飲みすぎ・食べすぎや、胃粘膜の炎症、細菌感染など「胃の不調」の原因はさまざまです!
「胃の不調の原因はさまざまです。
食べすぎ・飲みすぎが原因で起こる胃もたれや、胃粘膜に炎症が生じて胃痛や胸やけなどが起きる胃炎、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が原因で起こる胃潰瘍、機能性ディスペプシア(胃の検査で異常が見つからないにもかかわらず、胃の痛みやもたれなどの症状が慢性的に続く消化器疾患。上腹部不快感が続くのが特徴)などのような良性の疾患のケースが多いですが、胃がんのような悪性疾患の場合もあります。
胃がんは初期症状がないので注意が必要です。
また、精神的ストレスや寝不足、肉体疲労などのほか、熱い飲食物などのような刺激物が原因で胃の調子が悪くなることもあります。
胃に不調がある場合は、まずは消化器内科などで検査を受けて、病気や原因を調べることが大切です」(今津嘉宏先生)
1)食べすぎ・飲みすぎによる「胃の不調」には?
胃の不調にはどのような漢方薬を用いるのでしょうか?
「まず、食べすぎや飲みすぎによる胃の不調や胃もたれなどがある場合、精神的ストレスが原因なら、漢方医学では“気”の異常と診断します。
そして柴胡(さいこ)、蘇葉(そよう)、桂皮(けいひ)のような気を整える生薬を含んだ漢方薬を使います。
例えば、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)などです。
また、飲み会続きなどからくる飲みすぎ・食べすぎで、胃に負担がかかって起こる胃の不調の場合も、“気”の異常と診断し、予防・治療として半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)や五苓散(ごれいさん)などの漢方薬が用いられます」
■よく用いられる漢方薬
●柴胡桂枝湯
精神的ストレスや肉体的ストレスなどが原因で起きる、体の炎症に用いられます。
消化器疾患では、胃痛、胃酸過多症、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、急性大腸炎、潰瘍性大腸炎など。
●半夏厚朴湯
気を整える働きがあり、消化器疾患では、神経性胃炎、食欲低下、機能性ディスペプシア、逆流性食道炎などに用いられます。
●半夏瀉心湯
消化器疾患では、慢性胃炎、胃下垂、神経性胃炎、機能性ディスペプシア、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群などに用いられます。
●五苓散
“気”とともに“水(すい)”のバランスも整える効果があります。
消化器疾患では、急性胃腸炎、嘔吐、下痢、腹痛などに用いられます。
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2)食欲低下、食事量減少、腹部膨満感、胃もたれには?
「年齢を重ねるにつれ、油物が苦手になってきたというような、加齢に伴う内臓の衰えが原因の場合も、“気”の異常と診断し、胃の働きを助けるために、人参湯類(にんじんとうるい/人参を主薬とする処方群のこと)の漢方薬を使います。
例えば、人参湯(にんじんとう)や六君子湯(りっくんしとう)などです。
また、すぐにお腹がいっぱいになってしまったり、腹部膨満感なども40代、50代に多い症状。
これも、胃の働きが悪くなり、消化力が低下して食事量が減少することで起きます。
漢方医学では、消化力は“気”のエネルギーと考え、気を調節する漢方薬を使います。
例えば、先に述べた六君子湯のほか、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などです。
そのほか、食べたものが長い間、胃の中に停滞することが原因で、胃がもたれたり、なかなかお腹が空かないといった症状が出ることもあります。
この場合も、気を調節する漢方薬を使います。
先に紹介した六君子湯のほか、茯苓飲(ぶくりょういん)などです。
胃酸の分泌が多いことが原因で、お腹が張って膨満感を感じる場合もあります。
この場合も、“気”を調整する漢方薬を用います。
例えば、小柴胡湯(しょうさいことう)、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などです」
■よく用いられる漢方薬
●人参湯
消化器機能を回復するために用いる漢方薬。
