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ユニークな視点のおべんとう展で 食べる以外の楽しみ方を体感

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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こんにちは。

寺社部長の吉田さらさです。

今回は、東京都美術館で開催中の「BENTO おべんとう展─食べる・集う・つながるデザイン」のご案内です。美術館で食べ物の展覧会ってどういうこと?全国の珍しい駅弁が展示されるのかしら?内覧会の案内メールを見てもよくわからず、いろいろな「?」が湧いてきました。

 

プレスリリースには、「この展覧会は、日本独自の食文化であり、人と人とをつなぐお弁当を、コミュニケーション・デザインの視点からとらえ、その魅力を体験しながら、新たな視点を得られる空間になっています」と、書かれていますが、このコミュニケーション・デザインって、どういう意味なのでしょうか。

マライエ・フォーゲルサング 《intangible bento》イメージスケッチ 2018年

 

 

実際に展覧会を見てもこの言葉の意味が完全に理解できたとは思えないのですが、ひとつ言えるのは、「何だかとっても面白かったので、難しいコンセプトを理解できなくても十分楽しめる」ということです。展覧会というより、見て、触って、体験して、お弁当によるコミュニュケーションを体感する、ちょっと知的な遊園地という感じかな。

 

見どころは、大きく4つに分かれます。

まずは、遊び心のあるお弁当箱の展示から。江戸時代から明治・大正にかけて実際に使われていたお弁当箱のコレクションに目を見張ります。

楼閣形弁当 個人蔵

 

このお城のような形のものは、実は、おかずをいろいろ分けて詰めることができるお弁当箱です。

 

白陶朱漆組合せ瓢成り弁当 個人蔵

 

このひょうたん型のオブジェも、いろいろなパーツを組み合わせたお弁当箱です。

 

昭和の時代の懐かしい金属製のお弁当箱も展示され、触ることが可能なものもあります。

そうそう、こういうお弁当箱に、ごはんとおかずを詰めて持って行ったのでした。これだと、どうしても汁がこぼれて、包んでいた布がいつも汚れてしまうという難点があったことをよく覚えています。

 

 

次なる見どころは、発酵デザイナー、小倉ヒラクさんによるお弁当をテーマとしたアニメーションです。子供も覚えやすいメロディと歌詞、振り付けもあり、一緒に踊って楽しむこともできます。

 

 

三つ目の見どころは、オランダ生まれのイーティング・デザイナー(食べることをデザインする)マライエ・フォーゲルサングによる参加体験型の作品「intangible bento」です。

お弁当の「触ることや見ることのできない側面を物語として表現したもので、このガイドフォンを耳に当てると、お弁当の精霊が語りかけてきます。おべんとうにまつわる目に見えない思い出、生産者とのつながり、未来のおべんとうの可能性など、普段とは違う視点が興味深いです。

こちらがお弁当の精霊のイメージイラストです。絵葉書になっており、再びおべんとうのことを思い出してもらえるようにと、精霊フォンを聞いた方に配布されます。

 

次ページに続きます。

四つ目の見どころは、おべんとうが生み出すコミュニケーションを表現した写真や映像です。

《あゆみ食堂のお弁当》2017年 料理:大塩あゆ美、写真:平野太呂

 

読者からの「〇〇さんにこんなお弁当を作ってあげたい」というお便りにこたえて、料理家の大塩あゆ美さんがお弁当を作り、読者にレシピとお弁当箱が届けられるプロジェクトです。

阿部了《ひるけ》2018年

 

NHKの番組の『サラメシ』やANAの機内誌に長年連載されている『おべんとうの時間』でもお馴染みのおべんとうハンター、阿部了さんの作品「ひるけ」です。お弁当そのものだけでなく、それを作った人や食べる人の話など、背景にあるものに注がれる優しいまなざしが感じられます。

小山田徹《お父ちゃん弁当》2017年

 

こちらは、美術家の小山田徹さんによる「お父ちゃん弁当」。

小山田さんの家では、お父さんがお弁当を作るのが当たり前になっており、小学生の娘さんが幼稚園に通う弟さんのために、毎日「こんなお弁当を作って」というアイディアを絵にします。それを見て、小山田さんが15分で作ったお弁当の写真たち。大人の発想とは違う自由自在なデザインに驚かされます。

 

 

映像作家の森内康博さんによる「Ⅿaking of BENTO」も、思わず見入ってしまう作品です。

中学生たちが、親の助けを借りずに、自分たちだけでお弁当を作る様子を追ったドキュメンタリー映像です。子供たちの発言や行動がユニークで、時々、くすっと笑ってしまうような面白味があります。

スクリーンだけでなく、いくつかある机の上でも見られます。弁当箱のふたをあけると、映像が始まる仕組みになっています。

 

 

最後に、美術家の北澤潤さんによる「FRAGMENTS PASSAGE おすそわけ横丁」という不思議な空間があります。東南アジアの市場のように雑多な品物が並んでいますが、これは売り物ではなく、一般の方が、誰かにおすそ分けしたいと思うものを持ち寄ったのだとか。わたしたちは、ここから気に入ったものを見つけ出して、おすそわけをしてもらうことができます。

わたしたちは、おすそ分けをすることもできます。展示室に用意された箱を家に持ち帰り、そこにおすそ分けしたいものを入れて、一定期間中にこちらに持って来れば、おすそ分け横丁に並べてもらえます。どんな人が興味を持ってくれるのかな、と考えると楽しくなりますね。

一見、おべんとうとはあまり関係がないように思えるのですが、これは、誰かと一緒におべんとうを食べる時に、おかずをおすそ分けすると楽しいという点に着目した参加型のアートなのです。つまりこれも、「人と人とをつなぐお弁当を、コミュニケーション・デザインの視点からとらえ、その魅力を体感しながら、新たな視点を得られる空間」という展覧会のコンセプトにのっとったもの。全部見終わっても、やっぱりまだ言葉の理解は少し難しいけれど、実際にお弁当を食べなくてもこれだけ楽しめたのだから、十分に魅力を体感できたと思います。夏休み、お子さんやお友達と、ぜひお出かけください。

 

 

BENTO おべんとう展─食べる・集う・つながるデザイン

東京都美術館にて、2018年7月21日(土曜日)~10月8日(月曜日・祝日)に開催。

詳細はこちらをごらんください。

http://bento.tobikan.jp/

 

 

吉田さらさ

公式サイト

http://home.c01.itscom.net/sarasa/

個人Facebook

https://www.facebook.com/yoshidasarasa

イベントのお知らせページ

https://www.facebook.com/yoshidasarasa2


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