デビューして2年目くらいの頃、いつかは連載を持ちたいと夢と野望を膨らませておりました。そんな時、新入社員の編集さんから「一条さん体育系の部活やってたんでしょ。僕と組んでバレーボールマンガを連載しませんか」と言われたことがあります。
えええ━━━!!れ、れ、れぇ連載!!連載ですか!?
や‥やりたい!それはやりたい、連載ですか!!そりゃ嬉しいけど…スポーツ…ですか(汗)。当時は『あしたのジョー』とか『巨人の星』が大評判で、マーガレットでは『アタックNo.1』でした。
読むのは好きだが描きたくないのがスポコン漫画。みんなで仲良くドンマ~イ♪ふぁいと~なあんて、そんな偽善者のふるまいなんざできるかよ。人がミスると腹立つし、自分がやると情けないやら悔しいやら。団体競技は体質に合わないし、スポコン、やだけど連載は欲しい!
たいていは即答できる一条も、さすがに悩んで「2~3日時間下さい」と言って家に帰って悩む!悩む!!
新人漫画家にとって連載とは、豪華絢爛な誘惑なんですよ。で、家に帰って考えた。自分がバレーボールマンガを描いたらどうなるか、シミュレーションしました。
スポコンか。スポーツ経験はあるし、スポコン漫画はさんざん読んだ。どう描けは良いかはだいたい解る。無理をすれば描ける!
ここから得意のシミュレーション発動!
①上手くいった場合。大人気で終了。やったぁ終わったあと思ったら「さあ次はテニスやりましょう」「次はバスケですよ!」とかで、スポコン漫画の一条サンにはなるが、その内スポコンブームが去って一条ゆかり終了。
②こけた場合。無理して苦労して描いた結果がこれかよ(怒)!!甘い誘惑に引っかかった私の馬鹿ばかバカ! こんなもん描くために漫画家になったんじゃないわい!!
あかん…どっちに転んでも嫌だわ。
そもそもどうして漫画家に成りたかったかと言うと、自分の好きな話を自分の好きなように表現したかったわけで、意外かも知れないけど『有名になりたい』とか『金持ちになりたい』とかまったく考えてなかった。むしろ自分の好みはちょっと過激でとんがっているので、メジャーは無理だろうけどマイナーで細々と好きな話を描いていこうと思ってたのよ。
いやあ人生どうなるか、笑っちゃいますね。結局はお断りし、今からすると“嬉しい誤算”となりました。
こういうシミュレーションって、生きていく上で、絶対必要だと思うの。でも、たいていの人がシミュレーションに失敗するのは、考えるときに自分の願望を入れたり、自分の欲や欠点から目をそらしてしまうから。それで自分が本当に望んでいるものが何かわからなくなって失敗するのよね。
自分を客観的に見る必要があるわけだけど、その自信がない人は、あなたをよく知る、ちょっと口の悪い友達に手伝ってもらってシミュレーションするといいかも。「いやいや、あんたが欲しいのは、ただの安定でしょ」とか、鋭い助言をくれると思う。そうすれば正しいシミュレーションが(多分その内)できるはず!!
『マーガレット』1984年4号エッセイ「ちょっとヴェニスでティ・タイム」扉絵
取材・文/佐藤裕美