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30代~50代に増えている難聴。自分でチェックする簡単な方法とは?

視力に比べて、聴覚の衰えは感じにくいものです。しかし、個人差はありますが40歳を過ぎた頃から「聞こえにくさ」を自覚する人が増えてきます。最近、人の話を聞き返すことが多くなった人は要注意! 聴覚を健康に保つために、まずは「聞く」ことのメカニズムについて、耳鼻咽喉科医で医学博士の石井正則先生に伺いました。

[教えていただいた方】

石井正則
石井正則さん
耳鼻咽喉科医・医学博士
公式サイトを見る

JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長。東京慈恵会医科大学大学院卒業とともに、米国ヒューストン・ベイラー医科大学耳鼻咽喉科へ留学。帰国後、東京慈恵会医科大学附属病院耳鼻咽喉科医長、同大学准教授を経て現職。岐阜大学臨床教授を併任。専門は耳鳴り、めまい、難聴、宇宙酔い。日本耳鼻咽喉科学会代議員、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙医学審査会委員。ヨギー・インスティテュート認定インストラクターであり、ヨガのポーズと呼吸の応用で、耳鳴りやめまいの軽減法を提唱している。著書に『70歳から難聴・耳鳴り・認知症を防ぐ対処法』(さくら舎)など多数。 石井正則先生著書

 

難聴が30代~50代に増えている

最近、人の話が聞き取れない、それに伴いたびたび聞き返す、テレビの音が大きいと指摘された、ということはありませんか? 「難聴」は高齢者の問題で、まだ自分には関係ないと思いがちですが、最近では30代~50代の働き盛りの、特に女性に増えているというのです。

 

「それにはストレスによる自律神経の乱れが、耳にも影響していると考えられます。このストレス過多の状態は子ども世代にも広がっていて、そのせいか子どもにも難聴や耳鳴りの症状が出るケースが少なくありません」(石井正則先生)

 

そもそも「音」とはどういうもので、「聞く」とはどういうことなのでしょうか?

 

「『音』はなんらかで発生した振動(揺れ)が、空気中を伝わることで生まれる目に見えない『波(音波)』です。水に何かを落としたときに広がる波紋に似ています。人の声や物が発する音が違って聞こえるのは、この波の形が違うからです。

 

そして音の高さは振動の回数で決まります。空気が1秒間に振動する回数(波の数)を周波数といい、Hz(ヘルツ)で表します。1秒間で1回振動することを1ヘルツ、10回だと10ヘルツになります。振動が早く、1秒間に波がたくさん発生することを『周波数が高い』といい、音は高くなります。一方、波が少ないことを『周波数が低い』といい、音は低くなります。

 

男性の声は約500ヘルツ、女性の声は約1000~2000ヘルツ、赤ちゃんの泣き声は約2000~4000ヘルツ。音階のドの音は約4000ヘルツです。

 

また音の強さ(大きさ)は振動による空気の圧力の変化量で決まります。これを音圧といい、dB(デシベル)で表します。数値が大きいほど大きな音になります。通常の会話は約40~60デシベル、電車の中は約80~100デシベル、電車の高架下が100デシベル以上になります。

 

聴覚の良し悪しは、聞き取れる音の「高さ=音域」と「強さ=音量」で判断されます。通常、人が聞き取れる音域は20~2万ヘルツ、音量は小さな音の範囲が0~30デシベル、最小から最大音量では0~140デシベルです。ただし、140デシベルは超強音量で内耳の細胞が破壊される可能性がある危険な音量になります。

 

一般的に耳の老化は高音域から始まり、モスキート音といわれる1万7000ヘルツくらいの高音は、20代以降になると聞こえない人が増えてきます。つまり、聴力の衰えは20代から始まっていることになります。しかし、聴力の衰えは個人差が大きく、40代で聞こえにくさを感じる人もいれば、80代まで自覚しない人もいます」

 

では、聞こえにくくなるのは、耳にどんなことが起こるからなのでしょうか?

