水辺の旅―リグーリアの冬を訪ねる―
ボン・ジョルノ!こんにちは、水ソムリエ&水鑑定士の竹村和花です。
フィレンツェの市内ではクリスマスに向けイルミネーションの飾りつけが始まり、冬の到来を感じる今日この頃です。
今回は「水辺の旅」をテーマに、北イタリアの冬を楽しむ海辺の町を紹介していきます。
<地中海屈指の港町ジェノバ>
イタリアで「水辺の旅」と言うと、多くの人が「ベネチア」を連想します。
でも。現役の港町として生きている、イタリア最大の交易都市は?というとジェノバ。
今でも「海の王国」としての誇りを掲げながら生きている町、それがジェノバです。
貿易取引の中心地であるジェノバには、イタリア国内にある最高のものと、地中海の各国・各都市から運ばれてくる最高のものが集まります。
今回ご紹介するのは、この「海の王国・ジェノバ」から始まる水辺の旅――海辺に連なる小さな宝石のような港町への旅です。
ジェノバには、ジェノバ・プリンチペとジェノバ・ブリニョールの2つの駅があります。プリンチペ駅はトリノに向かう北のメイン駅として、華やかなジェノバ文化を象徴するような装飾建築となっており、ブリニョール駅はミラノや南に向かうビジネス主体の駅で豪華な造りながらも落ち着いた雰囲気の駅舎になっています。
ジェノバ共和国の面影を強く残す旧市街は、この2つの駅をつなぐ形で港へと広がります。
旧市街には小さな宝石箱のような可愛らしいドルチェのお店や、服飾デザイナーのアトリエが連なり、路地歩きの楽しみが満載。
市場の活気やフェラーリ広場に向かうショッピング・ストリートのタイル装飾。さらに華やかな建築群からは、今もジェノバ市が市民のために投じている財源の大きさを垣間見ることができます。
ジェノバの魅力は、イタリア国内にある多くの観光都市と違って、観光客の数が圧倒的に少なく、そこに暮らす人々の時間が体験できるところにあります。
<小さな宝石箱のような港町チンクエテッレ>
この海洋都市ジェノバから、世界遺産チンクエテッレまでは電車で約1時間。
モンテロッソ・ヴェルナッツァ・コルニリア・マナローラ・リオマッジョーレの5つの村を総称して“cinque-terre(5つの土地)”と呼ばれています。
もともと、それぞれが独立した海辺の小さな村で、各村の行き来は船のみに限られていましたが、鉄道の開通によって陸路での往来ができるようになりました。
夏場は観光客であふれ、電車に乗るのも、食事をするのも、何をするにも行列待ちですが、11月に入ると、この港町にも少し落ち着いた冬時間がやってきます。
海の色が、秋から冬へと変わり始めると、チンクエテッレを訪れる人々の旅のスタイルも大きく変化します。
チンクエテッレへの旅は、できればモンテロッソに2-3泊宿をとって、朝やけや夕焼けの海をのんびり楽しみながら過ごすのがおすすめです。
このエリアを訪れるツアーのほとんどは、5つの村のうちヴェルナッツァとマナローラなどに限定されており、5つ全てを見て周るには朝から最低丸1日は必要です。
また5つの村のうち、唯一コルニリアだけは海に面していない村で、駅から先は急斜面の階段を登っていきます。
時間的な制約のある旅ではハードルの高い訪問先の1つとなっていますが、滞在そのものを楽しむならトレッキングを兼ねて訪ねることができます。
チンクエテッレの海は、それぞれが小さな入り江になっており、建築群の見た目も湾の形もとても個性的です。
11世紀頃から要塞都市として建設されたチンクエテッレの石垣は総延長約6,700kmで、日本列島の約2倍の長さになります。
チンクエテッレのワインは、16世紀以降ヨーロッパの王侯貴族たちから珍重されていますが、この堅牢な石垣を築くために、岩盤を砕いた際に出た砂がブドウ畑の土壌に使われたとされています。
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<観光がもたらすデメリットも>
チンクエテッレでは、今でも普通の生活の場として約4,000人の人々が暮らしています。
世界遺産に登録されてからというもの、この小さな村々には毎年約100万人の観光客が押し寄せ、かつての静かで豊かな暮らしを続けることができなくなってしまいました。
漁師たちは海に出ることもできなくなり、エージェントの要求ばかりが募っています。
旅行客であふれ観光地化する村の現状に“自分たちの暮し文化”そのものを失うのではないかという危機感を持つ人々が増えているのも事実です。
「多くの観光客を受入れるには、私たちの村はあまりにも小さすぎる」
チンクエテッレの漁業組合の人々が語る言葉は、観光によって荒らされた町の悲鳴のようにさえ聞こえます。
日本では「観光、最高」と考える地方都市が多いようですが「観光地化(経済)と引きかえに“暮らしの場(文化)としての町”を失う危機」がある事も考えてゆく必要があります。
<今月のおすすめ銘柄>
Calizzano FONTI BAUDA(カリッザーノ・フォンティ・バウダ)
水源地のあるカリッザーノの町の名前を持つミネラル水です。水の中に溶けている成分総量が39.9mg/Lと極少で、クセのないすっきりとした味わいの水です。1961年から飲料水源として利用され、今年で56年目というイタリアでは若いブランド・ウォーターです。
【水タイプ】
産地泉源:イタリア カリッザーノ
湧水温度:7.0℃
水タイプ:発泡
知覚ほか:無臭/pH7.2
ミネラル:ナトリウム:3.9mg,マグネシウム:0.94mg,カリウム:0.70mg,重炭酸:17.5mg,硝酸塩:3.2mg,カルシウム:5.0mgほか ※イタリア国内での分析による(per.L)
【水ソムリエの飲み方レシピ】
ヨーロッパの旅先で水を選ぶときは、軟水・硬水といった単純な分類ではなく、ミネラル水に含まれている成分の総量や重炭酸など味を左右する成分に注目して選ぶと「失敗」が少なくなります。ミネラル水の成分総量は、通常「Residuo fisso a 180℃」という項目に書かれており、これが500mg以下であれば日本の水道水質基準と同じレベルになります。
<ショップ情報> アマゾンなどインターネット販売,リカーショップ,輸入食材店ほか