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横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 第6話 亜希の一周忌

横森理香

横森理香

作家・エッセイスト。1963年生まれ。多摩美術大学卒。 現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代 大人女子のためのお年頃読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちんバブル純愛物語』は文化庁の主宰する日本文学輸出プロジェクトに選出され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブ諸国で翻訳出版されている。 著書に『コーネンキなんてこわくない』など多数。 また、「ベリーダンス健康法」の講師としても活躍。 主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行っている。 日本大人女子協会代表

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主人公・佐知の息子と婚約者・佳恵、その母親とで会食を済ませ、最少人数の結婚式のプランが決定した。早く二人だけの生活を始めたいだろう息子たちに「孫が生まれるのに、そうなさせない」と心の中で断言する佐知だった・・・・・・作家・横森理香が大人女子のセツナイ内情を描く「ミスト~孫という名の宝物~」後半スタートです。

ミック・イタヤ

ミック・イタヤ

 

第6話 亜希の一周忌

 

式場は押さえた。両家だけといっても引き出物ぐらい準備せねば。つまらない娘を連れて衣装合わせにも行かねばならず、佐知はてんやわんやだった。

 

そんな時、大好きだった従姉・亜希の一周忌があった。

母と佐知、叔母の弘江、亜希の夫の靖、息子の康介、そして、葬式には来てなかった亜希の弟、健太がいた。その節は濃厚接触者になっていたとかで、自宅待機期間だったのだ。

 

墓参りと法事を済ませ、寺近くの割烹料理屋で、叔母の弘江が愚痴り始めた。

「でも寂しいわよねぇ。せっかくだのに、花嫁姿も見せてくれないなんて・・・」

「ごめん、おばちゃん。向こうのお母さん、市立病院の婦長さんでね。高齢者は呼ばないほうがいいって」

佐知の母親も声を揃えた。

「んなこといったって、私ら現にこうやって、今だって集まってるじゃないか。六人が二人増えたって八人だよ。そのくらい平気なんじゃないの?」

 

おお、まだ頭は確かだ、と佐知は安堵の息を漏らした。が・・・。

「いや、人数の問題じゃなくて・・・」

佐知の言葉を遮るようにして、弘江が言った。

「亜希が果たせなかった夢をさっちゃんが果たしてくれるんだから、私らにも幸せのお裾分けをしてもらいたいってもんだよ」

 

亜希は、決まってもいない息子の結婚式に着ていく留袖を作って、着る機会もなく他界してしまった。息子のできちゃった結婚を夢見、楽しみにしていたのに。

「分かった分かったおばちゃん、動画撮ってきて見せてあげるから」

「そんなもんじゃなくて、あたしゃこの目で見たいんだよ。冥途の土産と思って見せてくれたっていいじゃないか」

「冥途の土産なんておばちゃん・・・まだまだ元気じゃないの。春には子供も生まれるからさ。お宮参りの時にでも、ね」

お宮参り、食い初め、女の子だったらひな祭り、初めての誕生日やクリスマス。あ、そうだ、ハロウィンにはディズニープリンセスのドレスを着せて・・・。結婚式以降にも、楽しいイベントが盛りだくさんだった。

 

 

「ったく嫌な世の中だよね。年寄りから楽しみを取り上げてさ。これからの人はいいかもわかんないけど、私らこれじゃあ、死ねないよっ」

娘の死を悼むこともなく、弘江は文句を言い続けた。

「ごめんね、さっちゃん、最近ばあちゃん、愚痴っぽいんだ」

康介が手を合わせる。

「いいよ、いいよ。私だって文句の一つも言いたいぐらいなんだからさ」

 

すると、普段は口も利かない亜希の夫・靖が話に割り込んできた。

「コロナ禍で地味婚する輩が増えてるんですよ。うちの部下たちも、リモートにかこつけて、勝手に入籍しましたって、事後報告なんですから」

面白くなさそうだ。年寄はみな、これからの人たちの門出を、自分のことのように祝いたいのだ。ハレの舞台を、味わいたいのだ。そういう機会が、長引くコロナ禍で激減していた。

 

 

しばらく会わないうちに、母も叔母も、靖も老け込んだ気がする。そして驚いたことに亜希の弟、健太が、最初は誰だか分からないほど、年を取っていた。

「け、健太だよね?」

「そーよ、さっちゃん、お久しぶりぃ」

相変わらずのオネエっぷりだった。親族にカミングアウトはしていないものの、あえて隠すような態度も取っていなかった。

「あんた、老けたわねぇ」

佐知も健太としゃべると、なぜかダミ声になってしまう。

「ふふっ、さっちゃんも。もう正真正銘のおばあちゃんね」

「それなー」

「でもさ、みんななけなしのハレの日を楽しみにしてるのに、残念ね」

「そーなのよ、最近の子は地味なのね。禁欲的というか・・・」

「でも子供だけは作るんだから、怖いわー」

 

話題は久志のできちゃった婚に集中してしまい、亜希の一周忌は、結婚式に呼ばれない年寄の愚痴で終わった。

 

 

◆「mist」のこれまでのお話は、こちらでお読みいただけます。

 

◆次回は、9月1日(木)公開予定です。お楽しみに。

 

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