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知識がないとアートは愉しめない? そんなことはない!と教えてくれる本

中学の頃、学校に有名画の複製を売りに来る業者さんがいました。複製といっても紙にプリントしたもの。20~30種類くらいが校舎の通路に並べられ、たまにお小遣いの中から何枚か買った覚えがあります。 今考えれば「あの安さ、あの売れ行きで商売になったの?」と疑問ですが(笑)、その時選んだ1枚がコローの風景画。勉強机のわきに画鋲で留めたその絵を、よくぼんやり眺めたものです。「水辺の大きな木、そこからもれる光、遊んでいる子どもたち。この風景の中に入って同じ空気を感じてみたい」とうっとりしながら。(勉強はどうした!?)

 

以来絵を見て空気を感じ、その世界に入り込む妄想にはまったような気がします。(もちろん、入り込めない絵も) 高校生の頃には、東山魁夷の画集にあった白い馬の絵――緑深い湖畔を一頭で歩いている――に崇高な空気を感じて、それをきっかけに日本画を好むようになりました。今見に行くのは日本画がほとんど。お気に入りは広尾の山種美術館で、新しい企画展が始まるたびにワクワクしながら行っています。

山本圭子さん_image

「岡田美術館所蔵 琳派名品展」が日本橋三越本店で開催されていたので、行ってみました(すでに終了)。箱根の岡田美術館(http://www.okada-museum.com/)には1月に初めて行き、圧倒されました。

 

余談ですが、山種美術館は併設の「Cafe 椿」もオススメ。京都の老舗・スマート珈琲店の豆を使ったコーヒー+ケーキにするか、抹茶+オリジナルの和菓子にするか、毎回さんざん迷います(笑)。   前置きが長くなりましたが、何が言いたいかというと、子育て繁忙期を除いて割と絵を見てきたのに、「空気を感じ、妄想する」という自分勝手な見方しかしてこなかったということ。 企画の趣旨やプレートに書いてある説明はざっと読むんです。でも、音声ガイドを使った経験は皆無(笑)。買った画集は一冊だけだし、家で復習なんてするはずもなく……。

山本圭子さん_0311

『田中一村 新たなる全貌』
南国の光と影に魅せられて購入した、唯一の画集。田中一村(1908~1977)は、奄美大島の植物や鳥を力強く繊細に描いた日本画家。奄美大島にある田中一村記念美術館(http://www.amamipark.com/isson/isson.html)に、今年こそ行ってみたい!

 

今まではそれでいいと思っていたのですが、最近になって「知識も増えていなければ、鑑賞力が上がったとも思えない。これでいいのか?」と焦り始めた、というわけです。 そんなとき、新聞広告で目に留まったのが『アート鑑賞、超入門!』という新書。「もっと楽しく、もっと理解するための目からウロコの新・鑑賞論」という文字を見て「これだ!」と思いました。そして実際に読んで、「とりあえず、私のワガママな見方でもOKかな」と、ちょっとほっとしました(笑)。もちろん、それだけでいいわけではありませんが。

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『アート鑑賞、超入門! 7つの視点』
藤田令伊著 集英社新書 720円(本体)+税

 

著者の藤田令伊さんはアートライター。話題の企画展には何十万人ものファンが怒涛のように押し寄せ、美術館に入るだけでも一時間待ち、二時間待ちなのに、「アートを見る」ための一般向けの本はほとんどない日本の現状に一石を投じようと、これを書いたのだそうです。   その内容は、私がなんとなく感じていた疑問にズバリ答えたものでした。

 

つまり、自分の感性で自由に見ていいのか、専門家の“正しい”意見を取り入れた知識に基づく見方をすべきなのか、という問題について。   藤田さんによると、何をするにつけても隣の人を見て決めるという心理的特性がある日本人にとっては、自分が感じたことより専門家のいうことに重きを置く、という宿命的課題があるそうです。(確かに!) でも、一つの見方しか許されないのでは、一般のアートファンは愉しめない。多様な表現や価値観の作品があるのと同じように多様に見ていいのがアートだし、主体的に「私が見る」ことが大事だと、繰り返し述べています。

 

さらには肯定と否定、両方の見方をしてみて「揺れる」ことで視野が広がることだってある、と。   とはいえ、「多様に見ていい」「あなたが好きなように」といわれても戸惑うもの。特に前衛的な作品だと、「コレっていったい何?」と、ついつい思っちゃいますよね。そこでこの本では、鑑賞深めるためのヒントを20も紹介。どれも取り入れたいものばかりですが、とりわけ私が「なるほど!」と思ったものをピックアップすると……

 

●「エア買いつけ」をしてみる

これって、まさに目からウロコだと思いませんか? 自分のお金でアートを買うのなら、どんな見方をしようが自由! 自然と主体的な鑑賞ができるというものです。

 

●「なぜ?」と作品に問いかけてみる

もちろん答えも自分なりに考えるのですが、この方法だとアートの特徴だけでなく、細部にまで意識が行くような気がします。そして、ゆっくりじっくり作品と対話できる気がします。

 

●知識は「部下」と心得る

これも「目ウロコ」ですよね! 知識があったほうがよりアートを深く理解できることもあるけれど、あくまで主体は自分。部下の言うことは、毎回聞かなくてもいいんです(笑)。

 

そういえば、“齢をとるとアタマが固くなる”とよく言います。言い換えれば、多様な考え方ができなくなるということ? 定説や従来の見方にこだわって、それ以外のものに歩み寄る柔軟性を失うということかもしれません。 この本を読んで、そうなりがちなアタマをほぐすためにも、アート鑑賞は有効なのかも、と思いました。しかも愉しみながらできるのだから、一石二鳥! あなたも気になる美術館や企画展を探して、この本にあるヒントを試し、心の可動域を広げてみてはいかがでしょうか。        

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