〔月曜日 遅めのお昼ごはん〕
〔力うどん〕
「翌日のフライトでニューヨークに戻る前日のランチです。
『日本映像翻訳アカデミー(JVTA)』にて打ち合わせ。
この学校で映像翻訳の修業中。
そんなご縁もあって、JVTA のメルマガでエッセイ『中島唱子の自由を求める女神』の連載をしています。
打ち合わせの後は、メルマガの編集スタッフとランチへ。
日本にいる時は必ず立ち寄る日本橋のお蕎麦屋さん『利久庵』です。
江戸前のだしに癒されるこの「力うどん」で元気を取り戻しました。
それにしてもこの一年間は翻訳学校の課題に追われ、締め切りとの闘いでした。
久しぶりにほっとした時間です。
五十路を過ぎてからのお勉強は、私にとっては贅沢な時間。
新しいことを知るたびに感動したり、喜んだり、映像翻訳の勉強はワクワクの連続です。
エッセイも久しぶりの連載です。
何か集中する時は、オンとオフの切り替えが大事。
美味しいお食事に心身ともに癒されます」
〔火曜日 夕ごはん〕
〔ジャガイモとアスパラガスのロースト、野菜とフェイクミート(大豆のベジーミート)ソースのパスタ〕
「ニューアーク・リバティ国際空港に到着。
主人の迎えの車を待ちながら、さまざまな旅行客の行き交う空港の風景をながめているのが大好きです。
主人と会うのは二か月ぶり。
私がニューヨークに戻る日は、民宿のおかみさんのように寝具を整え、部屋を隅々まで掃除し、夕飯の用意までしてから空港まで迎えに来てくれます。
久しぶりの我が家。
玄関を開けた瞬間に、主人が作ってくれたお夕飯の匂いがしてきて、長距離フライトの疲れが一挙に吹き飛びました。
彼が用意してくれた食事は、ローストされたジャガイモとアスパラガス、そして大豆のベジーミートで作ったボロネーゼ。
主人は豚肉と牛肉を食べないミートレスピープルだけど、いつも美味しいお料理を作ってくれます。
ベジーミートといえば、ベジタリアンのニューヨーカーに人気の「Impossibleバーガー」は大豆のミートを使っていますが、肉汁も赤く、触感も香りもリアルな牛肉そのものです。
主人と出会った時、彼はベジタリアン志向でした。
結婚するときは文化や人種が違う国際結婚のうえに、食事の嗜好まで違うことに戸惑いました。
それで話し合って、鶏肉とお魚は食べてもらうことにしました。
そのこともあってアメリカ生活が始まると、私もミートレスに。
現在、主人の前では牛肉と豚肉は食べません。
結婚して20年以上経つとお互いの食の嗜好も似てきて、毎回の食事が夫婦にとって大切な時間になっています」
〔水曜日 朝ごはん〕
〔グリルチーズとトマトのベーグルとトマトスープとグリーンスムージー〕
「主人が作ってくれた朝ごはん。
何度もニューヨークと日本を往復しても慣れないこと、上達しないものがあります。
それは、「時差と英語」です。
私の場合、地球の自転に逆らって日本からニューヨークに戻った時ほど時差がひどく、朝は早く起きてしまい、お昼には睡魔が襲ってきます。そして腹時計は、日本時間のまま。
ニューヨークは朝だけど日本は夜なので、おなかは〝夜ごはん体制〟なのです。
そんな体調を気にかけて作ってくれた主人の朝食は、栄養満点です。
久しぶりに食べるニューヨークのベーグルと我が家の定番のグリーンスムージー。
我が家では朝ごはんをつくるのは基本的に主人の担当で、お夕飯は私がつくります。
いつからか始まった私たちの習慣です。
お互いの体調を気づかいながら、ときには軽めの朝ごはんの時もありますが、このようなウェルカム・ブレックファーストで朝から私をワクワクさせてくれます。
久しぶりのニューヨークのアパートで睡魔と闘いながら、そしてマンハッタンの喧騒を感じながら、ゆっくりとこちらの生活にシフトしていきます」
〔木曜日 夕ごはん〕
〔鶏肉のマッシュルームソースと野菜のローストとギリシャ風サラダ〕
