医療ジャーナリスト 増田美加さんの更年期女性の医療知識 アップデート講座
この連載では、MyAge/OurAge世代の女性が知っておきたい最新の医療知識をご紹介しています。教えてくださるのは、医療ジャーナリストの増田美加さんです。
"エビデンス漢方"で より柔軟な 医療がかなう!(前編)
エビデンス重視の現代医療の中で漢方薬は…
日本人の約70%は、漢方薬を使用した経験があるといわれています (*1) 。更年期世代の女性は特に、漢方薬の使用経験がある人が多いの ではないでしょうか?
漢方医学は日本に古くから根付いている伝統医学ですが、最近、漢方薬のエビデンス(科学的証拠)が大きく問われるようになりました。現代医療は、基本的にエビデンスによる標準治療、ガイドライン重視の医療です。そんな中、特にエビデンス重視のがん治療の現場にいる医師の中には、「漢方薬はエビデンスが低い。だから漢方薬は効かない。処方しない」という意見も聞かれます。その理由は、どのようなところにあるのでしょうか?
西洋薬はたいていひとつの有効成分で作られていて、血圧を下げたり、細菌を殺したり、熱や痛みを取ったりするなど、ひとつの症状や病気に対して強い効果があります。また西洋薬のベースとなる西洋医学では、患者の訴えのほかに検査を重視し、その検査結果から病気の可能性を探ったり、治療法を考えたりします。検査結果や数値などにしっかり表れるような病気が得意です。このことからエビ デンスがとりやすい領域でもあります。
しかし一方、漢方薬は1剤に複数の有効成分が含まれ、多様な症状に効くのが大きな特徴です。また漢方薬のベースとなる漢方医学は、患者の病状(訴え)や体質を重視し、その結果から処方します。そのため、体質に由来する症状(背後に病気のない生理痛や冷え症、虚弱体質など)、検査に表れない不調(更年期障害の症状)などの治療を得意としています。1剤で複数の病気が改善されることがあるのも、漢方薬の大きな特徴です。例えば牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は、腰痛や頻尿、手足のしびれによく使われますが、飲んでいると疲れやむくみなど、複数の症状が同時に改善されることがあります。古くからの経験的な知恵の集積によって患者の訴えを重視する医療のため、数値化しにくいことから、エビデンスがとりにくい領域でもあります。
*1「漢方薬定点観測調査結果報告書」2012年4月27日ツムラ資料
西洋医学と漢方医学が融合し広がった日本の医療
漢方医学がおかれた現状は、その成り立ちと西洋医学との関係を知ることでさらに理解できると思います。
漢方は、治療に対する人間の体の反応を土台に体系化した医学です。古代中国に発するこの経験医学が日本に導入されたのは、5~6世紀頃。日本の風土、気候や日本人の体質に合わせて独自に発展し、日本の伝統医学となりました。17 世紀頃、大きく発展して体系化され、現代へと継承されています。 “漢方”という名称は、日本へ伝来した西洋医学の“蘭方”と区別するためにつけられたものです。その後、西洋医学と融合し、まさに漢方は日本独自の医学となりました。中国では漢方薬を処方する伝統医学“中医学”の医師は、西洋医学の医師とは異なります。西洋医学の医師が漢方薬を処方する国は日本以外にはありません。漢方薬は、医療用漢方製剤として1967年に国に認められてから、現在は漢方薬の148処方に健康保険が適用されています。
このように西洋医学中心となった医療の中で、漢方医学も広がってきた歴史があります。例えば、血圧を下げる、細菌を殺す、精密検査をするなど、西洋医学の得意分野では西洋医学で対応する。西洋医学では対応しにくい不定愁訴や検査には表れにくい不調は、漢方医学で治療する。こうすることで治療の幅が広がることから、医師が日常診療で漢方薬を使うケースも増えてきました。実際に両者を併用することで有効であったケースが数多く報告され、漢方薬を使用した経験のある日本の医師は8割に上っています(*2)。
*2「漢方薬使用実態・意識調査2012 調査対象:日経メディカルONLINE登録医師・日経メディカル開発」より
イラスト/堀川理万子
後編では、エビデンスのある漢方についてご紹介します。