 

「まずは耳の構造、どうやって『聞く』ことができるのかを説明しましょう。

耳は大きく3パートに分かれていて、私たちが耳と表現するものは『耳介(じかい)』といいます。入り口から鼓膜までを『外耳(がいじ)』、鼓膜の奥の空間を『中耳(ちゅうじ)』、その奥を『内耳(ないじ)』といいます。

 

耳 外耳、中耳内耳の解剖図

外耳は音を集める集音器で、中耳の鼓膜から耳小骨(じしょうこつ)を通る過程で音を増幅したり減退させたりします。そして内耳にある『蝸牛(かぎゅう)』には振動を伝える基底板という器官があり、その上に毛の生えた何万もの数の『有毛細胞(ゆうもうさいぼう)』が並んでいます。外から入った音は、この毛が振動で揺れることで感知し、その情報を聴神経が電気信号に変えて脳に伝えています。

 

年齢を重ねると、高い音から聞こえにくくなります。その理由はこの蝸牛の構造と関係があります。

 

蝸牛の中の基底板は音の高さによって振動する場所が違い、高い音ほど入り口で、低い音は奥のほうで振動します。入り口付近では低い音で振動はしないのですが、音の高い低いにかかわらず、常に刺激だけは受けています。そのため、高い領域を感知する有毛細胞の毛が先に抜けていくことになります。難聴の初期の段階で高い音が聞こえにくくなるのはこのためです」

 

高い音が以前よりも聞こえにくくなったら、蝸牛入り口の有毛細胞が脱毛しつつあるのかも!?  一度脱毛すると、二度と再生しない(=元に戻らない)そうなので、早めの対処が必要です。

 

大音量のライブ、長時間のイヤホンやヘッドホンは要注意!

ところで、大音量のライブなど、大きな音にさらされたあと聞こえが悪くなり、その後しばらくすると元に戻ったという経験はありませんか? これはいったいなぜなのでしょうか?

 

「外からの音があまりにも大きく危険だと判断すると、中耳にある耳小骨に付着する筋肉が収縮して、受ける音量を抑えます。それにより、しばらく聞こえが悪くなりますが、時間がたつとその筋肉の緊張が解けて、また聞こえるようになります。

 

通常は12時間以内には回復するのですが、ひと晩寝ても回復しない場合はすぐに耳鼻咽喉科を受診してください。急性音響性難聴の可能性があります。

 

こうした音響性難聴は、以前は主に長時間大きな音にさらされる職場、例えば工事現場や飛行場などで働く人に多く見られました。しかし、防音用ヘッドホンなどで耳を保護する対処が促進され、その件数は減っています。

 

一方で、最近増えているのが、ライブやイヤホン、ヘッドホンなどで大音量の音楽を聴くことによる弊害です。耳のすぐ近くで音が鳴る楽器、例えばバイオリンやウッドベースなどを演奏する人に多く見られます。

また、イヤホンやヘッドホンで連続して1時間以上音楽を聴く人も注意が必要です。音量を絞り、1時間聴いたら10~15分程度の休憩をすることが大切です」

 

「指こすり試験」で聴力をセルフチェック!

急に聴力が心配になった人は、自分でチェックする方法があります。それは「指こすり試験」です。

 

「まず、右腕を肩の高さで、右方向に真っすぐに伸ばしてください。この耳元から50~60㎝離れた場所で、親指と中指の腹を軽くこすり合わせます。続いて、左腕を左に伸ばして同様に行います。その乾いたわずかな「カサカサ」という音が聞こえますか? ※左右どちらから行ってもOKです。

 

この音がだいたい2000ヘルツで、女性の高い声とほぼ同じです。これが聞こえれば正常です。聞こえない場合は、すでに難聴が始まり、会話にも支障が出ている可能性があります。手を耳元まで近づけても、指をこする音が聞こえない場合は難聴がかなり進んでいます。

 

通常、左右差はないのですが、もしも突然、聞こえ方が左右で違うと感じた場合は、突発性難聴など、別の病気の可能性があるので、すぐに耳鼻咽喉科を受診してください。

 

ちなみに、相手の言葉が部分的に聞き取れないといったことは、話す側の滑舌の悪さや聞く側の注意力の散漫さなどもあるので、必ずしも聴力と関係ないこともあります」

 

いかがでしたか? 難聴は認知症の最大のリスク要因ともいわれています。今から耳の健康に注意を払うことは、将来の体や脳の健康を保つためにもとても大切です。

 

 

イラスト/かくたりかこ 取材・文/山村浩子

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