こんにちは小野アムスデン道子です。長野県松本市と言えば、明治時代に建てられた擬洋風建築として有名な国宝・旧開智学校や、凛とした佇まいの松本城を思い浮かべる人が多いと思います。
大戦の戦火を逃れたことから松本市内には土蔵や西洋風の名建築も数多く残り、観光などの資源としてもっと生かそうと、2022年2月に松本城周辺で「マツモト建築芸術祭」が開催されました。
その会場の一つにもなったウェルネスガストロノミーとして有名な「レストランヒカリヤ」と松本の奥座敷”扉温泉”にあるルレ・エ・シャトーの宿「扉温泉 明神館」でのくつろぎをご紹介します。
松本へは、新宿からJR特急あずさなら乗り換えなしで2時間25分。駅から松本城までバスで10分、ぶらぶら歩いても15分。草間彌生のコレクションで有名な松本市美術館(改装で2022年4月までは休業)も有名ですが、城の周辺はマツモト建築芸術祭でピックアップされた名建築が点在し、レトロな喫茶店に入ったりしながら街歩きを満喫できます。
白壁に黒なまこ、黒漆喰の窓が重厚な雰囲気の「レストランヒカリヤ」は、130年以上前に建てられた歴史的建造物である名門商家「光屋」をリノベーションしたもの。屋敷内には、母屋は日本料理の「ヒガシ」、蔵はナチュレフレンチの「ニシ」と2つのレストランがあります。今回は、ヨーロッパでも長年の経験を積んだ総料理長・田邊真宏シェフが腕をふるい、ルレ・エ・シャトーにも加盟しているヒカリヤニシでランチをいただきました。
ウェルネスガストロノミーを追求すると自然と地産地消になるというメニューは、長野県山形村のゴボウを使った濃厚なスープからスタート。スポンジには信州サーモンのムースとスモーキーないぶり人参をのせたもの、そしてくろもじに刺した信州ジビエ鳩のつくねを炭で焼いたものも供されます。
2品目のルロー(巻物)は、サーモンや信濃雪鱒を海苔で巻いて低温調理したもの。添えられているのは、やたら漬けにしたカブ、キュウリ、セロリを粒マスタードと山葵でぴりりとしめたもの。まったりした魚と野菜のさっぱり感がとても合います。
松本一本葱のローストにトリュフと太白胡麻油だけのシンプルな味付けの一品は、野菜のおいしさを際立たせる技に驚かされます。歴史を感じさせる空間で次々に出てくる美しい料理で、野菜はどことなく土を感じさせる深い味わいがありました。
ヒカリヤから車で約30分、山深き地にある扉温泉は、天の岩戸の扉にちなむという伝説も残り、神話ともゆかりのある湯。深い緑と清冽な空気、どこか神聖な感じのする地にルレ・エ・シャトーにも加盟している宿「扉温泉 明神館」があります。
創業は1931年。周囲一帯が1964年に八ヶ岳中信高原国定公園に指定されたことで、この中にある唯一の民家という希少な存在でもあります。絨毯敷きのロビーに並ぶ革張りのソファが歴史と格を感じさせます。
ゲストが滞在中の15〜18時、いつでもくつろげるサロンが「1050」。3月14日までバレンタイン・ホワイトデー限定でマカロン、ケーキなど本格的なデザートブッフェが提供されています。ウェルカムドリンクもこちらで(19時まで)。
露天風呂付き大浴場、立ち湯・寝湯の男女それぞれ3カ所の温泉はいずれもアルカリ性単純泉、泉温38〜40度で体が温まり、浸かっている時も湯上りも至福の心地。また、翌朝は肌触りがすべすべぴかぴかした感じで美肌の湯を実感します。珍しい立ち湯は、立った姿勢でも腰上まで湯につかれて、まるで温泉がそのまま目の前の自然と溶け合うに見えます。じっくりと浸かれる心地よさは抜群です。
ベッドルームタイプ、純和風ともにゆったりした広さの客室。大きく開いた窓、木や石、和紙など自然の素材を使った照明やインテリアに自然に包まれたような感じがします。
2021年春に創業90周年を記念して作られた新しい客室「然 SPA Living 」は、リビングの中央にバスタブがあって、遊び心にあふれています。滞在の中心である温泉の風呂を中心に据え、周りを流木や苔などの作品が囲みます。ずーっと湯に浸かっていられそうです。
ルレ・エ・シャトーの宿での楽しみは、極上の食事。ナチュレフレンチ「菜」と信州ダイニング「TOBIRA」がありますが、ランチがフレンチだったので宿では日本料理のTOBIRAを選びました。
まったりした信州サーモンといくらは辛み大根巻き山葵を、まぐろには醤油豆を添えて魚の味を引き立てる造り。えのきと青ネギを信州牛で巻いて、肉の香ばしさとしゃきっとした食感の茸の取り合わせが抜群の強肴と、口福の料理が次々に続きます。
食事の後はまた温泉へ。味わいが違う3つの大浴場をそれぞれ楽しむもよし、体が温まった後のスパもおすすめです。施術にあたり、陰陽五行に基づいた体質チェックをした上で、さらに3種のオイルからその時の気持ちにあったものを選びます。私は、血行をよくして気の流れをうながすものを選んで、丁寧に施術してもらい、終わった時には肩や頭が軽くなりました。
翌朝、野趣に富んだ原木椎茸の炙りなど山間のご馳走が並ぶ朝食と客室露天風呂と、贅沢な時間を最後まで堪能。ルレ・エ・シャトーに加盟しているということは、最上級の食とホスピタリティを提供する宿である証。まさにふさわしい信州の美味、そして神話の湯での癒しに満ちた松本と扉温泉の旅でした。
取材・文 / 小野アムスデン道子