こんにちは小野アムスデン道子です。美食の国フランスの植民地だった歴史を持ち、中華料理の影響も色濃く、独特なエキゾチックさのあるベトナム料理。私もファンの一人です。元「銀座レカン」のシェフ・ソムリエの大越基裕さんと奥様でソムリエでもある新城桃子さんが、モダン・ベトナミーズとぴったりのいろんなお酒が楽しめるお店「アン ディ」をオープンされたと聞けば、これは行かずにはおられません。さて、どんなメニューとマリアージュを楽しませていただけるのでしょうか。
店名の「アン ディĂn Đi」は,べトナム語で「召し上がれ」という意味。訪れた日、運よく店に出ていた大越さんに、食事の前の一杯を伺うと「ぜひ、当店特製のレモンサワーを」とのこと。目の前で自ら氷を割って作ってもらった贅沢な一杯ですが、とても香りと喉越しがよくて、確かにひと味違います。
「秘密はオーガニックレモンをブラウンシュガー、ハチミツに漬けて作ったシロップ。それにオーガニックのLemon & Lemonというレモンジュースと、雑味はないが味わいがのっている宮崎の米焼酎「山翡翠(やませみ)」で割っています」と大越さん。
大越さんと言えば、タキシードでワインテイスティングをされているイメージが浮かびますが、実はワインだけではなく日本酒や焼酎にも造詣が深く、蔵元にもかなり足を運んでいるそう。
フランスの影響もあるベトナム料理はおいしいと聞いて、函館のワイナリー「農楽蔵(のらくら)」さんと一緒にベトナムを訪れてみた大越さん。「実際にワインを現地に持っていったら、これがおいしかったんですよ。スパイスとの風味の相性や旨味の豊富なマイルドな味わいが、一部のスタイルのワインとよく合いました」と“ベトナム料理にビール”というだけではないお店を開こうと思った理由を語ってくれました。
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今回は、7品のおすすめコースと共にお酒のマリアージュをオーダー。1品目に登場は「ティーリーフサラダ」。これはミャンマーの発酵茶のサラダ「ラペットゥ」からヒントを得たもの。ゴマやカシューナッツ、ピーナッツといった香ばしい木の実類、トマトや柿の甘み、緑豆にサラダ菜それにパクチーが、お茶の葉と相まってもう止められないおいしさ。
合わせたワインは、山形県タケダワイナリーの「サン・スフル」。県産デラウェア種100%、無添加・無ろ過で瓶内発酵。柔らかな発泡と華やかなデラウェアの香り、無ろ過独特の風味でエキゾチックなティーリーフサラダとのハーモニーが楽しめます。
べトナム料理定番とも言える生春巻きは2品。まず1つ目は、サワークリームとココナツミルクのディップで食べる、ベトナム料理ではあまり感じることのない、季節感のある「秋刀魚の生春巻き」。合わせたのは「早瀬浦 夜長月」という綺麗でかつコクのある特別純米酒。ソースとの風味、味わいが絶妙にマッチします。
そして2つ目の、オクラや人参、キュウリなど野菜がいっぱいでヘルシーなエビ生春巻きには、独特の味わいが。「何だか分かりますか?」と謎かけする大越さん。答えは何と柴漬け。オーストラリアのアデレード「フレデリック・スティーヴンソン」のロゼの風味は、柴漬けともよく合います。新進気鋭の醸造家スティーヴン・クロフォードの手になるもので、よく見れば大越さんは、彼のTシャツを着ています。ちょうど来日もしていたそうで、若手醸造家との交流もさすが。
私がとても気に入ったメインの1品は「豚の炭火ロースト アジアンスパイス風味」で、腐乳とコクのあるスパイシーなソースに漬け込んで、香ばしくローストされたジューシーな豚。それに麹、唐辛子、塩で発酵させた自家製調味料をつけていただきます。奥様が八角、カルダモン、シナモンなどスパイスの説明をしてくださいました。こちらに合わせて出たのは南アフリカから「デイビット・アンド・ナディア」のピノタージュの赤ワインが程よくスパイシーでお料理の重さともぴったりでした。
最後のデザート、ガランガというショウガ科のハーブが入った「ハスの実羊羹」まで、食材が本当に幅広い。そして合わせたお酒は、世界から日本からで、それらのバックグラウンドを聞きながらの食事は、べトナムだけでなくアジアのどこかにしばし旅をした気分が味わえました。
アン ディ
東京都渋谷区神宮前3-42-12 1F
03-6447-5447
夜:18:00~23:00LO 昼:12:00~13:30 LO (土日のみ)
月曜日休み