消化器疾患では、食欲不振、胃痛、胃もたれ、胃弱、軟便、下痢、腹痛、心窩(しんか)部痛、腹痛などに。
●六君子湯
人参湯と二陳湯(にちんとう)を含む漢方薬です。
胃と脳に作用して、食欲増進の効果があります。
消化器疾患では、食欲不振、胃部膨満感、悪心、嘔気(おうき/吐き気)、急性胃炎、慢性胃炎、機能性ディスペプシア、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、慢性胃腸炎、過敏性腸症候群、逆流性食道炎などに。
●補中益気湯
胃腸障害のほか、疲労感がある場合に用いられます。
消化器疾患では、慢性胃炎、ウイルス・細菌などの感染症など、さまざまな機能の低下による消化機能の衰えに。
●茯苓飲
胃の働きの低下を改善する漢方薬。
消化器疾患では、腹部膨満感、嘔気、胸やけ、上腹部がつかえて苦しい、胃炎、逆流性食道炎、機能性ディスペプシアなどに。
●小柴胡湯
さまざまな原因で発熱があるときに用いられます。
消化器疾患では、食欲不振、胃炎、胃酸過多症、胃酸欠乏症、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃痛、胃もたれ、胃痙攣(けいれん)、嘔気(吐き気)、腹痛、便秘など。
熱がなくても、精神的トラブルで消化器症状がある場合にも用いられます。
●柴胡桂枝湯
精神的ストレスや肉体的ストレスなど、さまざまな原因で起こる体の炎症に用いられます。
消化器疾患では、胃痛、胃酸過多症、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、急性虫垂炎、急性大腸炎、潰瘍性大腸炎などに。
3)胃の痛みには?
「胃の不調でも、胃が痛い、空腹になると胃が痛む、食後に胃が痛む、胃をつかまれているように痛むなどといった痛みがある場合があります。
このうち、キリキリと刺すような鋭い痛みがある場合は、胃の収縮や胃粘膜の障害が原因です。
この場合によく用いられるのが、胃の収縮をやわらげ、即効性の高い、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)、大建中湯(だいけんちゅうとう)などです。
胃粘膜を保護する即効性が高い五苓散や、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)を用いることもあります。
また、空腹時や食事前に胃が痛む場合は、胃酸の分泌による症状なので、先に紹介した小柴胡湯、柴胡桂枝湯などを用います。
食後に胃が痛む場合は、食べすぎや胃酸の分泌過剰が原因なので、安中散(あんちゅうさん)や、先に紹介した柴胡桂枝湯などを用います」
■よく用いられる漢方薬
●芍薬甘草湯
筋肉痛、神経痛、関節痛などの痛みの改善に即効性があります。
腹痛、月経痛、尿路結石などにも効果的。
●大建中湯
消化管運動亢進(こうしん)作用(消化管の運動を活発にする作用)や血管拡張、抗炎症などの効果がある、山椒や乾姜(かんきょう)を含み、冷えや痛みに効果を発揮。
消化器疾患では、寒冷による腹痛、機能性ディスペプシア、腹部膨満感、下腹部痛、腸閉塞、過敏性腸症候群などに用いられます。
●五苓散
上記参照。
●黄連解毒湯
熱による症状を解毒する漢方薬です。
消化器疾患では、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などに効果的。
●小柴胡湯、柴胡桂枝湯
上記参照。
●安中散
鎮静、鎮痛などに作用があります。
消化器疾患では、胃弱、胃痛、胸焼け、げっぷ、悪心(おしん/吐き気をもよおすこと。胸がむかつくこと)、急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、機能性ディスペプシアなどに。
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4)げっぷが出る、食べたものが逆流する、胸やけの症状には?
「げっぷが出る、食べたものが逆流する、胸やけなどの症状がある場合、胃の働きが弱くなっているか、食べすぎなどが原因のひとつ。
この場合も、先に紹介した六君子湯、茯苓飲などを用います。
また、一日中げっぷが出る、胸やけがするという場合には、胃の働きを助けるために人参湯類を使います。
先に紹介した人参湯、六君子湯などです」
■よく用いられる漢方薬
●六君子湯、茯苓飲、人参湯
上記参照。
このように、胃の不調といっても、症状によって用いられる漢方薬はさまざまです!
