脊椎(せきつい)、筋肉、関節、神経、内臓に由来するもの、心因性など…。「腰痛」の原因はいろいろ!
「腰痛」があると、痛みがつらいのはもちろん、日常生活に支障が出たり行動が制限されたり、元気にアクティブに活動しにくくなってしまいますよね。
腰痛の原因や症状について、漢方医学的には、どのように診断するのでしょうか?
今津嘉宏先生に伺いました。
病気が潜んでいる可能性もあるので、まずは病院で検査を
「腰痛といっても、重篤な病気が潜んでいる場合もあるので、見逃さないように気をつける必要があります。
・腰椎椎間板ヘルニア(ようついついかんばんヘルニア)……腰椎の椎間板が変性して後ろに飛び出し、脊髄神経を圧迫することで腰痛や足のしびれなどの症状を引き起こす病気。
・腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)……老化などの影響で椎間板や腰椎が変形・変性して、脊柱管が狭まると、その中を通っている馬尾(ばび)神経が圧迫され、神経の働きが乱されて、足に痛みやしびれが起こったり、動きが悪くなったりする病気。
上記のような病気や、脊椎変形(せきちゅうへんけい)、骨折などの可能性もありますし、悪性疾患やステロイドの長期服用など、いろいろな原因が考えられるので、まずは整形外科で検査を受けましょう。
漢方薬は、そのうえで取り入れるのがおすすめです」(今津嘉宏先生)
漢方医学では「腰痛」をどう診断する?
「漢方医学では、腰痛の原因は、脊椎由来、筋肉や関節由来、神経由来、内臓由来(泌尿器系疾患、婦人科疾患、解離性大動脈瘤など)、心因性のものなどに分けて考えます。
まず、脊椎由来の腰痛は、加齢による変化ととらえて、地黄(じおう)という生薬を含む漢方薬を選ぶことが多いです。
例えば、六味地黄丸(ろくみじおうがん)、八味地黄丸(はちみじおうがん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などがあります。
これらは、腎虚(じんきょ/加齢に伴う身体機能の低下、特に生殖器系や腰以下の運動機能の低下)を改善することで腰痛を改善します。
加齢による筋肉の変化が原因の腰痛なら、痛みをやわらげる作用のある麻黄(まおう)や、痛みとむくみを改善する薏苡仁(よくいにん)という生薬が含まれる漢方薬を用いることが多いです。
葛根湯(かっこんとう)、薏苡仁湯(よくいにんとう)、麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)などがあります。
そのほか、筋肉痛や神経痛、関節痛をやわらげる効果のある芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)、血液の流れをよくして筋肉痛や関節痛、神経痛などを改善する効果のある疎経活血湯(そけいかっけつとう)を用いることもあります。
また、加齢による関節の変化が原因の腰痛には、上でも紹介した疎経活血湯や芍薬甘草湯、薏苡仁湯、麻杏薏甘湯を用いることがあります。
ほかに、炎症を抑える効果のある柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)や、関節痛や筋肉痛などの改善に効果的な桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)や越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)、抗炎症や鎮痛効果のある防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)や麻黄湯、腰痛や下腹部痛などに効果的な五積散(ごしゃくさん)、慢性的な関節の痛みを改善する大防風湯(だいぼうふうとう)などを用いることもあります。
神経由来の腰痛については、冷えが原因なら、体を温める温熱剤の漢方薬を、むくみが原因の場合は、利水剤の漢方薬を選びます。
温熱剤には、真武湯(しんぶとう)、桂枝加朮附湯、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)、五積散、通導散(つうどうさん)、温経湯(うんけいとう)、苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)などがあります。
利水剤には、先にも挙げたような六味地黄丸、八味地黄丸、牛車腎気丸、防已黄耆湯、当帰芍薬散、防風通聖散のほか、五苓散(ごれいさん)、茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)、柴苓湯(さいれいとう)、などがあります。
内臓由来の腰痛には、それぞれの症状に合わせた漢方薬を選びます。
心因性の腰痛の場合は、精神的症状の原因を確認して漢方薬を選びます」
女性は「血(けつ)」の異常を改善する漢方薬をベースにすることで、「腰痛」が改善する場合も
気血水で診断する場合もあるそうです。
漢方の「気血水」については、この連載の第1回を参照。
「女性の場合は、気血水のうちの血の異常があることが多いので、それを前提に治療を進めることが多いです。
血の異常でも、月経周期によって腰痛の症状が変わる場合は、当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸など、婦人科系の不調に使われる瘀血(おけつ/血の滞り)を改善する漢方薬が第一選択薬となります。
