伝統の発酵食材で旨味倍増
「発酵力」をいただきます!
発酵の力で食材のおいしさと栄養価がアップするだけでなく、腸内環境も整えてくれるとあってブームが続く発酵食品。
この連載では、なかでも身近な「塩麹」「ぬか漬け」「味噌」を使って人気デリの料理人・酒井美香さんがとっておきのレシピを伝授してくれます。
その前に、まずは「発酵力」の科学を学びましょう。
お話を聞いたのは…
小泉幸道さん Yukimichi Koizumi
東京農業大学名誉教授。専門は発酵食品学、醸造学(酢)。著書・監修書に『お酢レシピ 完全版』(笠倉出版社)『自分で治す お酢で病気知らず』(枻出版社)などがある
おいしくって 体にいいことずくめ 。
「発酵力」、ここがすごい!
微生物の働きで、人間にとって有用な食べ物に変化した発酵食品。日本人にとっては調味料や食品としてごく身近なものですが、その魅力と健康効果を知れば、もっと食卓に登場させたくなるはず。微生物が生み出す発酵パワー、美肌と健康に活用しない手はありません!
「微生物の力で風味が増し、 健康効果も抜群です」
「発酵食」の効果に近年、注目が集まっています。世界中でさまざまな発酵食が固有の気候風土の中で生まれ、育まれてきました。日本ではしょうゆ、味噌、納豆、かつお節、漬け物、日本酒などが代表例です。他の国発祥の食品には、チーズやヨーグルト、ワイン、キムチ、紅茶、烏龍茶もあります。
「発酵とは、微生物の作用によって有益な物質を造り出すことです」と小泉幸道先生。
「発酵食品は、世界各地で自然発生的に生まれてきたものです。発酵の主役は乳酸菌や麹菌、酵母菌、納豆菌といった微生物(菌)。これらの微生物が食材に付着し、食材の成分を分解する過程で、健康に役立つ栄養素がぐんと増します。そのうえ、食材がもともと持っていなかった味や香りが生まれます。米からのお酒、乳からのヨーグルトとチーズ、大豆からの納豆などを思い浮かべれば、おわかりになるでしょう。さらに、保存性が高まることも、発酵食品の優れた特徴です」
ちなみに発酵と腐敗の構図式は基本的に同じ。変な味がする、くさいなど、人間にとって「いやなもの」になれば、腐敗と呼ぶのだとか。
発酵の力で食材の旨味と風味がアップ
微生物の力で食材が発酵することで、もともと食材にはなかった味や香り=おいしさが生まれます。米からお酒、動物の乳からヨーグルトやチーズ、小麦粉からパン、大豆から納豆など旨味のある「発酵食」が誕生します。
食材の長期保存が可能になる
発酵を起こす微生物が腐敗菌の活動を抑えるため腐りにくくなり、保存に最適な食品になります。例えば、カツオからかつお節、ぶどうからワイン、乳からチーズ、イワシからアンチョビなど。寿司の原型である、なれずしも同様です。
発酵で栄養価が増し「滋養の宝庫」に!
発酵を促す微生物は多種多様。その発酵過程でさまざまな栄養成分を増やします。例えば、蒸した米を発酵させた「麹」の栄養分は米より豊富。その麹を使って造られる「甘酒」はブドウ糖、アミノ酸、ビタミン類がたっぷりで、「飲む点滴」といわれる栄養ドリンクに。
腸内環境を整えて免疫力を高める
発酵食品には乳酸菌をはじめ、腐敗物質の増加を抑制する善玉菌が多く含まれます。善玉菌は病原体の侵入を防ぐ免疫細胞を活性化。腸内環境を整えながら免疫力を高め、病気を予防してくれるのが発酵食品です。
消化吸収しやすいので胃や腸に優しい
食材の栄養素を微生物が分解することで、栄養素を体が消化吸収しやすい状態になります。胃や腸に優しいのはもちろん、消化吸収に使われるエネルギーが少なくてすむため、シニアから子どもまで食べやすい食品に。
次回から、数ある発酵食の中でも日本伝統の「塩麹」「ぬか漬け」「味噌」を使って、人気デリのメニューを開発してきた酒井美香さんが新しい発酵料理を提案してくれます。
「身近な発酵食品をプラスするだけで旨味がアップし、定番の料理も、よりおいしく仕上がります」(酒井さん)。
数々の人気店でメニュー開発に携わる料理研究家。ひねりの利いたスパイスやハーブ、雑殻を使い、シンプル&ナチュラルなデリレシピに注目が集まる。https://kihon-tokyo.com
新鮮な工夫がいっぱいのアレンジレシピで、毎日の食卓にもっと発酵力を!
撮影/三木麻奈 料理/酒井美香 スタイリスト/大畑純子 構成・原文/北村美香