〈東洋一のサウンドクリエイター〉〈歌うメロディ・メイカー〉こと、横山剣さん。
ロックとジャズとソウルと歌謡曲と演歌とヒップホップと、ありとあらゆるジャンルの音楽を栄養に、彼が生み出す音楽は、まさにワン & オンリー。
クレイジーケンバンドを結成して25年目の今年(2023年)、9月6日に23枚目のアルバム『世界』が発売される。
60代に突入した今もなお、彼が生み出す音は熱くて甘くて、切なくてほろ苦い。
心の根っこをギュッとつかんで、揺さぶってくる。
撮影/富田一也 取材・文/岡本麻佑
横山剣さん
Profile
よこやま・けん●1960年生まれ、神奈川県横浜市出身。小学生の頃から作曲家を目指し、中学時代からバンド活動に熱中していた。1981年クールスRCのボーカリストになるが’84年に脱退。作曲活動を続けながら貿易会社などで働き、バンドを組んでライブ活動を続けた。’97年クレイジーケンバンド(略称CKB)を結成。’98年にアルバム『PUNCH! PUNCH! PUNCHI!』でデビュー。サウンドクリエイターとして数多くの楽曲を生み出し、全国的に人気を集めている。
メロディも詞も、勝手に頭の中に飛びこんでくるんです
横山剣さんといえば、自ら率いるクレイジーケンバンド(CRAZY KEN BAND /以下CKB)。CKBといえば、「俺の話を聞け!」というサビのフレーズが印象的なヒット曲『タイガー&ドラゴン』。
2002年に発表されたこの曲が脚本家・宮藤官九郎の耳に留まり、2005年に同タイトルのドラマがスタート。オープニングテーマ曲に採用されるやいなや全国的に火がついた名曲だ。
だけど、それだけじゃない。
CKBは結成25周年。『タイガー&ドラゴン』以前から横浜を中心に通好みのファンを熱狂させてきたバンドであり、今も全国津々浦々に熱いファンがたくさんいる。
精力的にライブを続けるCKBは、10月から2024年3月にかけて知床から沖縄まで全国19ヵ所のツアーを実施。9月6日に発売されるニューアルバム『世界』は、その先触れとも言える1枚だ。
「毎回、新作はいちばんかわいいって思うものなんですが、今回は“かわいさ余って憎さ100倍!”ってくらい、とんでもないのができちゃいました(笑)」
どこがそんなにかわいいか、というと。
「わりとここ数年、『せーの!』で(生演奏を)レコーディングしてなくて、コンピューターを投入してループで重ねたり、機械的に作っていたんです。
そういうのも好きだったんですけど、ライブ感のあるバンドらしい音に最近飢えていたので、今回はそれを実現してみました」
CKBは現在、11人編成。ギターがあってベースがあってドラムがあって、さらにホーンセクションやキーボード、剣さん以外のヴォーカルも抱える大所帯だ。
メンバー総出でレコーディングするのは、環境整備を含めて、超大変。でも今回、大変なことをあえてやってみた。その結果・・
「レコーディングはあえて生でやらない良さというのもあるんですけど、やっぱりバンドサウンドというのは生で良い音が録れたら、それが一番いいなって思いました。生音のマジックというか、天然の、ハートのビートが出てくるんですね、はい」
CKBのサウンドは、そもそも横山剣さんの脳内から発生している。
小学生の頃から音楽が大好きだった剣さん、当時から突然、オリジナルのメロディが頭の中に浮かぶことが多かった。中学、高校とバンドを組み、社会人となってからもいろいろなメンバーとバンドを組んでは、それらを一曲一曲、現実のものにして演奏するようになったという。
「何が原因で浮かぶのかわからないんですけど、とにかくメロディが浮かぶ。歌詞が浮かんでくる。自分でやってる感じがしないんです。なんかこう、どこかから飛びこんでくる。
『タイガー&ドラゴン』も、車を運転していたら突然頭の中から湧いてきたので、作ったというより勝手に出てきたような感じです」
とはいえ、脳内の音楽をリアルな音にするのは、難しい。
「初期のCKBの頃は人数が少なくて、せっかく頭の中に分厚い音が鳴っているのに、それをサウンドとして再現できなかった。
もう、辞めちゃおうかなって思った時期もあったんですけど、そうか、人数増やせばいいじゃん、と気づきまして(笑)。脳内で鳴っているものをそのまんま出さないと気持ち悪くなっちゃうし、悔しさが残るので、思ったことはやってしまえ、と。