一方、血の異常がある場合で、腰痛に加えて下痢や便秘があるケースもあります。
下痢があるなら、消化器機能を回復させる効果のある人参湯(にんじんとう)を中心とした漢方薬を用います。
人参湯のほか、四君子湯(しくんしとう)、六君子湯(りっくんしとう)などがあります。
便秘があるタイプなら、瀉下(しゃげ)作用(下痢を促す)のある大黄(だいおう)という生薬が含まれる大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)、桃核承気湯、調胃承気湯(ちょういじょうきとう)、大承気湯(だいじょうきとう)などの漢方薬を併用します。
また、気の異常である精神的ストレスが腰痛に影響しているときは、鎮静作用や鎮痛作用などがある柴胡(さいこ)という生薬が含まれる柴胡剤を使います。
特に女性は、腰痛に精神的な要因が関与している場合が少なくありません。
柴胡剤は、症状の強さに応じて選びますが、抑肝散(よくかんさん)や抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)には当帰芍薬散が含まれているので、これらが第一選択薬となります。
下半身のむくみを伴った水の異常がある腰痛には、利水剤を用います。
先にも挙げたような五苓散、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、苓姜朮甘湯、防已黄耆湯などを用います。
当帰芍薬散には五苓散が含まれているので、第一選択薬になります」
このように、「腰痛」を改善する漢方薬は、症状やタイプなどによって、本当にさまざまなものがあります。
自分で選ぶのは難しいので、病院で医師に相談するのが理想的です。
●漢方薬で「腰痛」が改善した女性の例
ちなみに、漢方薬で腰痛が改善した例を今津先生に伺ったところ、こんなケースがあったそう。
「40歳女性で、生理のときの腰痛がつらいということで来院された方がいました。
冬になると手足が冷え、小さい頃は冬にいつもしもやけができていたそう。
そこで当帰芍薬散を処方したところ、1カ月後には、生理中の腰痛や生理前の不安感がなくなったとのこと。
また、いつもなら手袋を必要とする時季なのに、まだ寒く感じないと笑顔で話されていました」
このように、腰痛が漢方薬で改善することもあるので、悩んでいる人は試してみましょう!
■編集部セレクト/
「腰痛」を改善したいと思ったとき、市販の漢方薬から選ぶこともできます
上で紹介したように、何が原因か、どんな状態かによって、さまざまな漢方薬の選択肢があるため、病院に行って医師に診断してもらうのが、まず第一に行いたいこと。
ただ、病院にはなかなか行けない、行く時間がない、すぐに立ち寄れる場所で薬が手に入ると助かる…という人もいると思います。
そうした場合の対策として、ドラッグストアなどで買える市販の漢方薬にはどんなものがあるか、チェックしておきましょう。
薬剤師がいる場合は、症状を伝えて相談を。
●八味地黄丸
ツムラ漢方八味地黄丸料エキス顆粒A(はちみじおうがん)(第2類医薬品)20包(10日分) ¥2,640(メーカー希望小売価格)/ツムラ
加齢に伴う慢性の腰痛に適します。その他、加齢に伴う悩みに幅広く使われます。
しびれ、かすみ目、かゆみ、排尿困難、軽い尿もれ、残尿感、夜間尿、頻尿、むくみなどに用いられます。
生命エネルギーを司る「腎(じん)」の働きを助けるとともに、体を温め、体内の水分バランスを整えることで、加齢に伴う足腰の痛みや尿トラブルなどの症状を改善します。
●芍薬甘草湯
ツムラ漢方芍薬甘草湯エキス顆粒(しゃくやくかんぞうとう)(第2類医薬品)20包(10日分) ¥2,640(メーカー希望小売価格)/ツムラ
筋肉の過剰な緊張を緩めて痛みを取る作用があり、急性の腰痛に適します。
足のつりやこむら返りのような、急な筋肉の痙攣(けいれん)による痛みにもおすすめです。
また、生理に伴う腰痛にも使われます。
構成生薬は芍薬と甘草の2種類のみです。
●疎経活血湯
疎経活血湯エキス錠クラシエ(第2類医薬品) 96錠(8日分) ¥2,388(メーカー希望小売価格)/クラシエ薬品
関節の痛みに。
「疎経活血湯」は、漢方の古典といわれる中国の医書『万病回春(まんびょうかいしゅん)』に収載されている薬方です。
腰痛、筋肉痛などに効果があります。
●牛車腎気丸
「クラシエ」漢方牛車腎気丸料エキス錠 (第2類医薬品) 96錠(8日分) ¥2,075(メーカー希望小売価格)/クラシエ薬品
年齢からくるしびれ、痛みなどに。
「牛車腎気丸」は、漢方の古典といわれる中国の医書『済生方(さいせいほう)』水腫門項に収載されている薬方です。
疲れやすくて、四肢が冷えやすく尿量減少し、むくみがある人のしびれ、下肢痛、腰痛などに効果があります。
【教えていただいた方】

「芝大門 いまづ クリニック」院長。藤田保健衛生大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科・副医長、慶應義塾大学医学部漢方医学センター助教、北里大学薬学部非常勤講師などを経て、2013年に「芝大門 いまづ クリニック」(東京都港区芝大門)を開業。日本外科学会認定医・専門医。日本消化器病学会専門医。日本東洋医学会専門医・指導医。西洋医学と東洋医学に精通し、科学的見地に立って漢方による治療を実践。おもな著書に『健康保険が使える漢方薬の事典』(つちや書店)、『まずはコレだけ! 漢方薬』(じほう)などがある。
写真/Shutterstock〈イメージカット〉 取材・文/和田美穂