「早口言葉」は脳のさまざまな部位を使う
最近、何かを話そうとして、人の名前が出てこず、「アレアレ! ここまで出てきているんだけど…。あ~思い出せない」なんてことはありませんか?
こうしたもの忘れに加え、滑舌が悪くなり最近よく噛むといったことは、OurAge世代のあるあるです。笑ってすませられるうちはいいのですが、それが認知症の第一歩だとしたら?
「物を覚える脳の機能は、10代後半から20代くらいがピークになり、それ以降は徐々に低下していきます。特に40歳を過ぎた頃から、固有名詞が出てこないなどのもの忘れが増えてくるようです。
何かを記憶するためには、まずは覚えようとする対象を認識して、それを保存(記憶)。そして必要なときにそれを引き出すという3つのプロセスがあります。
特に、40歳過ぎた頃から、脳の老化により、この引き出す力が弱くなるようです」(福山秀直先生)
あとで、ひょんなタイミングで思い出すのも、この引き出す力が弱くなっている証拠かも。
「特に『保存(記憶)』する機能は、主に脳の前方にある海馬というところが担っています。もの忘れが激しくなるのは、加齢でこの海馬の前部分が萎縮してくるのが原因のひとつといわれています。
昔のアイドルの名前は忘れないのに、最近の若いタレントの名前はまったく覚えられないという人も多いのではないでしょうか?
言葉を話すことは、主に脳の前部分にある『ブローカ野』、言葉を聞くのは脳の後ろにある『ウェルニッケ野』が担っています。その間を『弓状束(きゅうじょうそく)』がつないでいます。
通常、話すことと聞くことは一対な気がしますが、司る部位は離れています。
それは話す機能のブローカ野の近くには、顔や口の動きに関係する『運動野』があり、聞く機能のウェルニッケ野の近くには『聴覚野』が、脳の最後尾に『視覚野』があります。
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実は、状況を正確にスピーディに感知して反応するためには、すごく機能的な配置といえます。
聞いて話すこと(=会話をすること)は、これらの脳をまんべんなく使うことになります。特に早口言葉を行うことは、前頭葉にある言語を司る部分を刺激することになります。前頭葉は考えたり、推測する、コミュニケーションをとるといった人間的な行動をとることにも関係しています。
認知症の予防には、会話をして人とかかわることがとても大事であることが、さまざまな研究でわかっています。ただの挨拶だけでなく、自分の考えを相手に伝えたり、相手がそれにどう反応しているかを推測したりするなど、会話を楽しむ訓練は、脳機能の低下を予防するのにとても役に立ちます」(福山先生)
早さよりも正確にはっきり発音することが大事!
「伝えたいことを、伝えたい人にきちんと話していますか?
年齢を重ねると、それがどんどんおっくうになっていくことがあります。足腰の筋肉を使わないとどんどん劣化するように、言葉を発する能力や筋力も衰えていきます」と話すのは、早口言葉を推奨している演技トレーナーの佐藤正文さん。
「文字を見て、頭で意味を理解して、言葉という音に乗せるには、それに必要な脳や筋肉を使います。
試しに、これを言ってみてください」
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早口言葉1
「猿滑るサルスベリ 猿滑らない滑り台」
「早口言葉だからといって、早く言うことに集中する必要はありません。早さよりも、正確にはっきり発音することが大事です。最初はゆっくり、はっきり発音を! 慣れてきたら、少しずつ早く言えるようにしていきましょう。
内容をきちんと理解して、脳力と筋力をしっかり使うことが、なにより大切です」(佐藤正文さん)
【教えていただいた方】

市立野洲病院相談役、京都大学名誉教授。1975年京都大学医学部卒業。2001年高次脳機能総合研究センター教授に就任。PETやMRIなどを活用して脳内の機能を画像化するなど、脳機能研究の第一人者。認知症の研究にも取り組み、現在は、京都市内の病院で神経内科の臨床医として認知症治療にも尽力している。共著に『「早口ことば」で認知症予防』(ART NEXT)など。

1970年桐朋学園大学演劇専攻科卒業。劇団 俳優座、安部公房スタジオを経て日本大学芸術学部非常勤講師、尚美学園大学客員教授。大手芸能プロダクションで演技レッスンを担当し、多数の俳優を育成。ほか、アマチュア劇団や朗読サー クルなどで、高齢者を含め約5000人を指導。トレーニングのひとつとして「早口言葉」を取り入れている。共著に『「早口ことば」で認知症予防』(ART NEXT)など。
協力/『「早口ことば」で認知症予防』(ART NEXT)
イラスト/midorichan 取材・文/山村浩子