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これからどう住む? コレクティブハウス見学記(2) 自分たちで創る暮らしのポリシーとは

草野いづみ

草野いづみ

帝京大学教育学部教授 臨床心理士

ライタ―として「女性の生と性の健康と権利」(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)に関するテーマの取材を多数経験。
40代で大学院に入り、教育・発達心理学、臨床心理学を学ぶ。教育学博士。
スクールカウンセラー等を経て現職。
著書に『みんなで考える家族・家庭支援論』(編著・同文書院)、『フランスにはなぜ恋愛スキャンダルがないのか』(共著・角川ソフィア文庫)など。

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かんかん森の意味
前回、書き忘れてしまったのですが、「コレクティブハウスかんかん森」って面白い名前ですよね。近くにある「神々森猿田彦神社」(荒川区東日暮里)に由来する「かんかん森通り」に面しているからだそうです。江戸情緒の残る歴史ある土地っていいなあ。

 

 

 

縁あってコレクティブハウスを見学して以来、私はこれからどんなふうに暮らしていきたいんだろ、と改めて考えるようになりました。

 

 

ひとりの自由な時間と場所は持ちたい。でも全くひとりぼっちもさみしい。近くに人の気配があって声が聞こえたり、話したり、一緒にご飯食べたり、誰かの役に立ったり・・・人の温もりが感じられる空間にいたいという気持ちも、だんだん強くなってきました。

 

 

それが家族であってもいいけれど、家族の関係ってつい縛りあったり、期待しすぎたり、意外と距離感が難しい。同居していても親や配偶者が先に亡くなったり、子どもは巣立っていくから、年をとってから急に一人暮らしになる場合も少なくありません。一人暮らしが不安で高齢者のホームに入るとしても、そこに人がいればよいというわけでもない。これまで生きてきた価値観や考え方がぜんぜん違う人たちと暮らすのはツライし。高齢者ばっかりというのもどうなんだろう? と考えてしまいます。

 

 

 

コレクティブハウスはこうした私の思いを解決してくれるのかな? と思いつつ、「コレクティブハウスかんかん森」の立ち上げから関わっている坂元良江さんに、そもそもからのお話をうかがいました。
私がいいな〜と思ったところをあげてみると・・・

 

私の更年期_photo

坂元良江さん:自室で(撮影/松本路子)

 

 

 

その1 始まりはスウェーデンの子育てママたち

「コレクティブハウスかんかん森」がスタートしたのは2003年。でもその実現を目指した活動が始まったのはさらに16年前にさかのぼります。スウェーデンのコレクティブハウスを紹介した建築家の小谷部育子さんが、日本で初のコレクティブハウスを作るべく、「この指とまって!」と一緒に活動する人を募り、即、とまったのが坂元さんだったとか。

 

 

坂元さんはフルタイムで働き続ける女性が少数派だった時代に、結婚・出産・子育てをしながらTVプロデューサーの仕事を続け、妊娠して子どもを預ける所がないと、自分たちで共同保育所を作ったという経歴もあり。コレクティブハウスの前にも古民家をリフォームしたシェアハウスでの共同生活の経験もあり。まさに望むものがなければ「つくってしまおう」という実行力の持ち主です。

 

 

コレクティブハウスは1960年代にスウェーデンの働く女性たちの運動で始まったのだそうです。独立した住居で暮らしつつ、豊富な共有スペースを持ち、一緒に食事や行事を楽しんだり、子育てをシェアする、という住まい方はスウェーデンや北欧に広まりました。

 

 

男女平等に仕事も家事や育児もシェアする、それを小さな核家族の中で完結するのではなく、もっと外に開いて、家族以外の他者も関わるという暮らし方に共感した人たちが、日本での実現を目指しました。
コレクティブハウスを作るまでには、居住予定者と、このために立ち上げたNPO、建設にあたった会社とが何年も話し合いながらプランを練り、何十回もワークショップを開いて「どんなふうに暮らしたいか」を徐々に形にしていきました。それがコモンミールやコモンスペースなど、「コレクティブハウスかんかん森」のユニークな仕組みに表現されているのです。

 

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掲示板:居住者同士のいろいろな連絡に

 

 

 

その2 多世代が自然に交流 
「コレクティブハウスかんかん森」には現在、子育て家族、高齢者を含むシングルなど、1歳から70代まで28戸、36人の大人と14人の子どもが住んでいます。子育て中のお母さんやお父さんがいつもより帰りが遅くなるとき、掲示板などで、「子どもを預かってほしい!」と求めると、手のあいている人が引き受けてくれます(そんなときはかんかん森通貨で御礼をするとか)。

 

 

私も子どもはけっこう得意分野。自分の子どもや孫でなくても、小さな子と関わる機会があるのはちょっとした楽しみかも(毎日でなければネ)。また子どもにとっても親以外の大人との交流は、育つうえで良いことだなと思います。
逆に、一人暮らしの人が体の具合が悪いときや、何か1人でできなくて助けがほしいときにHELP!を発信し、受け止めてもらえるというのも心強い。ここは、そうした声かけや助け合いが自然と生まれやすい仕組みになっていると感じました。

 

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コモンキッチン:お当番も楽しそう(撮影/松本路子)

 

 

その3 一緒に食べること、誰かに食事を作ること

坂元さんが「コレクティブハウスの核」というのが、居住者が一緒に食事をするコモンミール。「個々の暮らし」と「共に住まう」ことの両立の中心として、コレクティブハウスをつくる準備期間にも「お試しコモンミール」を10回も開催し、試行錯誤してきたといいます。

