遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と診断されたハイリスクの人は、今後どのような検診を受ければいいのでしょうか? 医療ジャーナリスト増田美加さんがわかりやすくお伝えします。
お話を伺ったのは
増田美加さん
Mika Masuda
1962年生まれ。女性医療ジャーナリスト。35年にわたり女性の医療、ヘルスケアを取材。自身が乳がんに罹患してからは、がん啓発活動を積極的に行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』(講談社)など多数
戸﨑光宏さん
Mitsuhiro Tozaki
相良病院放射線科部長、昭和大学医学部放射線医学講座客員教授。放射線医師として、乳房を専門に画像診断に携わる
乳がんのハイリスクはHBOCだけではない
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)という遺伝性のがんの人への予防的治療が、20年春、保険適用になりました。
HBOCは、BRCA1、またはBRCA2という遺伝子の病的な変異が原因で、乳がんや卵巣がんを高いリスクで発症する遺伝性のがんのひとつです。アンジェリーナ・ジョリーさんもHBOCを告白し、話題となりました。
「日本では乳がんのハイリスク、すなわち罹患リスクの高い人はHBOCの方だけのようにとらえられていますが、それは最大の誤解です。実際には、乳がん術後の人、血縁に乳がんや卵巣がんの方がいる人などもハイリスクに入る可能性があります」
と戸﨑光宏先生。高濃度乳房の人も、ハイリスクに入るのでしょうか?
「20年に発表された日本の研究(前回参照)でも、高濃度乳房の人は乳がんのリスクがあることがわかってきましたが、ハイリスクかどうかは、さらに検討する必要があります。閉経後でBMI値が高く、高濃度乳房の人は、今後ハイリスクグループに入る可能性はあります。
しかし日本では、どのような人がハイリスクに入るのか、中間リスク、ローリスクにはどんな人が入るのか、といった検討すらまだできておらず、これからといった段階です」
では、HBOCの人、高濃度乳房や乳がん術後の人は、どのような乳がん検診を受ければいいのでしょうか。
「現在、HBOCと診断されたハイリスクの人の乳がん検診は、乳房MRI検査が有効であるとして行われています。しかし日本ではまだ、HBOC以外では乳房MRI検査を行なっている施設は非常に少ないのが現状です。高濃度乳房や乳がん術後の人の中には、おそらくMRIを追加することが有効な方がいると思われます」
ハイリスクの人への乳房MRI検査とは?
乳房MRIは腕などの静脈に造影剤を注射して行う検査で、最も乳がんの発見率の高い画像診断。しかし、まだ日本では行う施設や診断できる医師が少ないのが現状です。「一般社団法人乳腺画像・研究診断支援グループ」では、リスクの高い人を対象にしたMRI検査実施施設を紹介しています。
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画像、資料提供:戸﨑光宏先生、NPO法人乳がん画像診断ネットワーク
そもそも、高濃度乳房かどうかの結果通知さえ、全員に行われていない日本。マンモグラフィ検診を受けたら、結果を受け取るときに、高濃度乳房かどうかを医師や施設に、自分で確認しなくてはなりません。そしてもし高濃度乳房であれば、現状では超音波検査をプラスすることが大切です。
さらに今後は、リスクに応じてMRI検査を併用するなど、これまでのようなマンモグラフィだけの画一的な検診ではなく、一人一人のリスクに合わせた個別化検診が進んでいく必要があると思います。
イラスト/堀川理万子
つづく。