「足のつり」は、疲労や脱水、冷えなどからくる「筋肉の過度な収縮」が大きな原因です
体のさまざまな痛みに悩まされるようになる40代、50代。
なかでも痛すぎてつらいのは「足のつり」です。
筋肉が突然収縮し、激しい痛みを伴って痙攣(けいれん)を起こす症状で、ふくらはぎ、足の裏や足指、太ももなどでも起こります。
足のつりは、どのような原因で起こるのか、今津嘉宏先生に伺いました
「足がつるのは、筋肉が過度に収縮することが原因です。
筋肉が過度に収縮する誘因は、疲労、脱水、冷えなどです。
山登りやゴルフをした日など、普段よりも脚に負担がかかったときに、足がつることがよくあると思いますが、これは肉体的な負荷がかかることで、筋肉が過度に収縮してしまうからです。
強い痛みや、場合によってはしびれを伴うこともあります。
発汗や脱水による水分不足や、ビタミン、電解質(カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのミネラル)、栄養などの不足が、きっかけになる場合もあります」(今津先生)
「足のつり」に用いられる代表的な漢方薬は「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」
では、漢方医学では、足のつりをどのようにとらえるのでしょうか?
「漢方医学では、足のつりは、全身的な変化のうちのひとつととらえる場合と、急性疾患の症状ととらえる場合があります。
全身の冷え(寒熱の寒)が原因の場合は、体を温める漢方薬を、疲労が原因(気血水の気虚)の場合は、体の疲れを取る漢方薬を使います。
また、急性疾患(六病位の太陽病)の場合は、すぐに効果が表れる漢方薬を使います」
「芍薬甘草湯」とはどんな漢方薬ですか?
「足のつりに最もよく用いられるのが芍薬甘草湯です。
芍薬甘草湯は、芍薬と甘草のふたつの生薬から成る漢方薬です。
芍薬は、神経と筋肉をつなぐカルシウムイオンを調節するペオニフロリンが主成分です。
また、もうひとつの生薬の甘草の主成分はグリチルリチン酸。
グリチルリチン酸は、カルシウムイオンの力を借りてカリウムイオンを調節し、筋肉を弛緩させます。
このふたつの生薬の効果で、足のつりが改善するのです」
「芍薬甘草湯」を用いる場合、足がつってから飲めばよいのでしょうか? それとも、予防的に飲むほうがよいでしょうか?
「漢方薬は、構成する生薬の種類が少ないほど即効性があるとされていて、その代表例が、ふたつの生薬から成る芍薬甘草湯です。
臨床研究では、内服して15分ほどで効果が表れるとされていますが、数分で症状が改善することもあります。
また、芍薬甘草湯は、内服してから4〜6時間効果が持続します。
つまり即効性があり、持続性もある便利な漢方薬なのです。
ですから、足がつってから服用してもよいですし、足がつりそうだなと思ったときは予防的に飲んでおくのもよいです。
寝ているときに足がつる人は、就寝時に内服するのがおすすめです」
■足のつりに効く代表的な漢方薬
●芍薬甘草湯
こむら返り(足の筋肉がつること、特にふくらはぎの筋肉が痙攣すること)など、筋肉の痙攣に用いられる漢方薬。
ほかに、筋肉痛、神経痛、関節痛、腹痛、生理痛などにも用いられます。
「芍薬甘草湯」以外には、どんな漢方薬が効果的?
芍薬甘草湯以外で、足のつりに効く漢方薬にはどんなものがあるでしょうか?
「全身の冷え(寒熱の寒)が原因の場合は、しょうがを含む漢方薬のような、体を温める漢方薬を使います。
生薬には、しょうがを乾燥させた生姜(しょうきょう)と、しょうがを蒸して乾燥させた乾姜(かんきょう)があります。
体全体を温める場合には、乾姜を含んだ漢方薬を使います。
柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、人参湯(にんじんとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、桂枝人参湯(けいしにんじんとう)、大防風湯(だいぼうふうとう)、大建中湯(だいけんちゅうとう)、当帰湯(とうきとう)、苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)、黄連湯(おうれんとう)などです。
疲労(気虚)が原因の場合は、体の疲れを取る漢方薬を使います。
気虚を改善するには、人参を含んだ漢方薬を使います。
冷えが原因の場合と同じものが多く、半夏瀉心湯、人参湯、半夏白朮天麻湯、桂枝人参湯、大防風湯、大建中湯、当帰湯、黄連湯などです。
急性疾患(六病位の「太陽病」)として起こる足のつりには、すぐに効果が表れる漢方薬を使います。
葛根湯(かっこんとう)、桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)、麻黄湯(まおうとう)、桂枝湯(けいしとう)などです。
それから、附子(ぶし/トリカブトの塊根を干したもの)を含んだ漢方薬を使う場合もあります。
前述した桂枝加朮附湯のほか、八味地黄丸(はちみじおうがん)、真武湯(しんぶとう)、大防風湯、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)などです。
何が原因かは自分で見分けることは難しいので、漢方に詳しい医師に相談しましょう。
まずは市販の芍薬甘草湯から試してみるのもよいと思います」
足のつりを防ぐには、レッグウォーマーなどで脚の冷えを防いだり、寝る前にコップ1杯の水を飲んで脱水を防いだり、毎日の食事で魚介類や海藻類、ナッツ類、野菜など、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのミネラルが多い食品をしっかりとることもポイントです。
漢方薬の服用とともに心がけましょう。
■編集部セレクト/
足のつりを改善したいと思ったとき、市販の漢方薬から選ぶこともできます
上で紹介したように、何が原因かによって、さまざまな漢方薬の選択肢があるため、病院に行って医師に診断してもらうのがベストです。
ただ病院にはなかなか行けない、行く時間がない…といった場合の対策として、ドラッグストアなどで買える市販の漢方薬にはどんなものがあるか、チェックしておきましょう。
●芍薬甘草湯
ツムラ漢方芍薬甘草湯エキス顆粒(しゃくやくかんぞうとう)(第2類医薬品) 20包(10日分) ¥2,640(メーカー希望小売価格)/ツムラ
「クラシエ」漢方芍薬甘草湯エキス顆粒(第2類医薬品) 12包(4日分) ¥1,341(メーカー希望小売価格)/クラシエ薬品
【教えていただいた方】
「芝大門 いまづ クリニック」院長。藤田保健衛生大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科・副医長、慶應義塾大学医学部漢方医学センター助教、北里大学薬学部非常勤講師などを経て、2013年に「芝大門 いまづ クリニック」(東京都港区芝大門)を開業。日本外科学会認定医・専門医。日本消化器病学会専門医。日本東洋医学会専門医・指導医。西洋医学と東洋医学に精通し、科学的見地に立って漢方による治療を実践。おもな著書に『健康保険が使える漢方薬の事典』(つちや書店)、『まずはコレだけ! 漢方薬』(じほう)などがある。
写真/Shutterstock〈イメージカット〉 取材・文/和田美穂