仕事場は近所のコーヒー店。
周りの声に耳を傾けてしまいます
はらだ ひか●作家。1970年、神奈川県生まれ。
2005年「リトルプリンセス2号」でNHK創作ラジオドラマ大賞の最優秀作受賞。’07年『はじまらないティータイム』ですばる文学賞を受賞し、小説家デビュー。『東京ロンダリング』『ランチ酒』『三千円の使いかた』『一橋桐子(76)の犯罪日記』など著書多数
Interview
大手企業を早期退職、妻とは別居、現在は無職で57歳の主人公・松尾が、趣味の純喫茶巡りをしながら人生を考える物語を書いた原田ひ香さん。喫茶店のナポリタンやプリンア・ラ・モードといったメニューも雰囲気も魅力たっぷり。
「取材のために、執筆中はさまざまな喫茶店へ足を運びました。松尾は時間には余裕があるおじさん。1話につき2軒ほど喫茶店をハシゴさせて、家族や仕事などの深刻な問題だけではなく、楽しめる場面を作りました」
妻や娘や元同僚に「何もわかってない」と言われる松尾のキャラも秀逸です。
「彼は時代や現状への認識が甘めで、夫婦関係はもちろん、お金への感覚も楽観的。早期退職の設定は、今から数年前に大手企業が膨大な金額で希望者を募り、ネットで話題になったところからヒントを得ています。松尾は就職こそバブル期でしたが、その後は激変の時代を働いてきた世代。決して楽をしてきたわけじゃないし、苦悩もあるんですけどね」
市井の人の悲喜こもごもをリアルに描き出すのが原田ひ香さんの小説の魅力。40代後半に発表し、人気のきっかけとなった『三千円の使いかた』は、累計で90万部を突破しました。中年期からの大ブレイク、体調管理はどうしていますか?
「定期的に婦人科に通っていて、更年期の症状も相談しています。私はホットフラッシュがひどくて、特に夏場の外出は大変。1時間ぐらい前には近くに到着して、カフェなどでいったん汗を落ち着かせてから人に会うようにしています。遅刻しないのでいいんですけどね(笑)」
一日のタイムスケジュールを伺うと。
「健康を保ち、長く小説を書き続けたいので、朝は7時に起きて深夜0時にはベッドに入ります。朝食はオートミールと小麦ふすまのシリアル15gずつにヨーグルト100gをかけて、その上に少し果物。キウイがいちばんいいんですけど、まさに腸活。すごく体調がよくなりました。夫を会社に送り出して家事を終え、午前中は近所の喫茶店で小説を書くことが多いです。自宅に戻って昼食や休憩を挟んだあと、夕方は再び喫茶店で事務作業などをして、家に帰ったら夕食を作ります。予定を立てて規則正しい生活をしたほうが、小説を書くリズムというか、ペースが乱れなくていいように思います」
喫茶店では人物観察や情報収集も!
「悪徳セールスとか投資の勧誘とか、その方法も時代に沿ってどんどん変わっているんですよね。へぇ~と思いながら、聞かれていると気づかれないように、イヤホンをつけて聞いています(笑)」
『喫茶おじさん』
原田ひ香 著/小学館
1,650円
57歳の松尾純一郎は、大手ゼネコンを早期退職した無職の身。妻、大学生の娘とは別居中。そんな松尾の趣味が“喫茶店巡り”だ。東銀座、新橋など街と店をうろつく松尾だが、実はとある事業に失敗し、退職金の多くを失っていた――。登場する喫茶店は、店名は明らかにされていないものの、メニューや立地を手がかりに、検索しながら読むのも楽しい!
撮影/名和真紀子 取材・原文/石井絵里