自分に合うエッセイを読むと、
心強い友を得たような爽快感が
さかい じゅんこ●エッセイスト。1966年、東京都生まれ。高校時代に雑誌でコラムの執筆を開始。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞と講談社エッセイ賞を受賞。『ユーミンの罪』『うまれることば、しぬことば』『女人京都』など、大人の女性の共感と知的好奇心を満たしてくれる著書多数
Interview
エッセイの定義やジャンル、時代による移り変わりなどを考察した、酒井さんの新刊「日本エッセイ小史 人はなぜエッセイを書くのか」。執筆のきっかけは?
「講談社エッセイ賞の選考委員をしていたときに、エッセイの奥深さに改めて気づかされました。別ジャンルで活躍中の方が良い作品を書かれることも多いですし。具体的に歴史として考えたのは昭和末期から。1980年代以降、日本が一気に軽くなった時代に、随筆がエッセイになったのでは?と仮説を立ててみました」
林真理子の『ルンルンを買っておうちに帰ろう』(’82)、ナンシー関『テレビ消灯時間』(’93〜)、松本人志『遺書』(’94)など、OurAge世代の記憶に残る作品への言及も多数。160冊以上(!)のエッセイに触れて、気づいたことは…。
「エッセイの書き手は、必ずしも自分のことをそのまま書いているわけではありません。詩やらノンフィクションやら、さまざまなジャンルと入り交じることができるのが、エッセイ。そんな変幻自在の魅力を感じていただければと思います」
高校時代にデビューして、50代の今、100冊近くの著書がある酒井さん。書き続ける毎日の健康のために、欠かせないものはありますか?
「朝食には果物とヨーグルト。運動は週に1回、卓球のパーソナルトレーニングを10年以上続けています。どちらも健康のためというより、好きだから。そして日記とお小遣い帳をつけるのが、仕事に入る前の儀式みたいになっているかもしれません。日記は前の日の備忘録みたいなもので、ノートにほんの数行。自分のことは書き尽くしたというか、飽き飽きしている部分もあって(笑)。だから今は、何かについて調べて書くことが楽しいのかもしれません。もともと未来よりも過去のほうに興味があるので、先達の書いた作品を読むことも大好きなんです」
私たちにとって、エッセイにはどんな効能があると思いますか?
「自分に合うエッセイが見つけられると、小説以上のすっきり感があると思うんですよ。『そうそう、私もそう思ってた~』みたいな。私は『枕草子』を原文で読んだときに、清少納言という“友だち”を見つけました。直接言葉は交わせないけど、心は通い合っているような。
書くことは、一種のデトックスになります。プロでなくても、ブログやSNSの発達のおかげで、誰もが書きやすい時代になったのではないでしょうか。エッセイに限らず、俳句でも短歌でもいいですし。自分なりの方法で、内側にためているものを外に出すのは、体にいいように思います」
『日本エッセイ小史 人はなぜエッセイを書くのか』
酒井順子 著/講談社
1,760円
フランス語で「試み」を意味するエッセイは、日本でも古くから親しまれてきた読み物。コラムとの違いって? 女性エッセイの今昔、テレビや食との関係など、平安中期の古典から、21世紀のタレント本までを挙げて、あらゆる角度からエッセイの謎に迫る!
撮影/名和真紀子 取材・原文/石井絵里