♦女性ホルモンの減少に加えて生活の変化も影響
更年期世代に入ると、体だけでなくメンタルにも不調が見られることが多くあります。例えば…。
・些細なことでイライラしてしまう。
・今まできっちりやっていた家事や仕事が、なんだかおっくうになり、やる気が起きない。
・体が重く、だるい、といった倦怠感が続く。
・読書をしていても内容が頭に入らないなど、集中力が続かなくなる。
・不安でたまらなくなる、特に理由もなく落ち込む。
など。
(イメージphoto/Dmitry Schemelev on unsplash)
こうしたメンタル不調は、おもにホルモンバランスの乱れからくるといわれています。
更年期世代に入ると、女性ホルモンのエストロゲンが減少することで脳の視床下部や下垂体機能が変調をきたし、自律神経が乱れてしまうのです。
また、体の変化に加えて、この年代ならではの環境やライフステージの変化から起きる悩みが、メンタルに影響し、不調をより悪化させてしまいます。
例えば、子育てが終わった喪失感、親の介護に関するストレス、夫婦の問題や親戚づき合い、また、閉経を迎えてこれからの自分に感じる不安、容姿の変化に対するショックなどが、メンタル不調に拍車をかけます。
そして、こうしたさまざまな要因からメンタル不調に陥る背景として、鉄、亜鉛、カルシウム、マグネシウムなどの摂取量不足などが指摘されています。
一般的に気分の変調を起こしやすい方は、糖質過多、たんぱく質不足の傾向があります。一般的にたんぱく質には、鉄や亜鉛などのミネラルが多く含まれており、これらの複数のミネラル不足がメンタル不調につながります。
今回は特に鉄の不足とメンタルの関係についてお聞きしました。
♦メンタル不調を訴える女性と鉄不足の関係
気分の落ち込みを訴える女性を検査すると、鉄が不足していることが多くあります。
鉄不足になると、貧血の心配があることはよく知られていますが、ほかにも鉄不足はさまざまな不調につながります。
鉄のおもな働きは全身に酸素を運搬すること。
鉄不足により体の細胞の隅々にまで酸素が行き渡らないと倦怠感につながり、脳へ酸素が行き渡らないと思考力が低下したり集中力が途切れたりするほか、気分が落ち込む原因にもなります。
また、鉄は、エネルギー代謝においても必要になるため、鉄が足りないと、体や脳が活動するために必要なエネルギーが作られなくなってしまいます。
さらに、心の健康に深くかかわる「神経伝達物質(脳内ホルモン)」の生産にも、鉄は深くかかわっています。
それは、別名「やる気ホルモン」と呼ばれるドーパミンと、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニン。
<やる気ホルモン、ドーパミン>
気持ちをポジティブにします。
好奇心を刺激して、やる気を起こし、行動力や快感を促します。
不足すると無気力、無関心になる傾向があります。
<幸せホルモン、セロトニン>
脳の過剰な興奮や不安を抑え、幸福感や安心感で心を満たします。
不足すると、落ち込みや不安、イライラ、ストレスを感じやすくなります。
これらの神経伝達物質の材料となるのはタンパク質ですが、その合成の過程で、鉄が必要なのです。
日本人の鉄の摂取量は減少傾向にあります。
その原因としては、インスタント食品やレトルト食品など、加工食品を食べることが多くなっていることが挙げられます。
というのも、こうした食品を加工する過程で、素材そのものに含まれているミネラルがかなり失われてしまっているからです。
また、現代人は、米であれば白米、パンであれば白いパンというように、穀物は精製したものを食べることが多くなりました。
鉄などのミネラル類はこれらの穀類の外皮に多く含まれているため、精製の過程でそぎ落とされてしまい、精製された米や小麦粉のミネラル含有量は大きく減少します。
♦肉や魚からタンパク質+ヘム鉄を
鉄が不足しやすい原因としてもうひとつ、そもそも鉄はとても吸収の悪いミネラルだということも挙げられます。
鉄には、肉や魚介などの動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と植物性の食品に含まれる「非ヘム鉄」があり、植物性の非ヘム鉄は特に吸収が悪い成分です。
動物性のヘム鉄の吸収率が10~20%なのに対して、植物性の非ヘム鉄の吸収率は2~5%です。
ですから、鉄不足を解消して十分な量を摂取するには、動物性のヘム鉄を中心に摂取するほうが効率的。
ヘム鉄は、肉や魚などの動物性食品に多く含まれます。
また、動物性食品に含まれる動物性タンパク質は鉄の吸収を促す働きを持っています。
ですから、吸収の悪い植物性の非ヘム鉄も、動物性タンパク質と一緒にとると吸収率が高まるということがわかっています。
鉄を多く含む食品
<ヘム鉄>
豚肉、牛肉、鶏肉
豚レバー、鶏レバーなどの内臓肉
カツオ、イワシ、マグロ
[何かと外食の多いこの連載の担当編集者が、ミネラルのことを考え、最近積極的に食べるようにしているのが、レバーにら炒め。有害ミネラルを排出する成分、硫化アリルを多く含むにら、玉ネギと鉄を多く含むレバーを一皿で摂ることができる]
<非ヘム鉄>
卵
小松菜
大豆、大豆食品(納豆、きな粉)
あずき、ココア
♦非ヘム鉄は調理法を工夫して吸収をアップ
そのほか、食べ方で鉄を上手に摂取する方法をアップする方法をご紹介しましょう。
<非ヘム鉄はビタミンCやクエン酸と一緒に>
ビタミンCは、非ヘム鉄を、吸収しやすくする働きを持っています。
ですから大豆製品やひじきなど、非ヘム鉄を多く含む食材は、ブロッコリーやピーマンなど、ビタミンCの多い食材と一緒に調理したり、果物をデザートに食べたりすることで吸収率アップにつながります。
酢、梅干しに含まれるクエン酸も、吸収を促してくれます。
<鉄製の鍋やフライパンを使用するのもおすすめ>
鉄製の鍋やフライパンは、重いことや手入れが面倒なことから、使う人が減っていますが、実は鉄の鍋やフライパンを使用すると、調理している間に微量ながら鉄が溶け出していくことがあり、作る料理に鉄分を含ませることができるといわれています。
文部科学省の日本食品標準成分表によると、以前は、ひじきの鉄分は100g当たり55.0mgとされていましたが、2015年に食品成分表が改定された際、100g当たり6.2mgと大幅に少なく修正されました。
その理由は、ひじきを調理する際の鍋が、従来の鉄製からステンレス製のものに変わってしまったから。
鉄鍋で調理することで、ひじきに鉄が入り鉄含有量がアップしていたということです。
<タンニンを多く含む飲料は控えめに>
非ヘム鉄は、腸管から吸収される際、コーヒーやお茶に含まれるタンニンなどの作用によって、吸収が阻害されてしまいます。
鉄不足が気になる人は、食事の際にタンニンを含む飲み物を一緒にとるのは控えましょう。
【教えていただいた方】
東京女子医科大学卒業。医療法人 淳信会 ホリスティキュア メディカルクリニック院長。米国コロラド州NTI認定栄養コンサルタント。米国PHYTOMEDIC LABS認定栄養&酵素セラピスト。産業医。 2014年、米国ベストドクターズ社日本支部から「医師が自分自身や家族が病気になった場合受診したいベストの医師」として、Best Doctors in Japanに選出される。
取材・文/瀬戸由美子