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大人にも堂々と読んで欲しい!  10代向け専門書は、親切で的確

山本圭子

山本圭子

出版社勤務を経て、ライターに。『MORE』『COSMOPOLITAN』『MAQUIA』でブックスコラムを担当したのち、現在『eclat』『青春と読書』などで書評や著者インタビューを手がける。

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いずれ読もうと思っているのになかなか手が出ない本、再読しようと思いながらなんとなく機会を逃している本。みなさんにもそういう本があるのではないでしょうか。

 

私の場合、仕事柄新刊を追いかけがち。当然“読むつもり本”は増える一方です。
でも最近、“残りの人生を考えたら、読むつもり本にもっとガンガン行かなきゃ!”と思うようになりました。

 

 

でもまあ、ついつい後回しになってしまうわけで。
そんなとき、偶然見つけた本が『夏目漱石、読んじゃえば?』。
このタイトルが目に飛び込んできたのは、今の気持ちを解きほぐすような言葉だったからだと思います。

書評_photo

奥泉光著 漫画・イラスト/香日ゆら
河出書房新社 ¥1300(税別)
「自分で世界を作り、それを自分で面白がる。それが小説の面白さなんだ」――奥泉流の小説の読み方を伝授しつつ、柔軟な発想で漱石の魅力を解き明かした本。「(『草枕』は)美しいという感覚がふんわり伝わればいい」「坊っちゃんは孤独なコミュ障」「『こころ』というタイトルは『こころが読めない』という意味」など、「え?」と思わせながらぐいぐい論を進めていく

 

 

私は高校・大学時代、小説だけでなく関連本にも手を伸ばすほど漱石が大好きでした。
でもいつの間にかご無沙汰してしまい、その期間が長くなった結果、夢中になった理由すら何だかあいまいに……。

 

 

もう一度読み返せばあの頃の自分に出会えるだろうし、新たな発見もあるはず。
そう思いながら果たせずにいたのは、少々申し訳なさみたいなものを感じていたからかもしれません。
“昔なぜあの人を好きになったのか、ぼんやりとしか思い出せなくなった”みたいな!?(笑)

 

 

そんなふうにぐだぐだ考えていたからこそ、「読んじゃえば?」と呼びかけられたとき(実際そう言われた気分になった)、素直な気持ちになれたのだと思います。

 

 

もしかしたら私は、漱石と再び近づくきっかけを待っていたのかな。

話はちょっとそれますが、最近の中高生の感覚だと漱石=古典なのだとか。
いまどきの小説とは文体が違うので、そう考えるのも仕方ないのかもと思いますが、私たち世代だともう少し近い感じがしていたような……。
教科書によく出てきていたし、書店の文庫棚にずらりと並んでいたので、友人にも愛読者が多かった記憶があります。

 

 

さて、夏目漱石に「読んじゃえば?」という言葉をくっつけて、その気にさせるタイトルにしたのは、作家の奥泉光さん。
これは「14歳の世渡り術」シリーズの1冊で、他には斎藤貴男著『ちゃんとわかる消費税』、橋爪大三郎著『はじめての聖書』などがあります。
つまり名だたる専門家が書いたティーンエイジャー向けの入門書シリーズですが、「若い人だけが読むのはもったいない!」とつくづく思いました。
だって、肩が凝らずに読めるうえ、今さら聞けないようなことからその分野の真髄まで、わかりやすく網羅されているんです。
この面白さに目覚めると、シリーズを制覇したくなるほどハマってしまうのでは……。(私にもそうなりそうな予感が)

 

 

話を『夏目漱石、読んじゃえば?』に戻すと、もくじを開いたとたん、みなさんびっくりされるのではないでしょうか。なぜなら

 

第1章『吾輩は猫である』 小説は全部読まなくてもいいのである
第7章『こころ』 傑作だなんて思わなくていい
第10章『明暗』 小説は未完でもいいのだ

 

など、「ええっ!?」ということばかり書かれているのです。
もちろんそこにはちゃんと意味があるし、奥泉さんの漱石への愛や“小説って自由に楽しめばいいんだよ!”という熱い思いが込められています。

書評_photo

純文学からユーモアミステリーまで、多彩な作品が奥泉さんの魅力。(左)『東京自叙伝』
奥泉光著 集英社 ¥1800(税別)
明治維新、第二次世界大戦、バブル崩壊、地下鉄サリン事件、秋葉原通り魔殺人、福島第一原発事故……これらの裏側では、謎の無責任男たち(?)が暗躍していた! 圧倒的な想像力を駆使して「今の日本、『なるようにしかならぬ』でいいのか?」と問いかける、谷崎潤一郎賞受賞作
(右)『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』
奥泉光著 文春文庫 ¥720(税別)
地位も才能もやる気もない最底辺大学の准教授、クワコー。彼のスタイリッシュとは程遠い生活に、なぜか怪事件が次々に起こって……。
顧問を務める文芸部の変人女子たちにいじられながら、謎に挑むクワコーを描いたミステリー 

 

 

 

 

だから自然と一気読みしてしまったのですが、読後いろんな思いが押し寄せてきました。
中でも一番大きかったのは、昔漱石にひかれた理由が判明したがための自分へのいとおしさ、というか(苦笑)。
つまり私は漱石作品の人物同様、自分がどういう人間かわからない、他人との距離が測れないと悩んでいたんですね。
うわー、結構まっすぐだったんだわ、私……。

 

 

残念ながら今もその悩みは解決していないし、多分これからも一生続くと思います。
でも逆に言うと、だからこそ自分も含め人間への興味は尽きない、という気も。
昔は自分や他人がわからない=苦痛だったけれど、今はもう少し割り切って考えられるようになったのかもしれません。

 

 

とにかくこの本を読んで確信したのは、漱石が差し出した問いは全然古びていないし、多くの人にとって切実だということ。そして、この年齢になってわかる真実もあるということ。
だって、漱石が作家活動をしていたのは、38歳から49歳まで。私たちとそう変わらないんです。(むしろ年下?)
とりあえず私は一番好きだった『明暗』を手始めに、もう一度いろんな漱石作品を読んでみようと思います。わくわく!

 

 

 

 

 

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