更年期の不調に対する根本治療の発想から生まれたのがHRT(ホルモン補充療法)。誰でも治療ができるの? 漢方薬とHRTの薬の併用は? などの疑問に、医学博士の対馬ルリ子先生がお答えします。
お話を伺ったのは
対馬ルリ子さん
Ruriko Tsushima
1958年生まれ。対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座院長。産婦人科医、医学博士。女性の生涯にわたる健康を推進するNPO法人「女性医療ネットワーク」を設立、さまざまな啓発活動や政策提言を行う。2020年秋に発売の『「閉経」のホントがわかる本 〜更年期の体と心がラクになる!』(集英社)が好評。
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QHRTを漢方薬と併用してもいい?
漢方薬とHRTの併用は、医療機関ではごく普通のこと。推奨している医師のほうが多いかもしれません。HRTと漢方薬は作用の仕方がまったく異なるため、組み合わせもかなり自由度が高く、選ぶ漢方薬も幅広いといえます。とはいえ、更年期の漢方薬について詳しい医師のほうが、より安心!
Q 誰でも受けられるの?
無条件に処方してもらえるわけではないのがHRT。例えばがんが潜んでいることを知らずに受けると、がん細胞の増殖を促進する恐れもあります。原因のわからない不正出血がある場合も要注意。過去に子宮内膜がんや卵巣がんの治療を受けた人でも可能な場合があるので、希望するなら医師とよく相談してください。
●HRTが受けられない人
- ● 乳がんの経験者、または治療中
- ● 子宮体がんほか、何らかのがんを治療中
- ● 血栓症、塞栓症になったことがある
- ● 重い肝臓の病気がある
●場合によっては受けられない人
- ● 喫煙者
- ● 管理できていない糖尿病や高血圧
- ● 乳がん、子宮がん、卵巣がんの手術を受けたことがある
●受けるのに注意が必要な人
- ● 肥満/BMIが25.0以上の人 ※BMIの計算の仕方:体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)
- ● 60歳以上、または閉経後10年以上たっている
- ● 子宮筋腫・子宮内膜症・子宮腺筋症にかかったことがある
- ● 原因が確定していない不正出血がある
- ● 血栓症のリスクがある
- ● 高血圧、糖尿病の治療中
- ● 肝機能障害・慢性肝疾患
- ● 胆のう炎および胆石炎
- ● 重症の高トリグリセリド血症
- ● 片頭痛、てんかん
Q 乳がんになりやすいという噂は?
噂のきっかけは、かつての米国の研究報告です。偏った調査対象による調査のデータを見た日本の新聞各紙が「HRTで乳がんが増える」と報道し、一般の人はおろか医療関係者にまでそのイメージがインプットされてしまったのです。
その後さまざまな検証が行われ、2016年、7つの国際学会が共同で「乳がんリスクに及ぼすHRTの影響はとても小さい」とする総意書を発表。HRTよりも「乳がんになった家族がいる」「初産が35歳以上」「出産経験がない」などのほうが、乳がんのリスクが高いこともわかってきました。
日本では、04~05年に厚生労働省による調査が行われました。過去10年以内に乳がんの手術を受けた45~69歳の女性と、同世代のがん検診受診者の中で乳がんではなかった女性に対して調査を行なったところ、前者でのHRT経験者は5%、後者では11%で、乳がんではないグループのほうがHRT経験者が約2倍だったのです。
つまりHRT経験者はHRT未経験者に比べて乳がんになる危険性は半分以下という結果に。それでも、HRTを希望する場合は、何も不安がないように医師と事前によく相談することが大切。自分で判断するために、何より正しい知識を持つことが重要なのです。
Q どの婦人科でもやってもらえるの?
更年期医療に詳しい婦人科医であればHRTに積極的なことが多いのですが、産科と婦人科が一緒になった医療機関、大病院の婦人科では実施していないことも。HRTは、患者の状態を把握するために問診やカウンセリングに多くの時間がかかるためです。希望する場合は、WEBサイトなどで事前に確認を!
●HRTを実施している医療機関の目安
● HRTに詳しい医師が在籍している
- ● 「更年期外来」を掲げている
- ● 更年期医療関連学会や団体に所属している(*)
- ● カウンセリングに時間を割いてくれる
- ● 外来患者に更年期世代の女性が多い
- ● HRTについての問い合わせに親切に答えてくれる
- ● 公式WEBサイトなどで、更年期や女性ホルモンについて詳しく語られている
*「日本女性医学学会」「NPO法人女性医療ネットワーク」「NPO法人更年期と加齢のヘルスケア」などの認定医、登録医
カメラ&スタイリスト/山下かおり 構成・原文/蓮見則子
※次回は、HRTのQ&A、最終回です。