はじめまして。山本圭子です。
女性誌を中心に、ブックレビューや著者インタビューを書いています。
昔から本が好きですが、友人と本の話をするのも同じくらい好きです。
なぜなら、感想が全然違っても、共感しても、どちらでも盛り上がるから。
「そんなところに目をつけたの?」という驚きがあるから。
このコラムでは、同年代の友人たちに「最近、こんなの読んだよ!」と報告するように、本の話をしていきたいと思っています。彼女たちは好奇心旺盛で、“目からウロコ”を歓迎する人たちばかり。
あ、OurAgeを読んでくださっている方たちも、まさにそうですよね。
なので、本のチョイスもそのあたりを刺激するものにしたいな、と。
今回選んだのは、桐野夏生さんの小説『夜また夜の深い夜』。
テーマはズバリ「逃げる女」!それも、徹底して逃げる女です。
主人公は、ナポリのスラムで暮らす18歳のマイコ。冒頭から語られるのは、何かから逃げているらしい、マイコと母親の異様な生活ぶりです。彼女は住まいを変えるたびに名前を変え、母親からは「本当のことを他人に言ってはいけない」ときつく言われています。母親はときどき長く家を空けるけれど、帰ってくるといつも以前と顔が違う……
そう、どこかで整形してきたのです。
これって、相当怖くありません?
とにかく母親は徹底して「何者?と周囲に思われないように、つつましくひっそりと暮らすべし」という姿勢。でもマイコはそろそろ親の制止が効かない年齢だし、日ごろ我慢させられている分、溜め込んだ好奇心ははち切れんばかりになっています。だから、その後の暴走はものすごいことに!
それは、シュンという日本人男性から漫画喫茶オープンのチラシを受け取ったことから始まります。
マイコは母親に嘘をついて、そこに入りびたるようになるけれど、結局バレて家出。偶然出会った日本人カメラマンの宿泊先に居候させてもらうものの、彼のパソコンやらiphoneやらを盗んで逃走したことから、一気に運命がダークな方向へと加速していきます。その流れは、母親の秘密や自分の素性を突き止めることにつながっていき……。
危険なことが大の苦手の私からすれば、マイコの行動は「それやっちゃダメでしょ!」の連続。仲間になった女の子たちに引きずられたり、なりゆきでそうなった面があるとはいえ、です。
でも、読み進めるうちに何だかうっとりしている自分に気がつきました。多分その理由は、彼女の変わり身の早さをたのもしいと思ったから。開き直りと突破力を魅力的だと感じたから。「ダークヒロイン・マイコに乾杯!」と、言いたくなったりもして。
考えてみれば、私が「逃げたい」と思うとき、いつもそこには「ふがいない自分」がいました。
例えば、高校時代。化学の授業内容がまったく理解できなくて、試験前夜は“何らかの正当な理由”で教室から逃げることを妄想したっけ。
寮生活だった大学時代は、夜中におしゃべりしながらお菓子を食べる日が続き、体重が一気に10キロ増加。「こんな自分から逃げたいよ」と、くよくよしていたっけ。
つまり私の「逃げたい」は、単なる愚痴というか、現実逃避だったんですね。
だから、本当に逃げちゃうマイコに「もっと行ってしまえ!」とエールを送りたくなったのかも……
そう思いつつ、最後の2ページを読んで仰天しました。
彼女は想像していたよりもっともっと怪物だった!
年若いマイコがニヤリと笑って、「何ビビってんの。いくつになっても女は度胸でしょ!」と、ささやいた気がしました。