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88歳・角野栄子さんを追い続け、魅力を語る宮川麻里奈さん(インタビュー/前編)

いくつになっても元気できれい!

そんな人生の先輩たちのライフスタイル紹介を、あちらこちらで見るようになった。

今回紹介する映画『カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』は、その中でもピカイチの作品。

インテリア、ファッション、普段の暮らし方だけでなく、芯を貫くのは主人公・角野栄子さんのハッピーでユニークな生きる美学。

4年間に渡る角野さんの姿をドキュメンタリーで捉えたのは、OurAge世代の宮川麻里奈監督。

間近で見た角野さんのリアルな姿と、そこにある見事な生きざまを、宮川さんに語ってもらった。

 

撮影/露木聡子 取材・文/岡本麻佑

『カラフルな魔女』監督 宮川麻里奈さんインタビュー

 

宮川麻里奈さん
Profile

みやがわ・まりな●1970年6月生まれ、徳島県出身。1993年、NHK 番組制作局に入局。金沢局勤務、「爆笑問題のニッポンの教養」「探検バクモン」などを経て、2013年「SWITCH インタビュー達人達」を立ち上げる。「あさイチ」などを担当した後、現在はNHKエンタープライズで「所さん! 事件ですよ」「カールさんとティーナさんの古民家村だより」などのプロデューサーを務めている。一男一女の母。

 

魔女に4年間密着したら、こんなことが見えてきた!

『魔女の宅急便』をはじめ、世界的に有名な児童文学者・角野栄子さんに密着したドキュメンタリー映画が誕生した。

 

88歳の今も、大好きな「いちご色」の壁や本棚に囲まれながら、連日の執筆活動。カラフルなワンピースにキュートなメガネで身支度を整えると、毎日違うコースでお散歩にでかける。日本各地の講演先では熱狂的な小学生ファンに囲まれ、旅先のおいしいものに食欲旺盛。その折々に口にする言葉はキラキラと輝いて、私たちの心の奥にしみこんでくる。

 

「もう、取材の初日から、いっぺんに惚れちゃいました(笑)。

クローゼットのワンピースをあれこれ見せていただいていたら、『とにかく締め付けが嫌なんですよ。疲れ方が違うの。着るものからくる疲れはなるべく少なくしたい。・・疲れた疲れたって、なんだか私、年寄りみたいね。年寄りなんだけど。そのつもりじゃないところが、おかしいわねー!(笑)』って。

なんて素敵な人なんだろうって、感動しました。撮っていて楽しいんです。頭の回転が速くて、お茶目でユーモアがあって、言葉に力がある。

毎回何か、はっとするような、心に響くことをおっしゃるんです。無我夢中で撮っているうちに4年経ってしまった、という感じです」

 

宮川さんは、もともとはテレビの番組として、この企画を立ちあげた。

 

「たまたま10年くらい前に角野さんのインタビュー記事を読んだことがあって、『こんなに面白い人がいるんだ!』と驚いたんです。きれいだしおしゃれだし、1950年代に突然ブラジルに住み始めるなんて、ぶっ飛んでいるな、と。強烈に印象に残っていて、いつか取材したいと思っていました」

 

「会いたい」というピュアな情熱から企画を通して、角野栄子さんを追いかける番組をスタート。視聴者からの反応も大きく、全15回(うち14回は放送済み)の人気番組に成長した。放送2年めの終わりぐらいに映画化の声がかかり、追加取材と再編集を経て、1本の作品が完成した。

 

「番組というのは、角野さんの食とか、おしゃれとか、各回のテーマに沿って作っていきますよね。でも映画となると、角野さんの一代記というか、人間像がわかるものじゃないといけないので、本当にゼロから作り直したというか、全く意識を変えて組み立て直しました」

「カラフルな魔女」監督  宮川麻里奈さん

角野栄子さんの人生をざっくり説明すると…。

 

5歳で母を亡くし、戦争を経験。早稲田大学を卒業後、出版社勤務を経て、結婚相手の希望により24歳から2年間ブラジルに滞在。

帰国後は30代半ばまで専業主婦として暮らしていたが、大学時代の恩師の強引な勧めで執筆活動を開始。ブラジルにいる間に仲良くなった少年のことを書いた『ルイジンニョ少年_ブラジルをたずねて』で作家デビュー。以来53年にわたり、代表作『魔女の宅急便』をはじめ260冊を超える作品を世に送り出してきた。

 

2018年には「児童文学のノーベル賞」といわれる国際アンデルセン賞・作家賞を日本人3人目として受賞。世界中から賞賛される、児童文学の巨星なのだ。

 

そんな角野さんの創作活動の源泉は、自由を愛する心。筋書きの整合性や起承転結よりも、登場人物の心と読み手の想像力を優先するから、物語はどこへ転がっていくかわからない。

