ある日、Facebookを眺めていたら「インタビューを担当しました!」と、ゲイメディアの知り合いの投稿が。掲載されている写真に、思わず目を見はりました。短髪、涼し気な目元にキリっと引いたアイライン、スラリと長身の姿。一時期、話題になったICONIQ(アイコニック)というミュージシャン、彼女を見たときのような衝撃。アンドロジナスな雰囲気が妖しくも魅力的で「この人、誰!?」と思ったものです。
この人の名前は西村宏堂さん。LGBTQであり、同性愛者であることを公言している、僧侶にしてメイクアップアーティスト。ひゃー、またスゴい人が出てきたものだ。と、気になり、ついに西村さんの著作をアマゾンでポチリ。
「正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ」
小さい頃からディズニー・プリンセスが好き。母親には「こうちゃん、女の子よ!」と言っていたそう。東京の寺に生まれ、父親は大学教授、母親はピアノ奏者、両親ともに自由な思想の持主で、一度も「寺をつげ」と言われたことがない。そんな環境ならば、すんなりカムアウトもできて、偏見も跳ね返して我が道を行けるはず、と思ったら、これがそうではなかったそうで。
「18歳で日本を離れるまで、私は自分が同性愛者であることを親にも、先生にも、同級生にも、誰にも打ち明けられなかった」
とのことで、いまだに世間がLGBTQに対して偏見をもっていることを、まざまざと感じさせます。
自分を振り返ってもそうだなー。偏見を持っていないつもりでいても、どこかで「あの人、ゲイだから」みたいに“イロもの”扱いしているところがある。そうすることで、私は「普通」だもん、と自分を優位におきたいんですね。
そんな世間に対し西村さんは
「私は今でも「みんな」や「普通」や「常識」という言葉に気をつけているし、安易に口に出しません。「みんな」なんて、実体のない存在なんだから」
と言います。うーむ、気をつけねば。
そんな西村さんが、本当の自分を隠して孤独だった暗黒時代を経て、自由を求めてアメリカに留学。ところが今度は人種差別を受け、容姿コンプレックスに悩まされ、あがくうちに少しづつ友だちや理解者ができ、とうとう両親にカムアウトする決心をする…。それも感動的なんですが、じゃあ、なぜ僧侶なの!?なぜメイクアップアーティストなの!?
そのへんは本を読んでのお楽しみ。でもこの本の醍醐味はまさにそこなんです。西村さんが僧侶&メイクアップアーティストだけに、仏教&おしゃれの話が多いこと。これがまた、実にユニーク。
たとえば仏教に関して…
「一般的に、仏教の修行は悟りを得るためと言われているけれど、悟りなんて存在しないという学説もあるんですよ」(!?)
「大乗仏教の『華厳経』というお経の中に、次のような一説があります。『ボロでは人は話を聞かないだろう。優れた高徳は、すぐれた容姿があってこそだ。もし、あなたも菩薩のようになろうとするのであれば、さまざまな飾りで装飾するべきだ』…(中略)あなたの身を飾り立てよと説いているのです」(!?)
そんなお経や学説があるのか!?思わず突っこみたくなります。仏教のイメージ、激変です。
またおしゃれやメイクに関しては…
「効果的だったのは、本当はイケてなかった自分の写真だけの『黒歴史アルバム』をつくり、自分の似合う・似合わないをシビアに振り返ってみたこと。今、見返しても、本当に恥ずかしいんだけど(笑)」
「初めてマスカラを試したときは、『何これ!どこまで伸びるの!』って、楽しさと感動で、人生が変わりそうという予感をビシビシ感じた」
と。こちらは親しみやすく、楽しいエピソード満載。真似してみよう!と思うようなヒントもあります。
僧侶でありメイクアップアーティストであり、LGBTQでもある視点から「人間は性別も人種も関係なくみな平等」を発信し続けている西村さん。国連本部UNFPAやイェール大学、増上寺で講演を行い、BBCやNHKにもその活動が取り上げられています。
その言葉に説得力があるのは、僧侶として、メイクアップアーティストとして、キチンと厳しい修行をしているから、ではないでしょうか。これから、私たちの目に触れる機会も増えるはず。“ハイヒールをはいたお坊さん”、ぜひチェックしておいて!