これまで使っていた化粧品が突然肌に合わなくなったり、赤みやかゆみを引き起こしたり。肌あれが増えてしまうのも、更年期と関係があるのでしょうか?
「女性ホルモンが減ることで、体温を低く保つ機能がうまく働かなくなるのが更年期です。体が熱を持ちやすくなる更年期の人は、アトピー性皮膚炎に似た肌あれ症状が出ることがあります」と、森田さん。そのため、主に顔に熱を持つ状態が続く人も多いそう。
「たとえるなら、皮膚が火事を起こしている状態。火事が原因ならば、火を消す必要がありますよね。そこで必要となるのが水。ですが、更年期は皮膚表面の毛細血管まで、水分が届きにくくなってしまうのです」
背中が硬い人は、肌トラブルにつながりがち⁉
水分を運ぶ役割を果たすのは血流。この血流の巡りを良くするには、「肺」の働きがポイントになる、とも。
「呼吸により肺がポンプのように動くことで、血流は毛細血管の末端まで運ばれます。ところが、肺の後ろに位置する背中の筋肉が硬くなっていると肺の働きが妨げられてしまい、血流が滞る原因になります。顔の肌にまでしっかりと血流が届いていれば、細胞のターンオーバーも良い状態で行われるため、シミ・シワの予防にもつながります」
肌のトラブルだから、原因は肌にあるのかと思いきや! 改善のためには、背中の柔らかさと足の血流にポイントがあるのだとか。
「背中の裏にある肺には、気血(熱)を下ろす働きがあります。背中の張りは、実はリンパの流れよりも血流が関係しているんですよね。血流が悪いと、どうしても上半身にばかり熱が上がってしまうので、物を取るときも腕だけを使うのではなく、背中の大きな筋肉を動かすことを意識しましょう」
そこで森田さんに、背中と足の血流に注目した2種の簡単セルフケアを教えてもらいました!
【簡単セルフケア①】
背中を柔らかくするツボを温める
↑背中の中でも特に重要なのは、血を司る「膈兪(かくゆ)」というツボ。場所はイラストのように、左右の肩甲骨の下角を結び、背中を縦に走る脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)の盛り上がりのところ。貧血や顔色不良、疲労感など、血行不良に関連する不調の改善に効果が
「私も行っている美容鍼灸治療では、背中の血流を良くすることで、 “化粧のノリが良くなった”と実感される患者さんが多いです。でも自分でカイロを貼る、お灸をするのが難しいという人におすすめなのが、お風呂上がりに髪を乾かす際、服の下からドライヤーを入れて温める方法。膈兪のツボ周辺を1~2分くらい温めてください」
【簡単セルフケア②】
美容に効果的なツボを温める
↑足の血流を高め、美容に効果があるツボは、「交信(こうしん)」と「三陰交(さんいんこう)」。それぞれ内くるぶしから上に指3本分、4本分の高さにあります
↑ただ、ツボを細かく探すのは難しいため、写真のように(第1回でも紹介)アンクルウォーマーで足首からかかとまで、全体的に覆って温めるのがおすすめ
「三陰交は五臓の“脾”にあたり、胃腸などの消化器の働きを司るツボでもあります。また腸の血流は脚の血流とも関係が深いので、足首を冷やさないことが大切です」
肌トラブル原因の意外な盲点とは?
更年期による肌トラブルの改善には、背中と足首の血流を良くすること。それに加えてもうひとつ大切なのが、意外にも「腹式呼吸が正しくできているかどうか」。
「腸内環境の乱れも、肌トラブルにつながっています。腸は、お腹の正しい位置に収まっていなければ、働きが悪くなるからです。胃下垂や便秘、下痢、尿漏れがある人は、腸を下から支える骨盤底筋がしっかり使えていない可能性も考えられます」
体幹を支える骨盤底筋を鍛え、働きを良くするドローイン(腹式呼吸)もおすすめだそう。
【簡単セルフケア③】
朝晩10回ずつの腹式呼吸を習慣に
① あお向けに寝て、脚は骨盤の幅に開き、膝を立てる。鼻から息を吸いながら、お腹を膨らませる。
② 口から息を吐きながら、お腹をへこませる。このとき、「お腹を薄くする」という意識を持ち、吸った空気は「は〜」と全部、吐き出すようにする。
「地味な運動に思えますが、近年巷で紹介されている膨大な体幹ストレッチの基本となります。実はこれができなければ、ほかの体幹トレーニングをしても意味がありません。正しい姿勢の保持、そして体を効率よく上手に動かすために重要な基礎トレーニングですし、1〜2分もあれば終わります。できれば朝10回、夜10 回を習慣にしましょう」
自律神経が正常に働くには、全身の血流や内臓の働きを改善させることが大切。程よい交感神経優位&副交感神経優位の状態を作ることで、血管の収縮拡張のリズムがポンプ作用となっていくそう。
「血液が体の末端の毛細血管まで適量に運ばれることで、細胞が生まれ変わる周期、つまりターンオーバーが乱れることなく、若々しい肌を保つことにつながっていきます。私の患者さんには70代の方がいるのですが、鍼灸を始めてから周りに、“あなた、肌がキレイになったわね”と言われることが増えたと、うれしそうに報告していただきました」
最後に、エイジングケアとしての美容鍼灸も専門とする森田さんからのアドバイスも紹介します。
「美容鍼灸を探すときのポイントは、顔だけではなく、全身の体の歪み、内臓の調整からアプローチしてくれる鍼灸師や治療院を探すようにしましょう。公式サイトでは、顔に鍼を刺した画像を掲載しているものが多いのですが、施術を受ける場合は、全身の調整がセットとなっている1〜1.5時間のメニューがおすすめです」
【教えてくれたのは】
鍼灸院などに勤めながら、勤務後や休日に個人で訪問治療を行い、予約1年待ちが続いたタイミングで2023年2月に独立、4カ月で予約満杯となる。現在は埼玉・東京エリアの訪問自費治療を中心に活動。人生100年時代をできるだけQOL(生活の質)を落とさない目的の治療が需要として高い。*現在、新規予約は紹介制のみ。近著に「自律神経にいいこと大全100」
イラスト/きくちりえ(Softdesign) 取材・文/井尾淳子