自分を大事にすること、自分を愛すること、そして周りの人たちを大切にする術をまず教えてくれる作品ばかり。だから読めば読むほど、生きるのが楽しくなってくる。

 

 

そんな角野さんの元気の素は、何なのか? 4年間密着した宮川さんいわく。

 

「とにかく、よく召し上がります(笑)。細かい栄養バランスは気にしないで、じゃんじゃん食べる。食欲旺盛、すごいです。

ごちそうといえば『牛肉』だそうで、『ぜいたくなコース料理とかには興味がないけど、奮発するときはちょっといい牛肉を買って、シンプルに焼いて食べるのが一番』とおっしゃってました」

 

そして、足腰の強さ。街中を歩くシーンは、まったく年齢を感じさせない。

 

「元気なんです。いつもスタスタ歩いてらして。時々は腰が痛いとか足が痛いとおっしゃってはいますが。一度、杖を持って家を出られた日があったのですが、いざ撮影を始めようとしたら『こんなのついていられない、やっぱりやめる!』って、杖をロケバスの中にポーンと(笑)。やっぱりその心意気は大事だなって思いました」

 

支えているのは、強靱なマインドだ。

 

「年をとったから食べる物はこうしなくちゃとか、健康のために歩かねば、とかじゃないんです。自分がしたいから、そうしているだけで、“ねばならない”とは思ってらっしゃらない。

私なんか、子どもたちから『お母さんは“ねばならない”が強い人だよね』って言われちゃうタイプなんですけど(笑)、角野さんは何ものからも自由で、そのほうが楽しいからそうするという方なんですよ。

 

映画では使っていませんが、散歩のシーンを撮影中、おっしゃったんです。『私はいつも同じコースを行くのは嫌い。歩いたことのない道を歩きたいの。だって次の角を曲がったら、キリンがでてくるかもしれないじゃない?』って(笑)。確かに、そう思ったら単なる近所の散歩でも、がぜん面白いですよね!」

 

わくわくしながら、行ったことのない道を、楽しみながら歩く。きっと人生もそうやって、歩いてきたのだろう。キリンだけじゃなく、挫折や困難にも出会いながら。

映画『カラフルな魔女』宮川麻里奈監督

 

作品の後半には、角野さんの処女作に登場するルイジンニョ少年のその後の消息が語られる。ドラマチックな展開は、ドキュメンタリー作品でありながら、まるで物語のよう。

 

そして観る人には、こんな言葉が贈られる。

 

『魔法は誰にでも、ひとつだけあります。自分が好きだと思うこと、面白いと思うことをとことんやったら、それが魔法になるんです』

 

「私にとっての魔法は、じゃあなんだろう? と、思いました。今やっているテレビの仕事が魔法なのか? ちょっとそれはわかりませんが(笑)。

私はあの言葉を、こう解釈したんです。いくつになっても、そのときそのときに自分が好きとか面白いと思うことを見つけて、とことんやってみたら何かが見えてくる、と。いくつになっても探していいと思うし、探したいなと思うんです」

 

それにね、と宮川さん。

 

「あまりにすごい方なので、簡単に真似したいなんて言えません。でも専業主婦時代、自分が何者でもないという思いにさいなまれ、子育て中は葛藤もあったという経験談は、私たちにも重なります。スーパーウーマンだけど、私たちと同じような苦しみや葛藤があって、それを乗り越えてここまで来た方なんですよね。

私たちの道しるべであり、『年を取るのが怖くなくなった』という視聴者からの声もたくさんありました。角野さんは、日本女性の希望だと思うんです」

 

現在53歳の宮川さん。ずっとバリバリ働きながら、二人の子どもを育ててきた。いったいどんなふうに仕事と生活のバランスをとって、健康をキープしてきたのか。OurAge世代ならではの話は、インタビュー後編で!

 

(宮川さん自身の健康についてのインタビュー後編はコチラ

 

『カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』

「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~」ポスタービジュアル

児童文学作家・角野栄子さんに4年間密着したドキュメンタリー映画。カラフルなファッションと個性的な眼鏡がトレードマークの角野さんは現在88歳。波瀾万丈な人生を送りながら持ち前の冒険心と好奇心で多くの苦難を乗り越えてきた。『魔女の宅急便』をはじめ多くの名作を生み出し、2018年には「児童文学のノーベル賞」と言われる国際アンデルセン賞・作家賞を受賞した彼女の、創作の原点とは。今も連日長時間パソコンに向かい、精力的に創作に明け暮れる、その元気の素は? 語りは宮﨑あおいさんが担当している。

『カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』メインスチール写真

2024年1月26日(金)より角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー

配給:KADOKAWA

監督:宮川麻里奈 音楽:藤倉大

語り:宮﨑あおい

Ⓒ KADOKAWA

公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/majo_kadono/

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