ。お母さんは?」

「もう十年前に死んだよ。ガンだったの」

「そっかぁ。残念だったねー。十年前って、まだ若いじゃん」

「ケンちゃんちは?」

「オヤジは三年前に死んで、お袋は家にいるよ。たまに店に出ることもあるけど、毎日はもう体力的に無理だね」

「ボケたりしてない?」

「それが大丈夫なんだよ。お茶のカテキンがボケ防止になるからな」

ケンちゃんは自慢げに言った。

 

「そっか。じゃ親父にも買ってくか。どれオススメ?」

「お湯沸かすのも暑いからさ、冷茶がオススメだよ。これうちでブレンドしてるお茶パック。水出しですぐ出るし、抹茶たっぷり入れてるからさ」

「あ、じゃそれ」

「かしこまりました」

「ったく、気取ってんじゃないよ!」

 

二人で笑い合った。近所のガキ大将によく虐められて泣いていたケンちゃんが、慶応大学に行き、その後は知らんが立派なオジサンになって、日本茶ソムリエに・・・。

「じゃあね、また寄らせてもらうよ」

「水臭いこと言わないで帰りに寄んなよ。みんなに声かけとくからさ」

「いや今日は無理だからまたね」

 

 

ケンちゃんのお茶店をあとにすると瞳は、商店街から実家方面に抜ける路地に入った。住宅街に入ると、途端に道幅が狭くなる。一通で車がぎりぎり入れる道を過ぎると、実家のある小路、車は入れない細い道路に至った。

 

「うわぁ、まんまやん」

新しく建て替えた家も数軒あったが、古い木造建築が立ち並ぶ、昭和の時代にタイムスリップしたような界隈だった。空き家なのか、割れたガラス窓にガムテープがバッテンに貼られている家もあった。

 

この辺りは庭というものはない昔ながらの下町家造りで、通りにいきなり玄関がある。

「あ、ここだ」

玄関先には、悦子叔母が置いたであろう、朝顔とホウズキの鉢植えがあった。

 

 

「コンニチワ―」

 

ガラガラとガラス戸をあけ、声をかけた。風鈴がちりんといい音を奏でる。

そこに、ひとまわり小さくなった悦子叔母が出て来た。

「ひーちゃん? まーまー、すっかり大きくなって」

って、嫌味か。瞳は思った。

 

そこへ、奥からステテコ姿の老人がひょっこり現れた。

「どちらさんですか? なんちて」

ふざけんなくそジジイ、瞳はマスクの中で、下唇を噛みしめた。

横森理香小説

©︎AMU(フォトグラファーユニット.KNIT)

 

◆小説「mist」のシーズン1、2、3のここまでのお話は、こちらでお読みいただけます。

◆次回は、9月16日(木)公開予定です。お楽しみに。

MyAge

大人のからだバイブル vol.1 「更年期と閉経、私の場合。」

OurAgeの人気記事が1テーマムックに!
何度も読み返せる保存版OurAgeです。

MyAge
試し読み Amazon Kobo 7net

この特集も読まれています!

子宮筋腫特集~症状から治療まで
フェムゾーンの悩み解決
ツボ・指圧で不調を改善
40代からでも「絶対痩せる」
広瀬あつこさんの「若返りメイク」
閉経の不安を解消

今すぐチェック!

暑い夏の洗濯が「ラク」ってどういうこと? 絡まりからもシワからも解放される画期的な新提案

暑い夏の洗濯が「ラク」ってどういうこと? 絡まりからもシワからも解放される画期的な新提案

supported by 花王
<前の記事

<前の記事
第26回/横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン3 自由という名の…

次の記事>

次の記事>
第28回/横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン3 自由という名の…

この連載の最新記事

横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 最終話 孫という名の宝物

第60回/横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 最終話 孫という名の宝物

横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 第9話 家族だけのお正月

第59回/横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 第9話 家族だけのお正月

横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 第8話 長男の結婚式

第58回/横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 第8話 長男の結婚式

この連載をもっと見る

今日の人気記事ランキング

今すぐチェック!

OurAgeスペシャル