もちろん大所帯だからレコーディングもツアーもお金がかかるし、その分、もらいは少ないんですけど(笑)。
11人いても、3人いれば間に合う曲もあったりするけど、大は小を兼ねるということで、なんとかなっているんです(笑)」
今回はサウンド・プロデューサー&アレンジャーとしてgurasanpark氏を起用。新参加のドラマー、ゲンタ氏を迎え、CKBの新境地ともいえる『世界』が展開されている。
リード曲の『観光』をはじめ全17曲は、ロックでジャズでソウルでときどき演歌、歌謡ポップスのエッセンスも加わって、まさにCKBフルコースの味わいだ。
「だんだん自分の理想に近づいています。今が一番、脳内の音楽に近い形でやれている感じです。時間かかりすぎだろって気もしますけど(笑)」
理想的な音作りができるようになって、改めて今、30年以上前から頭の中に鳴り響いていた曲を記録することもできたとか。
「『Sweet Vibration』は29歳のときに作りました。ホーンセクションやキーボードが必要な分厚い音で、あの頃こういう曲ばかり作っていたんですけど、当時は理解されなくてボツになっていたんです。
『夜は千の目を持つ』は21年前の曲かな。サビのコーラス部分で『Do Sport Plaza!』って連呼しているんですけど、それは当時、大阪のクワトロというところで公演してたときに泊まっていたホテルの名前(DO SPORTS PLAZA)で。
ライブを終えてホテルに戻るときに「ドゥースポーツ、ドゥースポーツ、プラザ!」って歌いながら歩いて帰ったんです。その続きが今回浮かんじゃって。
脈絡は全くないんですけど、違う言葉だとハマらないんですよ。もう、言霊がそうしろと言っている(笑)。ま、それでもいいかと思えるような図々しさも、年齢のたまものですかね」
さらに、CDアルバムという形にこだわるのには理由がある。今や、配信がメインの時代になってしまったけれど。
「僕らの世代には、CDじゃないと困るっていう人も、まだまだいっぱいいるんです。バンドとともに年齢を重ねてくださっているファンの方も多いので。
もっと昔はLPレコードで、A面からB面にひっくり返して聴いたものですよね。そういう感覚も残したくて、曲間にジングルを入れたりしてます。『それはさておき』とか『閑話休題』みたいなニュアンスも味わってほしくて」
横山剣さん、いつの間にか63歳。でも『タイガー&ドラゴン』がヒットしてメジャーに登場した当時からカリスマ性があって貫禄があったせいか、あまり変わってないように見える。
「渡辺貞夫さんが80歳を過ぎてからも毎年新譜を出しているように、アルバムを出すっていうのは自分が現役であるっていう証のような。
年齢的にも、いつ枯渇するかわからない、いつ終わっちゃうかわからないので、もう出せるうちに出しておこうという心境ですね。毎年アルバムを出すぞって気持ちで、続けられているような気もします。
ベテランになった感じがしないし、常にルーキーな気持ち、ありますね。全然レジェンドにならない軽さで、良くも悪くも(笑)」
この情熱、このエネルギー、いったいどこから生まれているのか。というお話は、インタビュー後編で。
ダンディでセクシーでイケオジ代表みたいな剣さんだけど、その日常を伺ってみたところ、意外な素顔が見えてきた・・。
(健康的で、ちょっとかわいい日常を語ったインタビュー後編はコチラ)
『世界』
デビュー25周年を迎えたCKBの通算23枚目のアルバム。サウンド・プロデューサー&アレンジャーとしてgurasanpark氏を迎え、ライブ感のある仕上がりに。新参加のドラマー、ゲンタ氏のキレのあるドラミングを軸に、総勢11名のメンバーそれぞれが本領を発揮、生き生きとしたサウンドを作り上げている。(2023年9月6日発売 3575円/ユニバーサルシグマ)
10月7日からスタートするライブツアー『CRAZY KEN BAND TOUR World Tour 2023-2024』の詳細はコチラ。
2022年10月23日に行われた『CRAZY KEN BAND TOUR 樹影 2022-2023』の中野サンプラザ公演を収録したDVDがついた初回限定盤は7700円。