【教えていただいた方】
日本産科婦人科学会産婦人科専門医。日本周産期・新生児医学会周産期専門医(母体・胎児)。名古屋大学情報文化学部を卒業後、群馬大学医学部に編入。沖縄で初期研修を開始し、2013年より現職。世界遺産15カ国ほどを旅した経験から、母子保健に関心を持ち、産婦人科医に。著書に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社)、『産婦人科研修ポケットガイド』(金芳堂)、『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)ほか。NPO法人女性医療ネットワーク理事。
年間約1万人の女性が子宮頸がんにかかっている!
日本女性は子宮頸がんにかかる人も、亡くなる人も減っていません。1年間に約1万人の女性がかかり、約2900人の女性が亡くなっているのです。
35歳以降から更年期世代が最も罹患率が高い年代で、OurAge世代が気をつけなければならない女性のがんのひとつ。それだけでなく、妊娠・出産世代の20代、30代の子宮頸がんは1990年と2015年を比べると約1.5倍に増えていて、今も増え続けています*。
*国立がん研究センター「がん情報サービス がん種別統計情報 子宮頸部」2015年、2019年、2020年
【子宮頸がんは40代、50代が発症のピーク。20代、30代も1.5倍に増加!】
↑40代、50代のOur Age世代の罹患率が高い子宮頸がんですが、HPVに感染してからがんになるまで数年~数十年かかります。性交渉でウイルスに感染する可能性があるのは10代からです
グラフ出典/国立がん研究センター「がん情報サービス がん種別統計情報 子宮頸部」2019年
HPVワクチンキャッチアップ無料接種がもうすぐ終了! 9月末までに1回目を!
特に今、情報を伝えたいのが、10代、20代の娘を持つ女性です。子宮頸がんは、がんの中では珍しくワクチンで予防できるがんです。全国の自治体では、HPVワクチンの定期接種(無料接種)の対象となる人(小学校6年生から高校1年生の女性)には、予診票などを個別に送付しています。
この年齢を越えてしまった人でも今、1997年4月2日~2008年4月1日生まれの女性(2024年に16歳~27歳)に対して、HPVワクチンの接種を無料で受けられるようになる措置(キャッチアップ接種)が厚労省から発表になり、国のキャッチアップ接種が行われています。
HPVワクチンが無料接種できるのは2025年3月までです。この時期を過ぎると有料になってしまいます。有料になると、選びたいワクチンの種類によっては、3回で10万円くらいかかります。
この年代で、過去にHPVワクチンの接種を一度も受けていない、あるいは、1回または2回接種したことがある人は、2、3回目がまだであれば追加接種を無料で受けられます。1回も接種していない人は、1回目を9月末までに受けないと、2025年3月までに3回目までを受け終わりません。
「無料接種できる期間を過ぎないうちに、該当年齢の方は早めに接種を考えてください。無料接種できるHPVワクチンは、3種類(サーバリックス(2価)、ガーダシル(4価)、シルガード9(9価)*)あります」 と柴田綾子先生は言います。
*「2価」は子宮頸がんの主な原因となるHPV16型、18型のふたつが予防できるワクチン。
「4価」はHPV16型、18型と、良性の尖圭コンジローマの原因6型、11型の4つが予防できるワクチン。
「9価」はHPV16型、18型、31型、33型、45型、52型、58型の7種類と、6、11型の尖圭コンジローマの9つが予防できるワクチン。
がん検診で早期発見できても将来の妊娠・出産に影響が!
「子宮頸がん検診は、がんの早期発見と早期治療を目的に行われるもので、がんの発症を防ぐことはできません。子宮頸がんの発症を防ぐには、やはりHPVワクチンを接種することが大切です」
しかしながら子宮頸がんの中には、ワクチンでは防げないウイルスタイプによるものもあります。
「ですからワクチンだけでも不十分で、検診と組み合わせることが必要です。子宮頸がんを予防するには、ワクチンと検診は車の両輪。どちらも大切なのです」
万が一、子宮頸がんにかかったとしても、子宮頸がん検診で早期発見すれば子宮は残せて、妊娠・出産も可能といわれています。しかし、将来、早産や流産などのリスクがあることはあまり知られていません。
「がん検診で子宮頸がんが見つかったら、手術が必要です。超早期発見で、前がん病変(異形成)やごく初期の子宮頸がんで発見できたとしても、細胞の変化した部分を切り取る子宮頸部の円錐切除術を行うことになります。この円錐切除術を行った場合、将来、妊娠・出産をする際に、早産や流産などが起こる可能性が高まります。
また、子宮頸がん検査は100%ではなく、がんや異形成を見逃してしまう可能性もあります。ですから、HPVワクチン接種で予防することも大事なのです」
なぜ若い世代が子宮頸がんにかかりやすい?
