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帯にあふれる絶賛の言葉に大納得。 あまりにも意外な異色ミステリー

山本圭子

山本圭子

出版社勤務を経て、ライターに。『MORE』『COSMOPOLITAN』『MAQUIA』でブックスコラムを担当したのち、現在『eclat』『青春と読書』などで書評や著者インタビューを手がける。

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みなさんは本を買うとき、“帯”が決め手になることってよくありますか?

 

 

 

帯とはもちろん、本の下部分に巻きつけられた紙のこと。限られたスペースに著者の情報や読みどころがズバリ書かれているので、とても参考になるし、最近は表紙も含めたデザインが優れているものも多いようです。

 

 

私の場合、わりと詳しい著者の本はちら見程度ですが、あまり知らない分野や初めて見る作家名の本だと、かなり帯の言葉に左右されます。「新境地にして最高傑作!」なんて書かれていると、とたんにソワソワしてしまい……(笑)。

 

 

そういえば、私が10、20代の頃は、今ほど帯が目立っていなかった気がします。書いてある言葉も「5年ぶりの新刊!」とか「ミステリー界の新星、登場!」とか、その程度だったような。

 

 

最近は、インパクトの強い言葉が多いですね。「買おうかな、どうしようかな」と迷う心を後押しするように「みんな泣いた!」とあったり、書店員さんの熱いコメントが並んでいたり。
とにかく、書店に平積みになっても他に負けないように、言葉も文字の色や大きさも工夫されているな、とつくづく感じます。

 

 

今回ご紹介するのは、まさに私が帯に惹かれて手にとったミステリー『その女アレックス』
本の表の帯に書いてある言葉が

 

文庫初!
2015年翻訳小説部門 本屋大賞受賞!
全国書店員が選んだいちばん!売りたい本
50万部突破!
空前絶後7冠

 

 

本の裏の帯には

 

 

「このミステリーがすごい!」第1位
「週刊文春」ミステリーベスト10 第1位
「ミステリが読みたい!」ベスト10 第1位
「IN★POCKET」文庫翻訳ミステリーベスト10 第1位
英国推理作家協会インターナショナル・ダガー賞受賞
リーヴル・ド・ポッシュ読者賞受賞

 

 

これだけすごい言葉が並んでいるのだから、「読まなきゃ損!」を確信するというもの。そして読み終えて胸に押し寄せてきたのは、「こんなに一筋縄ではいかないミステリーを読んだことがあっただろうか……」という、ちょっと愕然とするような思いでした。もちろんこれ、ほめ言葉ですよ。

書評カバー

『その女アレックス』
ピエール・ルメートル 橘明美/訳
文春文庫 860円(税別)
謎の女アレックスは「おまえが死ぬのを見たい」とある男に言われ、監禁されてしまう。衰弱しつつもあきらない彼女は見事脱出するが、その後次々にとんでもない行動を……。アレックスの孤独の正体に驚愕必至のミステリー

 

 

主人公のアレックスは、どんなファッションでも着こなしてしまう美人なのに、どこか屈折している様子。物語はそんな彼女が、いきなり何者かに誘拐されるところから始まります。

 

 

その後交互に語られるのは、全裸で格子状の木箱に監禁されたアレックスの絶望的な状況と、目撃者からの通報で捜査を始めた警察の動き。満身創痍のからだを窮屈な箱、というより檻に押し込められたこのヒロインは、誘拐犯の男から次々に地獄のような苦しみを仕掛けられます。なのに捜査は遅々として進まず……。

 

「早くアレックスを助けて!」と叫びそうになりながら読み進め、ようやく警察が監禁場所にたどり着いたと思ったら、アレックスの姿は消えていた! なんとここで第一部が終わり。意表をつく展開に「ええーっ!?」となりながら、すぐさま第二部に突入すると……

アレックスは名前を変えていくつかの場所へ行き、次々にとんでもないことをしてしまうのです。つまり、物語の謎はますます深まるのですが、同時に第一部の謎の一端が少しずつ明らかになっていきます。

 

 

たとえば、アレックスはどうやって脱出したのか? 誘拐犯の真意は? なぜアレックスが狙われたのか?、などなど。
そして膨らむ一方なのが“アレックスという女はいったい何者なのか”という謎。

 

 

このまま書いていくとネタバレになるので泣く泣くセーブしますが、とにかく一度に何冊ものミステリーを読んだかのような、複雑な味わいがするのです。意外、衝撃、慟哭……どんな言葉を使えばいいのか、迷ってしまうほど。

 

 

もうひとつ、この小説の肝になっているのが、パリ警視庁の警部・カミーユを中心とする男たちの絆。

 

身長145センチのカミーユはかつて妊娠中の妻を誘拐され、殺害されたことで心に痛手を負っています。彼の上司で大男のグエン、着道楽で金持ちのルイ、どけちなアルマンはそれぞれ我が道を行っているようで、カミーユの復活をそっと助けている……そんな関係にも、ぐっときます。

 

書評カバー

『忘れられた花園』
ケイト・モートン 青木純子/訳
東京創元社 上・下各1700円(税別)
最近読んだ、もうひとつのオススメ翻訳ミステリーがこれ。1913年、オーストラリアの港にひとりの少女が取り残され、ある夫婦がネルと名付けて育てる。時は流れ、ネルは孫娘のカサンドラに看取られ亡くなるが、彼女は祖母がイギリスにコテージを遺してくれたことを知る。その理由は、そしてネルとは何者だったのか。読みながら遠い異国のある時代へと誘ってくれる、読み応えたっぷりの1冊

 

 

 

 

とにかく「翻訳ミステリーには縁がなくて」という方にもオススメしたい、いろいろな意味で意外性たっぷりの1冊。きっと最後には、タイトルの意味をしみじみ考えてしまうのではないでしょうか。

 

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