血管力をアップするには「血管内皮細胞」の健康を守ることが重要です。「その大きな決め手になるのが『NO(一酸化窒素)』です!」(池谷敏郎先生)
「NOの生理作用を発見したのは、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校のルイス・J・イグナロ博士で、1998年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。それほど画期的な発見だったのです」
NOは自動車の排気ガスに含まれていたり、物質を燃焼したときにも発生します。それを私たちが吸い込んだら、全身の細胞が酸欠になり、死に至ることも。しかし、人体で生成されるNOは、体を守ってくれるように働くから不思議です。
「NOは血管内皮細胞から分泌され、その働きは血管の筋肉を弛緩させて、血管を拡張する働きがあり、これにより血圧を安定させてくれます。また、血管内の炎症やプラークを修復して、動脈硬化の進行を抑え、血栓(血のかたまり)ができるのを防ぎ、脳梗塞や心筋梗塞などの、血管が詰まる原因を取り除きます。
逆に言うと、血圧が高い人やすでに動脈硬化がある人は、NOの分泌が減っていると考えられます」
血管内皮細胞が衰える → NOの分泌量が減る → さらに血管内皮細胞が衰えるといった悪循環に陥ることで、血管はさらにボロボロになっていきます。血管の健康を守り、老化を防ぐ、血管力のアップには、NOの分泌を促す!がキーワードになるのです。
突然死だけじゃない!
将来の「寝たきり」や「認知症」も血管力で予防できる!?
「実は、血管の老化と骨の老化は同じ要因で進みます。例えば骨粗しょう症の原因のひとつは、運動不足です。骨は適度な負荷がかかることで、骨芽細胞が活性化して、骨をつくる働きが促されます。骨粗しょう症になると、ちょっとしたことで骨折をしてしまいます。よくあるのは転んで大腿骨を骨折すること。これをきっかけに、寝たきりの道に…という人が少なくありません」
血管にとっても運動不足は大敵!
「運動をすることで筋肉が動き、血流がよくなり、血管をしなやかに広げてくれるNOの分泌が高まります。また運動習慣は、動脈硬化の元凶になる肥満や脂質代謝の予防や改善に役立つことも見逃せません。動脈硬化の先に起こりうる脳梗塞では、一命を取りとめたとしても、麻痺や認知症などの障害が残ることがあります。これも要介護の生活や寝たきりに直結します」
認知症は脳の細胞が死んだり、働きが悪くなる病気です。脳血管の出血や梗塞により生じる認知症は「脳血管性認知症」と呼ばれ、認知症の約2割を占めます。最も多いのが「アルツハイマー型認知症」で認知症全体の約6割を占めています。それ以外には、「レビー小体型認知症」などがあります。
脳血管性認知症はその名前からも、血管の健康と関係のあることがわかりますが、実は近年の研究で、「アルツハイマー型認知症」も血管の老化が関係していることがわかってきたというのです。
「そこには、血管を老化させる5大要因のひとつ、糖尿病(高血糖)が関係しています。糖尿病はインスリンの分泌や働きが低下する病気です。一方で、アルツハイマー型認知症はアミロイドβというタンパク質が脳内にたまり、脳の神経細胞にダメージを受けることで、脳が萎縮する病気です。
脳はエネルギー源として、ブドウ糖を主に使っています。糖尿病でインスリンの働きが悪いと、脳内でもブドウ糖の取り込みがうまくいきません。さらに、インスリンは脳の細胞内にアミロイドβが蓄積するのを防ぐ働きもしているので、認知症の発症リスクを高めてしまうのです」
まだまだ先のこと…と思っている「寝たきり」や「糖尿病」を予防するためには、今からの血管ケアが重要になるのです。
血管の老化や健康不良は、さまざまな臓器の健康に直結します。そのためにも、血管ケアは心身の健康を維持するために、最初にやるべきことなのです。
【教えていただいた方】
池谷医院院長。1962年生まれ。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。1997年に、池谷医院理事長兼院長に就任。専門は内科・循環器科。現在も臨床現場に立つ。心臓、血管、血圧などの循環器系のエキスパート。
【池谷敏郎先生の著書】
「血管を鍛える」と超健康になる!(三笠書房) ¥649
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子