大好物は鉄やタンパク質。出血が続くと歯周病菌のエサに!
歯周病は歯周病菌が増殖して起こります。それは虫歯菌とどう違うのでしょうか?
「虫歯菌は酸素を好む好気性菌ですが、歯周病菌は酸素を嫌う嫌気性菌です。そのため、歯の表面ではなく、歯と歯の間の歯周ポケットで増殖します。痛みを感じない病気である点が特徴で、自覚症状がある場合はかなり進行していることが多いのです。放っておくとやがて歯を支えている骨が溶けて、歯が抜けるという怖い病気です。
歯周病菌は思春期頃から口の中に定着します。口の中の衛生状態が悪いと歯周病菌が定着しやすいこともわかっていますので、小さい頃からの丁寧なケアは必須です。40歳以上では約8割の人が歯周病になっているというデータもあります」(照山裕子先生)
●歯周病のセルフチェックリスト
ひとつでも当てはまる場合は、歯周病の可能性が。歯科医に相談しましょう!
□ 朝起きたときに、口の中がネバネバする。
□ 歯磨きのときに出血する。
□ 硬いものが嚙みにくい。
□ 口臭が気になる。
□ 歯肉が時々腫れる。
□ 歯肉が下がって、歯と歯の間に隙間ができてきた。
□ 歯がグラグラする。
出典/厚生労働省 e-ヘルスネット
歯磨きのときに出血をすることはありませんか? 実はその出血…歯周病の第一段階なのだとか。
「歯茎に炎症が起こると出血します。それは『体に悪いものがいるから排除します』という、体からの訴えです。ですから、出血くらい大したことはないと、無視をしてはいけません。それは磨き残しがあり、歯周病菌がそこで増殖しているというサインなのです。
歯周病菌の大好物が血液中の鉄や、剝がれ落ちた歯茎のタンパク質です。炎症を起こした歯茎にはこれらが含まれているので、出血すればするほど歯周病菌にエサを与えることになり、増殖を助長します。つまりどんどん歯周病が悪化しやすい環境を提供していることになります。
ですから、フロスや歯間ブラシなどを使って、歯と歯の隙間や歯と歯茎の間まで丁寧に磨いてください。出血が見られた時点で歯科医院を受診するのがベターです」
歯茎の腫れを感じたら要注意!
それでは歯周病がどのように進んでいくのか見てみましょう。
歯肉炎
歯茎だけに炎症を起こした状態で、自覚症状はほぼありません。
歯周炎
歯周ポケットが深くなり、歯周骨も溶け始めた段階。血や膿も出始め、口臭も強くなります。
中等度歯周炎
さらに進み、歯槽骨が溶け、歯がグラグラしだし、口臭もひどくなります。
重度歯周炎
歯槽骨まで溶けて、歯が抜けます。
歯周ポケットの深さの目安と進行度
1~3㎜ 健康
1~3㎜・出血あり 歯肉炎
4~6㎜ 歯周炎
7㎜以上 中等度以上の歯周炎
歯科では、目盛りのついたポケット探針で歯周ポケットの深さを測定して、炎症の進み具合をチェックします。針を抜いて出血が起こる場合は、その歯茎には炎症があると判断します。「平成28年度歯科疾患実態調査」によると、4㎜以上の歯周ポケットがある人の割合は、45~54歳で49.5%、65~74歳で57.5%でした。
糖尿病や認知症を引き起こす極悪菌に要注意!
「歯周病にかかわる菌は700種類以上もあるといわれています。悪性度もそれぞれで、悪性度の低い菌が土台となり、それが足場を作り、菌を増殖しやすくします。これを歯周病ピラミッドと呼んでいます。これらの菌が複合的に影響し合って歯周病を悪化させます。
特に歯周病を重症化させる最も極悪なハイリスク群(赤い部分)の代表が、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌で、血中に入ると動脈硬化や認知症を引き起こすなど、全身疾患に大きくかかわります。ミドルリスク群(オレンジ部分)のフゾバクテリウム・ヌクレアタム菌は大腸がんとの関連があるのでは? と、今注目され研究が進んでいます。
また、糖尿病の人はほぼ100%の人が歯周病を併発します。このふたつは双子のようなもので、お互いに関連し合っています。例えば、糖尿病の人は血液中に糖が多くある高血糖の状態です。これが続くと血管の損傷が起こります。こうなると免疫力が低下して歯周病が発症・悪化しやすくなります。
また、歯周病になると、血糖値を下げるインスリンが効きにくくなるため、糖尿病が悪化します。実際に、歯周病の治療をすると血糖コントロールが改善することがわかっています」
歯周病は自覚症状がないまま進行してしまいます。できるだけ初期段階で治療をするためにも、定期的な歯科健診でこまめにチェックすることが大切です。
【教えていただいた方】
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子