「この日は、時差による睡魔に耐えられずお昼寝。
時差ぼけの眠りって、限りなく深く、心地いいんです。
主人が仕事から帰る時間に合わせて、キッチンで料理をはじめました。
昨日主人が作り置いた野菜のローストを付け合せに、メインディシュは鶏肉のマッシュルームソースです。
ソースはイタリアのマルサラワインとマッシュルームで仕上げたもの。
義姉の住むコネチカット州の小さな町にあるイタリアン・レストランで食べた一皿が忘れられなくて、レシピを探して自分でもつくるようになりました。
数年前までは繁盛していたその小さなレストランもパンデミックの波を受けて閉店してしまい、残念がっている義理の姉夫婦のためにも、その味を実現したくてレシピを研究。
お気に入りのレストランの味を家で再現するという無謀な挑戦をしています。
試食する主人のコメントは厳しく、なかなかレストランの味に近づけません。
たぶんカロリーを控えめにするため、生クリームとバターを抑え気味にしてつくっているので、お店のあの濃厚な味にならないのだと思います。
そんな言い訳にも「おいしさも大事。健康も大事」と主人は笑顔で言ってくれます」
〔金曜日 夕ごはん〕
〔カジキマグロの照り焼き お芋のローストと芽キャベツとグリーンピースのソテー〕
「週に一回は、必ず魚料理をつくります。
切り身のカジキマグロも、一切れがステーキ並みの厚さと大きさです。
ニューヨークは食材が高いので、調理の時は失敗しないようにと緊張します。
この分厚い切り身の中まで火を通すには、両面をフライパンで数分焼いて、後はオーブンに任せます。
ソースはいろいろなものを試してみているのですが、主人は照り焼きソースが一番おいしいと言っています。
付け合せの野菜は、お芋のローストと芽キャベツのソテー。
芽キャベツのソテーはサンクスギビング(感謝祭)の時につくったら絶賛された一品です。
マッシュルームと芽キャベツを細切りにしたら、塩とコショーでソテーしてグリーンピースを加えます。
最後にレモン汁とパルメザンチーズで味付け。
円安ドル高で、外食がびっくりする値段になっているニューヨーク。
もちろん食材も値上がりしています。
ときには外食を楽しみますが、家でのんびり食事できる時が一番リラックスします。
主人と出会って27年。
日本とアメリカの二拠点生活のなか、「せめて一緒にいられる時は、美味しいお料理を心込めてつくりたい」とこちらの料理学校にも通いました。
「簡単な夕飯でいいよ」と言われても、毎回の料理は丁寧に時間をかけてつくります。
好きな音楽やラジオを聴きながら、キッチンでお料理する時間は私にとって「至福の時間」です。
そしてその幸せな時間から生まれた「美味しい一皿」が食卓に並ぶと、私たち夫婦の大切な思い出もまたひとつ増えたようで嬉しくなるのです」
〈ごはんを見せてくれた人・中島唱子さん〉
1966年東京・柴又生まれ。児童劇団に所属しながらたこ焼き店でアルバイトをしていた高校生のとき、TBS系テレビドラマ『ふぞろいの林檎たち』のオーディションに谷本綾子役で合格。1983年同テレビドラマでデビュー。以降、唯一無二なキャラクターでテレビ・映画・舞台で活躍する。1995年、ダイエットを決行し、フォト&エッセイ集「脂肪」を新潮社から出版。撮影はアラーキーこと写真家・荒木経惟氏。同年12月より、文化庁派遣芸術家在外研修員としてニューヨークに留学。2002年、ニューヨークで出会ったアメリカ人のジャズミュージシャンと結婚。近年は日本とニューヨークを行き来しながら女優業のほかに、映像翻訳者を目指し修業中。そして、2020年には犬服ブランド「オキドキドギー」も立ち上げ、新しい分野にも活躍の場を広げている。
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