日々の「めまい」との付き合い方を知ることが克服のカギ!
「めまいの特効薬はいまだにありません。しいて言うなら、めまいを起こさないようにする、日々のめまいとの付き合い方を知ることが大きな手助けになります」(新井基洋先生)
そのヒントが素朴な疑問への回答に隠れています。
Q:めまいが悪化する最も大きな原因はなんですか?
A:一番の原因は睡眠不足です。
「めまいを起こす原因の約9割は内耳の不調です。内耳は髪の毛1本ほどの細い血管によって栄養が届けられています。睡眠不足やそれに伴う疲労の蓄積により、血の巡りが悪くなると、その影響はすぐに表れます。自身で予防できる最も大切なこと…それは、寝不足を回避することです。
また過度なストレスも誘因になります。例えば、メニエール病の場合も、表面上の症状はめまいや耳鳴りですが、その根底にあるのはストレスだったりします。症状を改善するのには、その根底にあるストレスを取り払う、またはストレスと上手に付き合うコツが必要になります」
Q:「良性発作性頭位めまい症」と診断されました。自分でできることは?
A:枕を高くして寝ることも大切です。
「良性発作性頭位めまい症は頭を上下に動かしたり、体を横にしたり起き上がったり、寝返りを打ったときに、めまいが起こります。原因は、内耳の耳石が剥がれて、三半規管に入り込むことです。
よって、三半規管から耳石を出す『めまい改善訓練(前庭リハビリ)』を行うことが大切。それに加え、高めの枕で、頭を高くして就寝するのもおすすめです。また、横向き寝の場合は左右どちらかに偏らないようにするのも、予防法のひとつです」
Q:めまいの克服に役立つ食べ物はありますか?
A:骨密度を上げる食材がおすすめです。
「特に良性発作性頭位めまい症は、骨密度が低下していると発症・再発しやすいので、骨を丈夫に保つ食材は必須です。カルシウム(小魚、牛乳、ヨーグルト、豆腐)、ビタミンD(干しシイタケ、鮭、卵、キノコ類など)、ビタミンK(小松菜、ブロッコリー、納豆など)を積極的にとりましょう。また骨質をよくするタンパク質(肉、魚、大豆製品など)も忘れずに!」
Q:薬は必要ですか?
A:発作薬を念のためにお守りのような感覚で持っておくといいでしょう。
「病院での治療は薬物療法が中心になります。めまいを根本的に治す薬ではありませんが、症状を緩和してくれます。私は、薬だけに頼るのではなく、『めまい改善訓練(前庭リハビリ)』(連載第5~7回に掲載)に取り組むことをすすめていますが、必要に応じて薬も処方します。
めまいの薬には、問題になるような副作用はないので、長期間飲み続けても心配はいりません。中には、発作が起きたときの対処として、お守りのように持っている人もいます。安心を得られるのであれば、怖がらずに飲むことをおすすめします」
Q:車の運転はしてもいいでしょうか?
A:平衡感覚チェックが判断材料に!
「車の運転中は、まわりの景色が素早く流れるため、平衡感覚に不具合が生じがちです。できれば運転は避けるに越したことはありません。運転をしても問題がないか? は『目を閉じて50歩足踏み』を行い、目を開けたときに、どのくらい立ち位置がずれているかで、ある程度判断できます」
目を閉じて50歩その場で足踏みをします。目を開けたときの、立ち位置のずれ具合で、平衡感覚のコンディションがわかります。
A(正面から左右45度以内):車の運転OK。
B(正面から左右45~90度):近所への外出ならOK。
C(正面から90度を超える):外出や車の運転はNG。
*注意:行うときは、必ず、よろけたときに支えてくれるサポーターとともに行いましょう。サポーターは足踏みをする人の前に立ち、手のひらに触らないように、その下に手を添えます。危険を感じたら、手を握って支えてください。
Q:趣味の運動はしても大丈夫?
A:運動の内容によります。避けたほうがいいものもあります。
「めまいの症状が落ち着いていれば、基本的に運動はしたほうがいいです。体を動かすことで血流がよくなるので、内耳への血の巡りもよくなり、めまいのリスクを軽減することができます。
おすすめは、ウォーキングやヨガなどの有酸素運動。水泳はクロールやバタフライなどでは、めまいを起こしやすいので注意が必要で、水中ウォーキングがおすすめです。
また、避けたいのはスキューバダイビングと登山です。水圧や気圧の変化はめまいを誘発しやすく、海中や山中で発作が起きると命の危険があるからです。運動は無理をせず、ストレス解消を目的にする程度がいいでしょう」
Q:漢方薬は役に立ちますか?
A:緩和の手助けになります。
「私も漢方薬はよく使います。めまいはメンタルも関係しているので、体をトータルで診る漢方の考えはとても適しています」
新井先生がよく処方するのは…
「めまいの急性期や嘔吐を伴う場合は『五苓散(ごれいさん)』。吐き気があるときに五苓散を湯に溶かして飲むと、治まることがよくあります。また五苓散には水滞(体の水の偏在)を改善する働きがあり、めまいや嘔吐、体のむくみに効きます。内耳にリンパ液がたまるメニエール病の改善にも使うことがあります。同じく、『苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)』もメニエール病に使う漢方で、さらに若い女性や起立性調節障害(立ちくらみ)に有効です。ただし、甘草という生薬が入っているため、まれにむくみを起こすことがあります。
ほかには、フワフワする浮動性めまいに、『半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)』を用います。これは頭痛を伴う場合に有用です」
「処方された薬を飲んで、安静にしていても症状がよくならない人は、まずは生活習慣を見直してみましょう。積極的に取り組むことで、めまいと上手に付き合っていくことができるはずです」
【教えていただいた方】
1964年生まれ。横浜市立みなと赤十字病院 めまい・平衡神経科部長。日本耳鼻咽喉科学会耳鼻咽喉科専門医、日本めまい平衡医学会専門会員・代議員。北里大学医学部卒業後、国立相模原病院、北里大学耳鼻咽喉科を経て現職。『全国から患者が集まる耳鼻科医の めまい・ふらつきの治し方』(KADOKAWA)など著書多数。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子