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いつも本と一緒のワタシが、それでもやっぱり読みたい本・しゃべりたい本

奥村知花

奥村知花

おくむら・ちか

書籍専門PR /「本しゃべりすと」
猫3匹と人間2匹の5匹暮らし。
本と猫と珈琲と温かいご飯……、 それがあれば、最上級に幸せ。

自著に『進む、書籍PR!』 PHP刊

 

「ぼーっと生きてた私」が、27歳のときに本に出会うまで

 

OurAgeの皆さま、初めまして。「本しゃべりすと」の奥村知花と申します。

今日は、本の仕事をしているアワエイジ世代のワタシが、本との出会いや仕事のこと、そして個人的にもグッと来た本のことを書かせていただきたいのですが、その前に。

「本しゃべりすと」って一体……?

と思われる方がほとんどだと思うので、まずはその説明を簡単に。

 

「こんにちはー! ネコのゴンゴンでーす!」 あ、そうじゃなかった。本しゃべりすとの奥村知花です

 

私の本業は、「書籍PR」。出版社から「今度出るこの本のPRを担当しないか?」とご依頼を受け、その新刊書籍の担当となって、あちこちのメディア(テレビとかラジオとか、雑誌とか、WEBとかですね)に「この本をご紹介いただけないか?」と売り込んでまわるお仕事です。
それがなぜか、怪しげな肩書き、「本しゃべりすと」というものも名乗って、並行して活動しております。これは、担当作品であろうとなかろうと、新刊であろうとなかろうと、「良い本は良い!」と、オススメの本についてしゃべり倒す、いわば「ひとり読書振興会」のような活動です。
つまり私、本をたくさん読む仕事ですが、そうして本を読んでいると、出会った面白い本やいい本について、しゃべりたくてしゃべりたくて仕方がなくなるのです!

 

とはいっても、小さな頃から読書の虫とかで、本に関わる仕事をしたい!と、もともと思っていたわけではありません。本も普通に好きという程度のものでした。ファッション業界に憧れ、大学時代はそのために夜学にも通ってWスクール。新卒で入った会社は総合アパレル商社でした。その後、結婚し仕事を辞めてまもなく、別の彼女ができたことを理由に前夫から一方的に離婚を申し渡されてひとりになるまで、本当の意味で「本に触れる」経験も実感していなかったと思います。

 

1年に満たない専業主婦生活の中で、子供もおらず、当時まだ未成熟な27歳だった私は「〇〇の妻」というアイデンティティしか持っていませんでした。そんな唯一のアイデンティティの崩壊は、私を精神的にも肉体的にも(ショックで何も食べられなくなって体重が33キロに!)ペッチャンコにしてしまいました。
そんな時、「全然違うところに意識をもっていく本だよ。どんなに気分が落ちても、つい、あははって笑いたくなっちゃうから」と、私を心配した友人から、ボロボロの文庫、原田宗典さんの『17歳だった!』を渡されたのが、読書に「出会う」きっかけでした。その本を読んで「あはは」と笑って以来味をしめ、それ以後は、時間もあることだしと、まるで貪るようにジャンルを問わず、本を読んでいました。そして気がつけば、元気も出ていて、独り立ちするために職を探すようになってたんです。

 

就職した飲食業界の会社で広報のお仕事をし、その後、人の出会いと運に任せてのらりくらりと、ドングリのようにコロコロ転がって、今の仕事をするようになって早、丸17年。その間に2度目の結婚もし、可愛い猫が3匹。それでもやっぱり私のまわりには、本、本、本‼︎ ばかりの生活です。

 

本、本、本の生活のために、私がみずから作った本棚。板を買ってきてノコギリで引いて作ったんですよー

 

ホスピスで過ごす方の思いを捉えた写真と言葉に、感じたのは「死」ではなく、「愛」でした

 

1年間で私が担当する本の点数は、だいたい30冊ほど。その本を語るためには、同じ著者の過去の作品や類書にも目を通すので、1作品に対し、少なくても5冊程度は資料として読んでいます。すると、仕事で読む本は年間で150〜200冊くらい。そのほかに、プライベートで読みたい&読み返したい本、話題の本、友人知人に薦められた本やコミックスをカウントすると、年間450冊前後になります。

 

そんな本だらけの毎日の中でふと思うのですが、
「本を読む」行為って、トランプの「神経衰弱」に似ていませんか? ほら、全部のカードを伏せて広げて、2枚ずつめくりながら、ハートのエースとか、クローバーのジャックとかのペアを当てていくあれです。読書も今読んでいる本と過去に読んだ本が繋がったり、その時々に自分の興味のアンテナが立っているものとか、世の中のニュースが本とリンクしたりと、ペアやスペアが次々と見つかった時、格別の嬉しさがあります。

 

