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「赤毛のアン」は人生の後半生に勇気をくれます/松本侑子さんインタビュー

『炉辺荘(ろへんそう)のアン』

翻訳家インタビュー

人生の後半生に勇気をくれる、
『赤毛のアン』は大人の文学です

松本侑子さん 『炉辺荘(ろへんそう)のアン』翻訳家

松本侑子さん

 

まつもと ゆうこ●作家・翻訳家。1963年生まれ。『巨食症の明けない夜明け』ですばる文学賞、『恋の蛍 山崎富栄と太宰治』で新田次郎文学賞を受賞。

 

写真の背景は、アンが育った“グリーン・ゲイブルズ”。この地を訪れるアン・ツアーも主催(現在は延期中)。

 

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カナダのプリンス・エドワード島を舞台に、孤児の少女が成長する『赤毛のアン』。日本でも多くの愛読者がいる小説の日本初の全文訳を手がけている松本侑子さん。

 

このたび、シリーズ全8巻の第6巻が発売。著者モンゴメリ60代の、最晩年の作品で、「彼女が持つバイタリティに圧倒されながら翻訳した」と言います。

 

「第6巻の原書を訳すと、原稿用紙で約800枚の大長編。それを60代で完成させたモンゴメリの体力、気力は並大抵ではありません。訳しながら、私も今後の執筆を頑張ろうと励まされました」

 

松本さんが第1巻『赤毛のアン』の翻訳を始めたのは28歳のときでした。

 

「それから約30年間、朝起きて一番の仕事は『アン』シリーズの翻訳です。自分の小説が忙しい日は30分ほどですが、作品研究は毎日欠かしません。参考書籍の購入、海外取材も自費で行っています」

 

そこまでの情熱を持ったきっかけは?

 

「実は最初に翻訳のお話をいただいたときは、村岡花子先生の名訳の愛読者だったので、辞退したんです。でも原書で読んでみたら、全文訳ではなかったと初めて知りました。昔の翻訳は、省略や改変が一般的だったようです。

 

カナダは多民族の国で、アンとマリラ、マシューは、モンゴメリと同じスコットランド系のカナダ人です。そんな民族の文化や19世紀カナダの手作りの暮らしに、たくさんの詩が引用されて、芸術的な小説です。私も本が海外で翻訳される作家ですので、モンゴメリさんのためにも、全文を正確に、文学的に訳したいと思いました」

 

大人の文学としての『赤毛のアン』のすばらしさや魅力とは何でしょうか?

 

「アンの前向きな心。マリラとマシューの人生後半の生き方、家族の愛です。ネグレクトされて育ったアンを引きとったとき、マリラは55歳、マシューは60歳。兄妹は孤独に暮らしてきましたが、アンを育てて、人を愛し愛される幸せを知ります。アンを引きとったことで、マシューとマリラが幸せになるのです。人は何歳からでも生き直せるんですね」

 

松本さん自身も、人生を充実させるように心がけているとか。

 

「最近は日課のウォーキングとあわせて、神社の掃除をしています。聞けば氏子さんの高齢化が進み、手入れに困っていたとか。体を動かしながら、地域をきれいにする喜びもあります。編み物と洋裁もしますので、時間の使い方を聞かれます。1日30分でいいんです。少しでも好きなことをすると、毎日が輝きますね」

 

『炉辺荘のアン』 モンゴメリ 著 松本侑子 新訳/文春文庫

『炉辺荘のアン』

 

モンゴメリ 著 松本侑子 新訳/文春文庫

880円

シリーズ第6巻。アン34〜40歳。美しい村の炉辺荘に暮らす。医師ギルバートの妻として田園で過ごす日々の安らぎと、二人の間に生まれた6人の子どもたちが育つ喜びと淡い悲しみ。アンが主人公として描かれる最後の長編小説。初の全文訳・530項目の訳註付。

 

既刊の5冊。

既刊の5冊。第1巻『赤毛のアン』から『アンの青春』『アンの愛情』『風柳荘(ウィンディ・ウィローズ)のアン』『アンの夢の家』と、少女が大人へと成長する半生が描かれる。著者モンゴメリの生い立ちや、作中の文学、宗教、衣食住を解説する松本さんの訳註も読み応え十分。

 

 

取材・原文/石井絵里

 

 

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