子宮頸がんは若い世代の女性に多いがんです。偏見や遊んでいるという間違ったイメージから、子宮頸がんを公表できず、医療機関に相談できない人もいます。「セックスをたくさんしている人が感染する」「特定のパートナーとだけ性交渉をするので感染しない」ということはありません。
「子宮頸がんは、子宮の入り口の子宮頸部にできるがんです。原因は、性交渉によってHPV(ヒトパピローマウイルス)に持続的に感染することです。HPVは決して珍しいウイルスではなく、多くの女性と男性が一生に一度は感染するといわれる、ごくありふれたウイルスです。性交渉の経験がある人の80%は、知らないうちにHPVにかかったり、治ったりしています」
通常はウイルスに感染しても、異物を排除する免疫機能によって自然に排除されるのですが、約10%の人は排除されずに、長期間感染が続く場合があり、ウイルスに感染した子宮の入り口の細胞ががん化することがあります。なぜ持続的に感染する人と、自然に排除できる人がいるのかはわかっていません。
通常、HPVに感染してから子宮頸がんになるまで、数年から数十年かけて、ゆっくりと増殖します。がんが発見される前段階として、子宮頸部にがん化する可能性がある細胞が増えていきます。これをがんになる前の「異形成」といいます。
10代で初めての性交渉を経験してHPVに感染した場合、異形成やがんが見つかり出すのは20代になった頃から。そして30代、40代でかなり増えていきます。就労や結婚、出産、子育てなど、女性にとって大きなライフイベントを迎える時期にかかることもあり、女性の人生に大きな影響を与える可能性があるのが子宮頸がんなのです。
過去に一度でも性交渉の経験がある人ならば、誰もが感染するリスクがあります。たとえ一人としかセックスをしたことがなくても、その人が過去にほかの人と性交渉をして、感染している可能性はないとは言えません。
45歳まではHPVワクチンを接種するメリットがある
1997年4月1日以前に生まれた女性は、無料接種の時期を過ぎてしまっていますが、HPVワクチンを接種するメリットはあり、子宮頸がんを予防するためにHPVワクチンは有効です。無料接種の対象外の年齢の人は、自己負担になりますが、もちろん接種は可能です。
「45歳までは接種の効果が報告されていますので、新しいパートナーができる人は、ぜひ前向きに考えてみていいでしょう。私もHPVワクチンを接種しています。仮に45歳を過ぎてもHPVワクチン接種は可能です。
また現在、男性にも4価(ガーダシル)のHPVワクチンが薬事承認されています。男性も肛門がん、咽頭がんの予防になります。費用は自己負担ですが、東京都など自治体によっては費用の一部を助成しています。ぜひ接種を検討してみてください」
費用は、男女ともに自己負担の場合、クリニックによって多少のばらつきはありますが、HPV2価ワクチン、4価ワクチンは1回15,000~17,000円×3回。9価ワクチンは1回33,000~36,000円×3回が必要です。接種場所や接種方法は、各自治体に問い合わせるといいでしょう。
柴田綾子先生が理事を務めるNPO法人女性医療ネットワークで、HPVワクチンの相談や実際に接種のできる全国の医療機関リストを作りました。OurAge世代の子どもたちの未来のために、いま私たちができること。ぜひ、将来の子どもたちの健康のために、HPVワクチンを子どもたちと考えてみてください。
【NPO法人女性医療ネットワークのHPVワクチンと検診の相談医療機関リスト】
https://cnet.gr.jp/hospitallist/
写真/Shutterstock 取材・文/増田美加