そんな嬉しさを最近、体感した本のペアがありました。1冊目は今、ちょうど担当しているうちの1冊として読んだのですが、心を離れない感じの一冊で、『「その日」の前に 〜Right, before I die 』アンドルー・ジョージ写真/文(ONDORI BOOKS刊)という本です。この本は、フォトジャーナリストの著者が、人生の最後の時を過ごすためにホスピスにいる20名の患者さんの姿を、ポートレイトとインタヴュー、患者さんご本人による辞世のお手紙の3部構成で綴った一冊です。

 

帯の写真はキムさん。その眼が、口元が、言葉以上のものを語りかけている

 

自分や家族に病人がいたり、長く患っていないと、「ホスピス」と聞いても素通りしてしまうかもしれません。ですが、ポートレイトで見る登場人物のお一人おひとりの力強い眼差しが、とても印象的なのです。終末医療を受けていること以外は、どこにでもいる、いたって普通の彼らですが、その人生のインタビューやお手紙で構成されたこの本は「生きること」ってなんだろう? と私たちに問いかけます。

 

芸術作品でモチーフとされることも多い「メメント・モリ」という言葉があります。これは「死を忘れるなかれ」という警句。私たちは、この世に「生」を受けたその瞬間から、誰しもが逃れることなく「死」へと向かいます。絶対に逃れることのできない宿命ならば、どのようにその「死」を受け入れ、今ある私たちそれぞれの「生」を捉えていくのかを考えさせられてしまいました。

 

この本の帯にも写真が出ているキムさんの人生は、一番好きな人とは別の、とても一緒にはいられないという男性と結婚してしまい、病気になってからはたくさんいたはずの友人たちとも次第に疎遠になり「ひとりでいるのが怖くて仕方がない」という孤独なもの。でも、だからこそ彼女は「もし誰かを愛していたら、自分から言うべき。誰かを愛していたら、その人にわからせるべき。明日は何が起きるか、わからないんだから」「楽しいことがたくさんあるのに、私たちは楽しもうともしない」と、自戒を込めて力強いメッセージを残します。

「死」をとらえた作品なのにもかかわらず、20人それぞれの人生に触れることで気がつかされたのは、「愛」や、「愛の形」でした。

 

 

愛を見つめて「ズー」(動物性愛者)の世界へ迷い込んだ女性の得た「癒し」とは?

そんな風に感じた時、わたしがトランプゲームのように頭の中で紐づけたのは、昨年の開高健ノンフクション賞を受賞した『聖なるズー濱野ちひろ著(集英社刊)でした。帯にクッキリと書かれた「動物との性愛」という文字。一見すると「獣姦もの?」と誤解して、これもやはり素通りしてしまいそうな一冊だったのに、SNSで大きな話題となっていたので思わず手に取り、読み始めたら一気に読んでしまった。

 

帯のコピーに目が釘づけに。読み始めると、下世話な想像などよせつけない深い世界に引き込まれる。その内容に「驚いた!」と、巷でも話題を呼んでいる一冊

 

「私には愛がわからない」という、書き出しのプロローグには、著者が受けた10年以上もの凄惨なDV描写が綴られ、読む者の心を締め付けます。愛を見失ってしまった著者は、愛やセックスがわからないから、愛について学ぼうと30代の終わりに京都大学大学院に入学し、文化人類学におけるセクシャリティ研究を始める。その流れで、犬や馬をパートナーとする動物性愛者「ズー」の存在を知り、彼らと寝食をともにしながら、愛とは何か、暴力とは何か、と自身のトラウマと対峙しながら考察を重ね、著者が最後に見つけたものは……、という作品。

 

「ズー」それぞれと、彼らの動物のパートナーたちとの極めてプライベートな空間に、点々とホームステイを繰り返しながら、彼らのパーソナリティや考えに触れて、作者がこれまでと違う観点から愛を見つめ、癒されていく様子は、つい惹き込まれ、読者であるわたしも何かに癒されていく不思議な感覚にとらわれる。

 

人生には、時として残酷とも言える瞬間がある。親や子供、パートナーなど、家族や慈しんだペットの突然の死や、暴力も交えた深い葛藤、自身の健康、理不尽な現実・・・。到底受け入れられないような事実が突きつけられた時、私たちはどうしたら良いのかとうろたえるばかり。だけど、そんな転ばぬ先の杖となってくれるのが本の存在なんだと、私は実感から思っていましたが、特にこれら2作品は「生きてる限り、生き抜こう。そして楽しもう。向き合おう」という気持ちにさせてくれる本。私たちがつい「自分と関係ない」として捉えて素通りしがちな事由がテーマにもかかわらず、同じ人間として普遍の、とても大事なことを教え諭してくれることがあるんだ! と、気づかせてくれた2冊でした。

 

また、素敵な「神経衰弱本」を見つけたら、ご紹介させていただきたいと思います! 「本しゃべりすと」の奥村知花からは以上です!!

 

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