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金剛院さんの「お寺ごはん」をいただく会

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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こんにちは、寺社部長の吉田さらさです。

今回は、素敵なカフェのあるお寺、金剛院さんで開催された「お寺ごはん」をいただく会のレポートです。

 

金剛院さんは、池袋駅から西武池袋線で一駅、椎名町駅のすぐ目の前にあります。境内にある「赤門テラスなゆた」は4年前の開店以来、テレビや雑誌に数多く取り上げられ、大人気。わたしも以前、OurAgeのコラムで紹介させていただきました。

このカフェでも健康的で美味しいお寺ごはんがいただけるのですが、今回は、それとは違い、お寺の建物内で住職さんのお話を聞き、特別に作られたお料理をいただく会です。

 

そもそも、そのお寺ごはんとは何なのか。この言葉には、住職の野々部利弘さんの、食に対する深い洞察と思い入れが詰まっています。野々部さんも、もともとは食べることが大好だったのですが、ある時、ふと、「これでいいのか?」と思われました。食という字は、人を良くすると書くのに、人々は本当に、自分を良くするための食事をしているのだろうか。もしかすると、「食べ間違い」をしているのではないかと。

住職さんは、まず、決まった食事時間ではなく、おなかが空いた時にだけ食べるという方針に転換しました。間食もやめ、保存料などが多い食品も避けるように。すると、1日に3食ではなく1.5食程度になり、体重が7キロも落ちました。そして心身ともに以前より調子がよくなったのだそうです。

 

グルメ的な食べ方ではなく、人を良くするために必要なものだけを食べる。これが、野々部さんが考える「お寺ごはん」の基本です。お寺の食事というと、肉や野菜をまったく使わない精進料理をイメージしますが、こちらでは、肉や魚もある程度取り入れています。「仏教は何事もジャッジをしない宗教なので、すべてを受け入れます」と、住職さん。しかし、もちろん野菜中心であることは間違いなく、その野菜たちの声を聞きながら、ていねいに味わって食べれば、少量でも満足感が得られるのではとのことです。

住職さんは、料理研究家の谷貝英美さんと意気投合。谷貝さんの妹さんの美也子さんも参加し、「心のごちそう帖 お寺ごはん」(株式会社アスコム 1300円)という本を出版されました。シンプルだけど美味しそうな料理の作り方がたくさん掲載されていますが、「単なるレシピ本ではなく、五感をひらいて食事をいただき、普段は気づかない幸せを見つけてもらうための本」と、住職さんはおっしゃいます。

 

 

「お寺ごはん」をいただく会は、年に4回、こちらの本に取り上げられたメニューを中心に開催されています。シーズンごとに、旬の素材を使った優しい味のごはんをいただけるため、毎回参加する方もいます。しかし、グルメ的に美味しいものを食べるだけの会ではないため、いただく前には、ご住職による茶明想の指導と法話があります。

 

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茶明想は、お茶を飲む5分ほどの時間を使って心を癒す瞑想です。しかし、「瞑想」には少し難しいものというイメージもあるため、「明想」という名前にされたのだとか。今回は、お寺の建物の中で、京都の綾部というところから届いた希少な宇治茶をいただきながら明想しましたが、ペットボトルの飲み物でもコーヒーでもなんでもよいし、場所も、自宅、公園、電車の中、どこでもかまいません。

心の中に行き交う他のことはすべて忘れ、ともかく、飲むことだけに気持ちを集中。誰がこの飲み物を作ったのかな、どんな感じで喉を通り、自分の体の中に落ちて行くのかな。そんなことを考えていると、自然に集中でき、結果的に前向きな明るい気持ちになれるのだとか。

 

引き続き、本堂に移動し、法話が始まります。御本尊をはじめとする仏様の像、堂内にある法具などについて詳しく説明していただき、興味津々です。

 

この巨大なおりんは、A4の紙くらいの大きさの金属の板を叩いて伸ばし、このような形に仕上げたものだそうです。叩いていただくと、深く胸に響くよい音がします。

 

 

先ほど茶明想をしたお部屋に戻って、いよいよお食事です。

「くれぐれも、がつがつ食べないこと。味わって、ゆっくり食べてくださいね」と、住職さんからのお言葉があり、食事を作った方、野菜を作った方などに思いをはせながら、手を合わせて「いただきます」、を唱えます。

本日の献立は、高野豆腐のあおさ揚げ、冷おでん、にんじんのピクルス、緑豆カレー、トマトのスープ。どれも野菜の味が感じられるシンプルなお料理です。豪華さや過剰な味付けのない「引き算のレシピ」も、お寺ごはんの大きな特徴。こういうお料理をじっくり味わっていると、普段食べているものがどれほど味が濃いかが、感覚としてわかってきます。

料理を作ってくれた谷貝英美さんが、本日のメニューについての説明もしてくれます。英美さんは、毎日たくさんのお客さんが集まる家で育ち、季節の食材で作ったシンプルな料理がもっとも人を笑顔にすることを、身をもって体験なさったのだとか。

 

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この日わたしがもっとも気に入ったのは、緑豆のカレーです。英美さんは、25年ほど前、インドに1か月滞在したことがあり、その時覚えたカレーがこれ。そのころのインドの気候と今の日本の夏はよく似ているため、今日はこの料理にしましたという言葉が印象的でした。そうか、日本はもうインドと同じような気候になってしまったので、暑い日はこうしたカレーを食べてパワーアップすることが必要なんですね。

夏野菜をさっぱりと食べられる冷おでんも美味しかった。野菜の色がこんなにきれいなのは、だし汁に入れる前に、それぞれ別に下茹でするからです。だし汁も野菜だけで取ったもので、トウモロコシの自然な甘みが感じられました。

最後に、塩と昆布で少しだけ味付けした茶葉も出ました。これは先ほどの茶明想でいただいたお茶を淹れるために使われたものです。なるほど、よいお茶は、こうして最後まで味わえるんですね。

デザートは、アサイーとバナナを混ぜた甘酒のシャーベット。わたしは、冷たいデザートは体が冷えるので苦手だし、実は甘酒もあまり好きではないのですが、材料の味がすべてまろやかに溶け合っており、冷たさもマイルドだったため、安心していただくことができました。

お土産もいただきました。住職さんのお知り合いから送られてきた無農薬のジャガイモです。家に持ち帰ってポテトサラダを作ってみたら、ほくほくで美味しかった。

 

美しく整えられた空間で、ていねいに作られたお料理をじっくり味わっていただく。どんな豪華なレストランでも体験できない、心癒される時間でした。

「お寺ごはん」をいただく会、次回は秋に開催される予定です。大人気なのですぐに満席になってしまいますが、早めに情報をキャッチして申し込めば、誰でも参加が可能です。

金剛院さんでは、ほかにもさまざまなイベントや講座が行われています。詳細を知りたい方は、こちらのホームページ内のイベント情報をごらんください。

 

金剛院

http://www.kongohin.or.jp/

 

お寺ごはんの会でお料理を作ってくださった谷貝英美さんは、目白で、「ユアンハウス」というカフェもなさっており、フルーツと野菜をメインにした美しく繊細な味のお料理をいただけます。完全予約制なので、ご興味ある方は、こちらのサイトでご確認ください。

ユアンハウス

https://www.yuanhouse.com/

 

 

 

吉田さらさ

公式サイト

http://home.c01.itscom.net/sarasa/

個人Facebook

https://www.facebook.com/yoshidasarasa

イベントのお知らせページ

https://www.facebook.com/yoshidasarasa2

 


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