自分で判断するのは難しいので、不調を感じたり症状が気になったら、病院で医師に診断してもらいましょう。
■編集部セレクト/
「胃の不調」を改善したいと思ったとき、市販の漢方薬から選ぶこともできます
上で紹介したように、何が原因か、どんな状態かによって、さまざまな漢方薬の選択肢があるため、病院に行って医師に診断してもらうのが、まず第一に行いたいこと。
ただ、病院にはなかなか行けない、行く時間がない、すぐに立ち寄れる場所で薬が手に入ると助かる…という人もいると思います。
そうした場合の対策として、ドラッグストアなどで買える市販の漢方薬にはどんなものがあるか、チェックしておきましょう。
薬剤師がいる場合は、症状を伝えて相談を。
●六君子湯
「クラシエ」漢方六君子湯エキス顆粒(第2類医薬品) 24包(8日分)¥2,640(メーカー希望小売価格)/クラシエ薬品
「六君子湯」は、漢方の古典といわれる中国の医書『万病回春(まんびょうかいしゅん)』補益門項に収載されている、胃腸虚弱者に用いる薬方です。
胃腸の弱い人で、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすい人の胃炎、胃腸虚弱、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐に効果があります。
ツムラ漢方六君子湯エキス顆粒(りっくんしとう)(第2類医薬品) 10包(5日分)¥1,980(メーカー希望小売価格)/ツムラ
普段から胃腸が弱く、疲れやすい人の食欲不振や胃炎を改善する漢方薬です。
食欲不振に対しては、胃がもたれて食べられない、食べてもすぐにお腹がいっぱいになるという人に適しています。
痩せ型のシニア世代の胃腸症状にもおすすめ。
「六君子湯」は、衰えた胃腸の働きを高め、食べ物からエネルギーを補う環境を整えることで、食欲不振や、胃の不快な症状を改善する漢方薬です。
●止逆清和錠
止逆清和錠(第3類医薬品) 36錠(4日分)¥1,100(メーカー希望小売価格)/クラシエ薬品
「止逆清和錠」は、胆汁分泌を促進させて消化吸収を盛んにする牛胆汁エキス末、胃酸を中和して胃の調子を整えるボレイ、胃腸機能を整えるカンゾウ、ケイヒ、ショウキョウ、オウバクの6種類の生薬から成る胃腸薬です。
胃酸の逆流などによる胸やけ、胸つかえ、胃もたれなどの不快な胃腸症状に効果があります。
●補中益気湯
ツムラ漢方補中益気湯エキス顆粒(ほちゅうえっきとう)(第2類医薬品)10包(5日分)¥1,980(メーカー希望小売価格)/ツムラ
胃腸の働きを整えて、疲れ、だるさや食欲不振を改善する漢方薬です。
胃腸の働きが衰えると、食欲が落ち、栄養分を消化・吸収できなくなります。
体を動かすエネルギーである「気」は、食べ物の栄養分から生まれます。
「補中益気湯」は、胃腸の働きを整えて、食べ物から栄養分を十分吸収できるようにすることで、体のエネルギーを増やします。
●半夏瀉心湯
ツムラ漢方半夏瀉心湯エキス顆粒(はんげしゃしんとう)(第2類医薬品)10包(5日分)¥1,980(メーカー希望小売価格)/ツムラ
みぞおちにつかえ感があり、胸やけや吐き気、食欲不振などがある人に適しています。
また胃腸炎、軟便、二日酔い、口内炎などにも使われます。
「半夏瀉心湯」は、胃の熱を冷まして症状を改善する漢方薬です。
処方名にある「瀉心」とは、「みぞおち(心下)のつかえ感を去る」と定義されているほか、「心のわだかまりを取る」という意味から、ストレス性の胃腸症状にも使われます。
【教えていただいた方】

「芝大門 いまづ クリニック」院長。藤田保健衛生大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科・副医長、慶應義塾大学医学部漢方医学センター助教、北里大学薬学部非常勤講師などを経て、2013年に「芝大門 いまづ クリニック」(東京都港区芝大門)を開業。日本外科学会認定医・専門医。日本消化器病学会専門医。日本東洋医学会専門医・指導医。西洋医学と東洋医学に精通し、科学的見地に立って漢方による治療を実践。おもな著書に『健康保険が使える漢方薬の事典』(つちや書店)、『まずはコレだけ! 漢方薬』(じほう)などがある。
写真/Shutterstock〈イメージカット〉 取材・文/和田美穂