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松本千登世/美意識と自意識

松本千登世

松本千登世

美容エディター。客室乗務員、広告代理店勤務、出版社勤務を経てフリーランスに。心に届く美しい言葉で綴られたエッセイや美容特集は、つねに多くの女性の支持を集める。著書に『いつも綺麗、じゃなくていい。50歳からの美人の「空気」のまといかた』(PHP研究所)ほか多数
撮影/目黒智子

こんな状況になろうとは想像だにしなかった、2~3年前の出来事だと思う。ある女性誌で「最先端エイジングケア」についての取材を終え、その流れで編集者にフォトグラファー、ライターと、女性ばかり4人で雑談をしていたときのこと。

 

何がおいしいとか、誰が面白いとか、そんな取るに足らない話題から、しだいに「どんな大人が美しいか?」という本質的なテーマへ。すると突然、編集者からこんな言葉が飛び出した。

 

「ねえねえ、最近さあ、『美意識』じゃなくて、『自意識』になっている気がしない?」

 

もっときれいになりたい、美しく年齢を重ねたいという願望は、多かれ少なかれ、女性なら誰しも抱いているもの。そのための選択肢は今、無限に広がり、劇的な進化を遂げて、きれいも若さも、ある意味、簡単に便利に、かなうようになった。

 

すると、「若く見える自分」や「トレンドに乗る自分」が美しいと勘違いしがち…。つまり、ベクトルが「美意識」じゃなく、「自意識」に向かい、真の美しさから遠のいている場合があるのではないか? 彼女が言いたかったのは、きっと、そういうこと。

 

私たちは皆、この言葉に思わず唸(うな)った。さまざまな要因はあるけれど、なかでも、SNSの普及が知らず知らずのうちに他人との比較を生み、不安を生み、焦りを生み、結果、「自分しか見えていない」みたいな状況を生んでいるのかもしれない…。

 

それぞれがおそらく、頭の片隅で「自分はどう?」と問いかけながら、ひと言をきっかけに、おおいに盛り上がった。

 

松本千登世/美意識と自意識

 

「個性」や「多様性」の時代である。年齢も国籍も性別も超えて、自分も他人も「唯一無二」の存在として重んじるムードに背中を押され、自分を見つめ直した人は多いだろう。

 

コンプレックスもエイジングも含めて、ピュアにシンプルに「私」を愛しはじめた人も多いはずなのだ。

 

一方で、無用な不安や焦りから、知らず知らずのうちに、誰かからの「いいね」を集めて「自信」に変えている場合もあるのではないか、とも思う。「見られる自分」「見せる自分」という発想が、本当の自分を埋もれさせたり霞(かす)ませたりしているのではないか、って…。

 

今こそ、もう一度、自身に問いかけたいと思う。それは、美意識? 自意識? 無理にまわりと同じに合わせようとするのでなく、無理にまわりとの違いを作ろうとするのでもなく。本当のありのままを知り、認め、愛し、磨き、鍛え、整えること。それが美意識と自意識の狭間にある、真の「意識」なのかもしれない…、そう思うのだ。

 

心に刻んでいる言葉がある。私が30歳で出版社に転職をしたばかりの頃。ある男性誌の男性編集者が、「ファッション通のファッション野暮、美容通の美容ブスにならないように、ね」。シニカルながら、愛をもって発せられた言葉を、最近になってことあるごとに思い出すのだ。

 

時流に乗っている、いや時流を創っているという「驕(おご)り」を持った途端、おしゃれやきれいの意味がずれる。ファッションや美容が独り歩きして、自分が置き去りにされるという戒めだった。冷静に、でも肩の力を抜いて、自分らしくいるためのチューニングができる人でありたいと思う。経験で、年齢で、自分を育てられる人でありたいと思う。その先に、美しさの本質があると信じて。

 

 

文/松本千登世 写真/興村憲彦

 

 

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