最近のブラッド・ピットは、神がかってると言う人がいます。私は、彼は長い間見せていなかった人間らしさがどんどん戻って来て、人間サイズの”ブラピ”になってると思うのですが。
『ワンス・アポンア・タイム・イン・ハリウッド』の彼の演技は、本当に説得力がありました。人をうらやまず、ありのままを受け入れて、飄々と生きるスタントマンを見事に演じました。
ふわあっと生きてるのに人生の厚みや重みをしっかり感じさせる役作りに、「円熟とはこのことか」と絶賛されたブラッドです。その結果がSAG(俳優協会)、ゴールデン・グローブ、BAFTA(英国アカデミー)、そしてアカデミー賞の助演男優賞を全部独り占めということに。
授賞の挨拶のユーモアある柔らかい物腰。ゴールデン・グローブ賞では共演スターのレオを“共犯者のLDC (Leonardo Di Caprio)’ と呼び、 共演者を立ててくれる最高の相手役、と照れるレオにお礼を言ってました。俳優協会の授賞のスピーチでは「Tシャツを脱いで上半身裸、マリファナ吸って上機嫌、妻と上手くやっていけないというダメなヤツだから、役作りはすごく難しかった」と自分を笑える余裕に会場大爆笑。元妻のジェニファー・アニストンがニコニコしてました。
最初に彼の顔を、実際目の前で拝んだのは1994年の『レジェンド・オブ・フォール』でした。この映画、覚えてますか?金髪のロングヘアをなびかせながら馬に乗るブラッドは、それはそれは美しかったです。自分探しをしているトリスタン(ブラッド)のロマンチックなストーリー。世界を魅了しました。
この映画のインタビューの時の正直な彼が今でも鮮明です。大スターになる直前、名声がプライバシーを取り上げてしまうことを実感する前のブラッド。
「今日は大変だったんだ」とスタートしたブラッド。「明日ミズーリから家族がロスに来るんだよ」と気のせいか焦ってます。「ヴァンパイアなんだよ」と言います。
「『インタービュー・ウィズ・ヴァンパイア』のプレミアに家族を招待したんだ。大勢来るからヴァンを借りなきゃならなくてね」
――何人来るんですか?
「両親、弟と彼の妻、子供2人。妹と彼女の夫、夫の親….. 」
――それはヴァンが必要ですね。
「その前に自分の車を洗車しなきゃならなかったんだ、汚い車に乗ってることがバレないようね。このインタビューに来る前に プランをきちんと立てたんだけど、予定通り行かなくて。Oh,ボーイ(ヤバイ)。洗車に向かってるとき、かわいい女の子がいるなあ…と思ったら、しばらく会ってなかった女友達なんだ。髪の毛の色を変えてたから、一見気がつかなかった。本当は前の髪の毛の色の方が良かったんだけど、でもまあそれはどうでも良い。
彼女とちょっと話してからいつも洗車してくれるオヤジさんのところに行った。ところが彼がいなくてね。オーボーイ!1人でやってるから忙しいんだよ。20分も待ったかな。オーボーイ、オーボーイ!
車を置いて、レンタカー屋まで、歩くと言うより走ったんだ。途中でズボンのベルトが外れてしまって、オーボーイ!ダブダブのズボンだから落ちないように、それを手で持ち上げながら走ったんだ。オーボーイ。レンタカー屋に着いたら『運転免許を』と言われてね。そりゃそうだ、運転免許なしでは貸してくれないよね。ところが洗車に出した車の中に置いて来てしまったんだよ。また走るのか!!オーボーイ。
レンタカー屋のお兄ちゃんが連れてってくれたんで助かった。やっとヴァンを借りられると思ったら、これから車を掃除するって言うんだよ。オーボーイ!もういいよ、汚いままで、と頼み込んでやっと借りられたのが派手なターコイズブルーですごいんだ。ええっ!!と思ったけど、みなさん(インタビューメンバー)が待ってるって思ったら怖くなって、『もういい、もういい』とその車を借りてここに来たんだ。借りたヴァンの時計を見たら1時半。あれ!!そうか、先週ずっと忙しくて僕の時計は夏時間のままだった(冬時間は一時間戻します)。だから焦る必要全然なかったんだけどね(笑い)」
聞いてる方がオーボーイ、オーボーイ。
彼の魅力の一つは、古き良き時代のアメリカ人を体現してることだ、と最近思うようになりました。大らかで親切で屈託のないアメリカ人。そしてヨーロッパの俳優の持つ磨かれたチャームではなく、気取らないちょっとダサいチャームでそれが万人に受けるのだと思います。
ミズーリ州のトウモロコシ畑に囲まれて育ったブラッド。日曜日には家族で教会に行き(やってはいけないことばかりを強いる宗教は信じてないそうです)、車で10分行くと緑が鬱蒼と茂る山だったそうです。そしてそんな子供時代をこよなく愛し、家族を大切にしてます。
今年のアカデミー賞にその家族が来ていたそうです。たぶん、今回は自分でヴァンを借りには行かなかったと思います。
(次回は父との関係、アンジーとの離婚…苦悩するブラピに迫ります)