食いしん坊ミーナ、一番好きなのは和食なんですが、アメリカ育ちゆえ(?)「肉」を定期的に食べていないと元気がでません。朝からステーキも、もちろんOK! でも、サシたっぷりの霜降りは苦手、旨味たっぷりの赤身派なので、「赤身肉」&「熟成肉」ブームは大歓迎。やっと、外食で「赤身肉」が食べらるお店が増えました。しかしながら、「赤身肉」&「熟成肉」の違いって何? 本当のところはよくわかってかったので、この2回連載で学びます。
「赤身肉」&「熟成肉」って何?
素朴な疑問にお答えします!
アメリカから相次いで上陸したステーキハウスの影響で、「赤身肉」&「熟成肉」が大ブーム。もっとおいしく食べるために、詳しく知りたい! 牛肉のこと。
おいしい牛肉と言えば、サシの入ったA5等級、と思い込んでいる人にこそ、この赤身肉と熟成肉のすばらしさをお届けしたいもの。
今回はまず「赤身肉」について、食流通ジャーナリストの山本謙治さんに教えていただきました。
山本謙治さん Kenji Yamamoto
profile
食流通ジャーナリスト。農畜産物の商品企画や開発、マーケティングを行う農畜産物流通コンサルタント。赤身肉のよさを広めるべく、2010年より「赤肉サミット」を主催。日本ドライエイジングビーフ普及協会委員。
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/
【赤身肉編】
Q1. 「赤身肉」って牛の品種?
赤身肉に特徴的な味わいがある肉牛品種を赤身品種と呼んでいます。食肉専用の和牛品種は下の4種類で、褐毛と短角は赤身品種といえます。
近年、赤身肉人気は高まる一方ですが、1991年の牛肉輸入自由化以降、頭数が減っているのが現状。日本で飼育される牛の約60%が黒毛で、褐毛は約1%、短角は1%に満たず、とても稀少。
乳用種のホルスタインに黒毛和種を交配した交雑種(約20%)やホルスタイン(約15%)は、あまりサシが入らないので、食用として改良肥育されたものは、広義では赤身品種という考え方も。
Q2. 「赤身肉」の格付けは?
「A5」が最高と言われる牛肉の格付けは、海外からの安価な赤身肉と和牛との差別化を図るべく、畜産農家が黒毛の生産を推進するために生まれたもの。つまり、基準は黒毛です。ABCは歩留等級で、1〜5は肉質等級。霜降りであればあるほど5に近づくので、A5ランクはほとんどが黒毛。赤身品種の褐毛や短角はどうしてもA4以下。A3かA2が普通です。
そんな黒毛の等級で赤身品種を判断するのはナンセンスですが、あえて言うならA3以下が赤身肉です。
Q3. 「黒毛和牛」に赤身肉はあり得ない?
霜降りのA5やA4を目指したにもかかわらず、結果としてA3以下になってしまった黒毛和牛が果たしておいしい赤身と言えるのか? 重要なのは、赤身肉に特徴的なおいしさがあるかどうかということ。ともあれ、品種ではなく部位に目を向ければ、一頭の中でも相対的に赤身度が高いところもあります。それがモモやヒレです。
もちろん個体差があり、サシが入っているモモやヒレもあるので絶対的とは言えませんが、個体によっては黒毛和牛でも赤身的部位を赤身肉と言ってよいものもあります。
Q4. 「グラスフェッド」は赤身肉?
餌によって肉質は変わります。コーンや麦など濃厚な穀物飼料で育てた「グレインフェッド」はサシが入って大きく育ち、青草や干草などの粗飼料を与えた「グラスフェッド」は赤身が強く、あっさりとした味わいに。とはいえ、いずれか100%で育てることはほとんどなく、それらの割合で肉質をコントロール。粗飼料を多く、穀物飼料を少なくすれば赤身肉になります。
粗飼料で牛を育てるのはヨーロッパの文化で、フランスのシャロレーやイタリアのキアニナはサシがまったく入っていない赤身肉の代表品種。オージービーフは、自国消費はグラスフェッドが主流で、仕上げに麦を与えた日本向けのグレインフェッドも国産に比べればサシが少なめの赤身肉。
一方のUSビーフは日本同様コーンを大量に与えているがゆえに、ヨーロッパの牛の倍以上サシが入り、正確には赤身肉と言えないものが多いのです。
Q5. 赤身肉人気で注目の「経産牛」はおいしい?
黒毛和牛の最高峰である松阪牛が「20カ月以上飼育された処女牛」と規定されているように、和牛の世界では、未経産牛が「最も肉質がよい=おいしい」とされ、次いで去勢牛→去勢していない雄牛→経産牛→廃乳牛の順に価値が下がっていきます。とはいえ、経産牛の肉はおいしくない、硬いというのは迷信。
そもそも赤身肉文化のフランスでは、経産牛に濃厚飼料を与えて再肥育したものを「リプロダクション」と呼び、5〜6回出産経験のある牛こそ味も香りも豊かでいちばんおいしいというのが定説。日本でも近年、ドライエイジングの普及により、再肥育した経産牛のニーズが高まっています。
次回は、「熟成肉」について山本さんに教えていただきます。
撮影/太田隆生 イラスト/岡部タカノブ 取材・原文/和田紀子