術後の脳内対話

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1968年生まれ。日本語教師を経て、ノンフィクション作家に。2012年『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)で第10回集英社・開高健ノンフィクション賞を受賞。他に『駆け込み寺の男 ―玄秀盛―』(ハヤカワ文庫)、『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』(早川書房)など

PHOTO©Hayakawa Publishing Corporation

卵巣の摘出手術も終わり、一件落着、と、思ったが甘かった。麻酔でうとうとしていた私は、右半身がもげたような感覚で目が覚めた。あまりの痛さにびっくりして過呼吸気味になる。

 

 

簡単な手術だと聞いていたし、内視鏡の手術だったし、3日目には退院できるような簡単なものだったし、痛みなんてつねられたぐらいのものだろうと思っていた。だが、これが猛烈に痛かった。

 

 

息ができなくて、ベッドで溺れたように、アップアップしながら手すりに必死に捕まった。絶対、私は今、池の鯉みたいな顔をしている。我ながらアホ面に違いない。

 

 

佐々さん_photo

 

 

どっと後悔が襲った。今まで何の悪さもしていない良性の卵巣だ。手術を選択した「理性側の」私に対して、「体側の」私が猛烈に抗議申し立てをしていた。ここで急きょ脳内反省会が始まる。

 

 

「冗談じゃない。痛くもない臓器なのに摘出しやがって!」「余計なことしなきゃ、こんな痛みを感じずに済んだのよ」。次第に、脳内会議は、怒号飛び交う荒れる株主総会みたいなことに。明らかに私の頭の中には何人かの人格が存在していた。

 

 

だが、その怒りをしばらく感じていると、その奥には怒りとは違う、ちいさな悲しみがあることに気づいた。

 

 

確かに私にとっての卵巣は、生殖時期を過ぎた必要のない臓器である。そんなの頭ではわかっている、その通り。だが、そうであったとしても、やはり、じんわりと悲しい。臓器を失って感じたのは、理性とは全然違うところにある、もっと野生の、もっと根源的な、もっと命に直結した、しみじみとした寂しさだった。

 

 

「これ、何なの?」としばし考えて、ああ、と思い当たることがあった。これって、終末医療を取材した時に医学書で勉強した痛みじゃないだろうか。

 

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