漢方医学では「シミ」をどう診断する?
年齢を重ねると、シミが目立ってくるものですが、漢方医学ではシミをどのように診断するのかを今津嘉宏先生に伺いました。
「漢方医学では、まず目で見て、シミの状態を確認します(望診)。
次に、直接、肌に触れて皮膚の状態を確認します(切診)。
人それぞれ、肌の性質は異なり、色白、乾燥肌、汗をかきやすいなどと個性があり、そこにできるシミも人によって違います。
例えば、頰にできるシミも、ベースになる肌の性質によってでき方が違います。
そこで、漢方医学では、その人の体質=証(しょう)を考えます。
次に、陰陽、虚実、寒熱、気血水、六病位(ろくびょうい/病気の状態)をチェックし、どんな状態のシミなのかを判断します(それぞれの診断法の詳細は、この連載の第1回を参照)。
例えば、よつばいになって背中の上から日光を浴びたときに、影になる部分は“陰”で、胸やお腹などにできるシミは、陰の性質を持っています。
指でシミを触ったとき、カサカサしていて、薄いシミは、“虚”となります。
また、触れたときに熱を持っているかどうかで、寒熱を判断し、いつ頃からできたシミなのかを確認して、六病位を決めていきます」(今津先生)
六病位の決め方は?
「この連載の第4回でもお話ししましたが、六病位とは、病態の変化を6つの時期に分類したもので、病態の進行度に応じて、太陽病(たいようびょう)、少陽病(しょうようびょう)、陽明病(ようめいびょう)、太陰病(たいいんびょう)、少陰病(しょういんびょう)、厥陰病(けっちんびょう)の6段階に分けます。
例えば、虫刺されは、蚊などに刺されて、わずかな痛みを感じ、紅(あか)くかゆみが出てくるのが太陽病。
紅(あか)みが増し、少し腫れてきて、かゆみも出てくるのが少陽病。
かゆみが一日中続き、かゆくて夜も眠れなくなってくるのが陽明病。
かき壊してしまい、カサブタができ、シミとして残ったり、かゆみを伴った傷あとが残るのが太陰病。
かゆみはなくなるものの、少し厚みを持ったシミとなるのが少陰病。
蚊に刺された跡が残ってしまい、頑固なシミになるのが厥陰病。
この六病位のどこに当てはまるかによって、用いる漢方薬が変わります」
気血水の状態をチェックして、最適な漢方を選択します
六病位を決めたあと、次にチェックするのが「気血水」の状態なのだそう。
「“気”が不足している人は、精神的トラブルや肉体的トラブルを抱えていることが多く、気を補う“人参湯(にんじんとう)類”の漢方薬を用いることが多いです。
例えば、家事、仕事、親の介護など、何らかの原因で心身ともに疲れているような状況で、顔のシミが気になるという人に人参湯類を使います。
人参湯類の基本となる漢方薬は、“人参湯”で、ほかに、四君子湯(しくんしとう)、六君子湯(りっくんしとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などがあります。
胃腸の調子を整えて体調を改善していくので、数週間ほどで徐々にシミが薄くなりやすいです」
■気(き)が不足していて、シミが気になる人に
●人参湯
胃腸の不調があることが選択のヒントになります。
消化機能を回復するために用いられます。
食欲不振、胃痛、胃もたれ、胃腸が弱い、疲れやすい、虚弱、手足の冷え、頻尿、めまい、動悸などに。
●四君子湯
胃の不調があることが選択のヒントになります。
胃もたれ、食欲不振、元気がない、全身の無力感、息切れ、顔色が悪いなどの症状に。
●六君子湯
精神的要因があることが選択のヒントになります。
胃と脳に作用して食欲を増す作用があります。
食欲不振、胃部膨満感、全身倦怠感、めまい、不安、不眠、抑うつ状態などに。
●補中益気湯
胃腸障害と疲労感があることが選択のヒントになります。
さまざまな原因による消化機能の衰えや倦怠感などに用いられます。
■血(けつ)に異常があり、シミが気になる人に
「一方、瘀血(おけつ/血の滞り)や血虚(けっきょ/血の不足)など、“血”に異常がある場合は、月経周期との関係と考えられるので、この場合は、四物湯(しもつとう)類が基本となります。
肌の手入れを怠ってしまったり、日焼け、かぶれなどのほか、女性ホルモンの影響でシミができたときに、四物湯類を使います。
四物湯類の基本となる漢方薬は四物湯で、ほかに、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)などがあります。
女性ホルモンを調節することで体調を改善し、数週間で徐々にシミを薄くしていきます」
●四物湯
瘀血、あるいは血虚が選択のヒントになります。
皮膚トラブルでは、シミ、乾燥、皮膚掻痒感(そうようかん)、しもやけなどに用いられます。
そのほか、婦人科疾患や貧血などにも用いられます。
●当帰芍薬散