 

 

広々としたコモンダイニングにつながるキッチンはプロ仕様で、一度に70枚のハンバーグが焼ける大きなオーブンや90秒で20枚のお皿を洗う食洗機が大活躍。ここで週に2〜3回のコモンミールが開かれ、お当番が腕をふるいます。事前申し込み制で自由参加なので、自分の部屋で食べたい時や忙しいときには出ない自由があるのも良いところ。

 

 

食事を作る当番の義務は月に1回(3人で担当)なのでそんなに大きな負担ではなさそう。メニューはバリエーションにとんでいて、毎回いろんな手作り料理が待っているのは、私のようにご飯を作ってもらいたい人にはほんと嬉しい限りです。
また、料理が好きな人は腕をふるうチャンスにもなります。誰かのために食事を作るってとても心によいと思いませんか。長らく家族のご飯を作ってきた主婦が、食べさせる相手がいなくなったとき、自分だけのために作る気力がなくなったりする。コレクティブハウスのコモンミールは、食べる側だけでなく、ご飯を作る側の楽しみにもつながるな、と思いました。

 

 

通常のコモンミール以外にも、ひな祭り、豆まき、ハロウィン、クリスマスパーティ、新年会など参加できるイベントがたくさん用意されています。

 

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コモンテラスでブランチ(撮影/松本路子)

 

 

 

 

その4 みんな◯◯係。役割は男女平等
コレクティブハウスの特長は、居住者が自分たちで暮らしを創っていくということ。だから自主管理・自主運営。居住者組合「森の風」の全住民が日常生活の細々としたことから年間計画などの大きなことまで、暮らしの運営に関わることをすべて決めていく「直接民主制」。そして運営のための20余りの係をみなで役割分担します。

 

 

たとえば「ガーデニング」(菜園テラスの管理)、「コモンミール」(お米や調味料の調達、調理当番表の作成)、「キッズ」(キッズスペースや子育ち環境の整備)、「木工」(木工テラスの管理)、「図書」(書籍の整理・管理)、「省エネ・エコリサイクル」(資源ゴミ、リサイクルの対応)、「お掃除」(お掃除のマネジメント)、「ペット」(ペットのルール検討)などなど。

 

お当番や係は「一家に1人」、みたいな世帯単位ではなく個人単位。男女にかかわりなく、大人ひとりひとりに回ってきます。たとえばコモンミールの食事当番なども、「妻が出てるから夫は出なくてよい」というのはナシ。料理が苦手な人でも野菜を刻むなど、できることを担当します。どんな仕事でもだんだん慣れてくると、できることが増えてきますよね。係を受け持つことで、思いがけない能力開花につながるかもしれません。

 

 

うーんなるほど。近い将来、私が仕事をリタイアしたら、毎日「することがない」というのは苦痛だと思う。そんなときにこうした役割があってみんなのために働くというのは、自分自身にとっても良いことだなと思います。

 

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共有のランドリー室

 

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アイロンもあります

 

 

その5 ユニークな共有スペース
「コレクティブハウスかんかん森」が一見ふつうのマンションにみえて、実は違うのが、いろいろな共有スペースがあること。コモンキッチン・ダイニングはコモンミール以外でも利用できます。自分の部屋だけで煮詰まってきたら、広いダイニングにお茶をしにきたり、一杯やりながらおしゃべりしたりできる。そういうスペースがあるのは、気持ちのゆとりにつながりますね。

 

また、友達などを招いたときに、自室でお料理をふるまってもよいし、人数が多い場合などはコモンダイニングを使うこともできるのだそうです。
便利なのはランドリーがあること。自室でも洗濯できるけれど、量があるときはここを使った方が早いし、ランドリー室にはアイロンも用意されています。
これは助かる、と思ったのはゲストルーム。友達や遠方の家族が遊びにきたら自室に泊めてもよいけれど、ゲストルームを予約しておいて使うこともできます。これで温泉なんかがあったらさらにグー、なんてね。

 

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ゲストルーム:友達や家族などお客のための部屋

 

終の棲家?
さて、いかがでしたか。私は書いていて、コレクティブハウスって、単に住居のデザインとか、多くの人が一緒に住む、という形だけでなく、どんな暮らしをしたいか、またどんなふうに他者と関わりたいのか、などについてのポリシーを持った住まいであることがだんだんわかってきました。

 

 

ここに住む人は、そのポリシーに賛同して暮らしているという点で、最低限同じ価値観を共有しているわけで、それはとても大事なことに思えました。

 

 

私の場合、ここに住むとしたら、老いに向かって行くのでその心配があるけれど、普通の在宅の高齢者と同じに介護保険のサービスを使って住めば良いのだし、実際に89歳までそのように暮らした方もいらっしゃるとのこと。終の棲家にもできる、と思うと心強い気持ちになりますね。

 

 

今、住んでいる家を人に貸せば、家賃払えるかな〜 なんてだんだん具体的に想像している私でありました。

 

コレクティブハウスかんかん森
http://www.collectivehouse.co.jp/

 

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もっと詳しく知りたい人のために。『これが、コレクティブハウスだ!』(ドメス出版)

 

 

 

 

森の風憲章
・個々のくらしと共に住まう暮らしを大切にする
・1人暮らしも大家族も、子どもも大人もいきいきできる
・合理的でエコロジカルな生活
・外との交流がある、開かれた暮らし
・いろいろな人達とふれあい、育ち、学びあえる
 

 

 

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