冷えとむくみがあることが選択のヒントになります。
皮膚の症状では、シミのほか、皮膚にツヤがないなどの症状に用いられます。
婦人科系疾患に用いられることが多いです。
●十全大補湯
血虚、気虚に用いられます。
手足の冷えと疲労感があることが選択のヒントになります。
皮膚トラブルでは、シミのほか、アトピー性皮膚炎、皮膚粘膜乾燥萎縮、慢性化膿性皮膚疾患などに用いられます。
病後の体力低下などにも。
■水(すい)に異常があり、シミが気になる人に
「また、水に異常がある場合は、二陳湯(にちんとう)類の漢方薬が基本となります。
体の不調から朝起きたときに手足のむくみを自覚したり、夕方になると足がむくむときに、二陳湯類を使います。
二陳湯類の漢方薬には、二陳湯、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)などがあります。
胃腸の調子を整えて、水分の代謝を調節することで、数週間で徐々にシミが薄くなっていきます」
●二陳湯
水滞(水の滞り)が選択のヒントになります。
水滞は、体の水がうまく働かず、脱水症状が起きたり、むくんだりすること。
めまい、動悸、頭痛、耳鳴り、悪心(おしん/吐き気)、口渇(こうかつ)、立ちくらみ、朝のこわばり、急性・慢性胃炎などに用いられます。
●半夏白朮天麻湯
胃腸虚弱が選択のヒントになります。
食欲不振、元気がない、胸腹部が張って苦しい、めまい、頭痛、冷え症、自律神経失調症などに用いられます。
このように、シミといっても、用いられる漢方薬は、その人の体の状態によってさまざま。
美白コスメを使ってもなかなかシミが改善しないという人や、レーザー治療をしても繰り返しシミができるという人などは、漢方薬を試してみるのもよいと思います。
ただ、自分で選ぶのはなかなか難しいので、漢方薬に詳しい医師に相談するのがおすすめです。
また、下では市販の漢方薬についても紹介します。
■編集部セレクト/
肌のシミを改善したいと思ったとき、市販の漢方薬から選ぶこともできます
上で紹介したように、人によって、その人の体の状態によって、さまざまな漢方薬の選択肢があるため、病院に行って医師に診断してもらうのがベストです。
でも病院に行く時間がない…といった場合の対策として、ドラッグストアなどで買える市販の漢方薬にはどんなものがあるか、チェックしておきましょう。
●当帰芍薬散
ツムラ漢方当帰芍薬散料エキス顆粒(とうきしゃくやくさん)(第2類医薬品) 20包(10日分)¥2,640(メーカー希望小売価格)/ツムラ
<シミの悩みには>
特に生理周期に伴って悪化するシミに適しています。
「血」が不足し、十分な栄養が肌の隅々に届かなくなると、肌の状態が悪くなります。
手足の先や足腰が冷える人、むくみが気になる人の生理不順や生理痛にもおすすめです。
当帰芍薬散は、栄養を届ける「血」を補い、巡らせるとともに、体内の水分バランスを整えて、シミのほか、むくみや頭重、めまいなどの症状を改善します。
●桂枝茯苓丸
ツムラ漢方桂枝茯苓丸料エキス顆粒A(けいしぶくりょうがん)(第2類医薬品) 20包(10日分) ¥2,640(メーカー希望小売価格)/ツムラ
<シミの悩みには>
特に生理周期に伴って悪化するシミやニキビなどの肌トラブルに適しています。
「血」が滞り、十分な栄養が肌の隅々に届かなくなると、肌の状態が悪くなります。
のぼせる(顔はほてる)のに足は冷える「冷えのぼせ」の人の生理痛や生理不順にもおすすめです。
桂枝茯苓丸は、滞った「血」を巡らせ、シミやニキビなどの肌トラブルを改善します。
「クラシエ」漢方桂枝茯苓丸料加薏苡仁エキス錠(第2類医薬品) 48錠(6日分) ¥2,288(メーカー希望小売価格)/クラシエ薬品
シミ、ニキビを体の内側から改善したい人に。
「桂枝茯苓丸料加薏苡仁」は、「桂枝茯苓丸」に、皮膚のあれなどによく使われる薏苡仁(ヨクイニン/ハトムギ)を加えた処方です。
のぼせや冷えを伴う月経不順、シミ、ニキビなどに効果があります。
飲みやすいフィルムコート錠です。
【教えていただいた方】
「芝大門 いまづ クリニック」院長。藤田保健衛生大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科・副医長、慶應義塾大学医学部漢方医学センター助教、北里大学薬学部非常勤講師などを経て、2013年に「芝大門 いまづ クリニック」(東京都港区芝大門)を開業。日本外科学会認定医・専門医。日本消化器病学会専門医。日本東洋医学会専門医・指導医。西洋医学と東洋医学に精通し、科学的見地に立って漢方による治療を実践。おもな著書に『健康保険が使える漢方薬の事典』(つちや書店)、『まずはコレだけ! 漢方薬』(じほう)などがある。
写真/Shutterstock〈イメージカット〉 取材・文/和田美穂