演技力と歌に定評のある戸田恵子さんが、名作ミュージカルに出演する。
ブロードウェイで大人気を博し、日本でも過去に何度も上演された作品だ。
もともと観劇好き、世界各地でたくさんのミュージカルを見てきた戸田さんが
作品の面白さと演じる楽しさを、リアルな言葉で語ってくれた。
撮影/富田一也 ヘア&メイク/相場広美(MARVEE) スタイリスト/江島モモ 取材・文/岡本麻佑
戸田恵子さん
Profile
とだ・けいこ●1957年9月12日生まれ、愛知県出身。NHK名古屋放送児童劇団に在籍し、1969年に『中学生群像』で俳優デビュー。’73年に上京し、翌’74年「あゆ朱美」の芸名でアイドル演歌歌手としてもデビュー。’77年、野沢那智氏主宰の劇団・薔薇座に入団し、看板女優として活動(’89年まで在籍)。第13回読売演劇大賞最優秀女優賞をはじめ、日本アカデミー賞優秀助演女優賞など数々の賞を受賞している。’79年に声優としての活動をスタート。「ゲゲゲの鬼太郎」「きかんしゃトーマス」「アンパンマン」など、長年、多くの作品で活躍している。
これぞザ・ミュージカル! 王道の名作が今、蘇る!
「王道のミュージカルだと思います。まだ稽古前なので台本と譜面を見ただけですけど、これぞザ・ミュージカル! という感じかな。
最近は、普通に話していてそのまま普通に歌に入るとか、そしてその歌がすごく短かったり、リアリティ重視のミュージカルが主流ですよね?
でもこの作品はもっとオーソドックスで、きれいで華やかできらびやかで、古き良き時代のグランド・ミュージカル。きっと夢の世界に連れていってくれると思います」
3月に東京で、4月に大阪で上演されるミュージカル『20世紀号に乗って』に出演する戸田恵子さんは、本作をこんなふうに、わかりやすく解説してくれた。
というのも戸田さん、若い頃から毎年ニューヨークに通い、演劇やミュージカルを観客席から何本も観てきた根っからの舞台ファン、ミュージカル通なのだ。
「実は先週も、ニューヨークで舞台を観てきたばかりです。今回は仕事がらみだったので、4泊6日で4本しか観ることができなかったんですけど。
今話題になっているミュージカル版『バック・トゥ・ザ・フューチャー』も観ることができました。それがすごーく、本当にひっくりかえるほど素晴らしかったんですよ!(笑)
ですから今回の舞台も、気鋭の演出家であるクリス・ベイリーさんがこの古い作品をどうアレンジしてくださるのか、とても楽しみなんです」
本作はそもそも1930年代に書かれた戯曲。上演されるや観客が詰めかけ、大人気となり、翌年には映画化された。
40年後の70年代に、原作と映画をもとにブロードウェイ・ミュージカルとなり、トニー賞をいくつも獲得。さらに2015年にもリバイバル上演されてヒットしている。
日本でも1990年に初上陸。その後宝塚でも上演された人気演目なのだ。
「今回、主役を演じる増田貴久さんとは、20年くらい前にドラマでご一緒したんです。それ以来ご飯を食べたり、彼が芝居をしているときには観に行ったり。テレビの歌番組に出てきたら、『良かったよ』ってメールしたりね。『いつか舞台のお芝居を一緒にやりたいね』って話はしていたんです。
だから私からすると増田さんは、とても若い人ってイメージだったけど、今回久しぶりに会ったら、ずいぶん大人になったなぁと思って。そうか、私もそれだけ年をとっているんだなって(笑)。
ともあれ、彼はすごく真面目で昔から歌も抜群に上手だったので、この作品にぴったりだと思います」
戸田さんが演じるのは、レティシア・プリムローズという大富豪の夫人。主人公オスカーは今や落ち目のプロデューサーで、元恋人の人気女優リリーを舞台に起用して再起を図ろうとしている。それを聞きつけて、「舞台のスポンサーになる」と名乗りをあげるのが、プリムローズ夫人。物語のキーパーソンだ。
「もう最近は、どこの現場に行っても最年長なので、稽古が始まったら、いの一番にこう言おうと思ってます。『みなさん、私を大切にして下さい!』って(笑)」
10代で俳優デビュー&歌手デビューを果たし、舞台女優、声優と活躍の場を広げてきた戸田さん。
脚本家の三谷幸喜さんに切望され、初めてテレビの連続ドラマに出演したのが39歳のとき。以来、メリハリの効いた明るい声と内側からあふれるようなパワーで、さまざまなドラマや映画、舞台にひっぱりだこ。
どこからどう見ても年齢不詳の美女だから、すでに還暦を6年過ぎたと聞いて驚く人も多いはず。
その元気の素は?
「ライブを見ることです! さっきの話もそうですけど、年に一度は観劇のためにニューヨークに行きますし、お芝居に限らずコンサートとか落語とかスポーツ観戦、なんでも生で観るのが好きなんです。
生身の人間がパフォーマンスしているのを間近で見ていると、『ああ、人間てこんなことができるんだ』って感動して、元気になれる。
私は自分から何かするのが苦手なので、他力本願というか、観て、エネルギーをもらって、ああ頑張ろうって。元気になるし、テンションもあがります。
私自身も同じ職業に就いているんですけど、あわよくば、私のお芝居やステージを観た誰かが元気になってくれるかもしれないと思ったり、そういう仕事についているんだって自分で再確認する場であったり」
2024年も年明け早々、ポルトガルに行って友人の三浦和良さんが出場するサッカーの試合を観戦。帰国後すぐにニューヨークに行き、仕事のついでに舞台を4つ観劇してきた。
世界中をあちらこちら移動するのは楽じゃない、はずだけど。
「ですよね(笑)。体力勝負ですけど、今のところそれは厭わないというか。お金もかかるし仕事も休んで大変っちゃ大変なんですけど、その分、帰ってきたら仕事を頑張れる。
年齢を重ねて、いつか頑張れない日が来ると思うけど、そのときが来たら仕事を辞めるかブロードウェイをやめるか(笑)。それくらい大切な趣味であり、エネルギー源です」
そしてこの舞台公演が終わると次は、ひとりで歌って語って芝居する『虹のかけら ~もうひとりのジュディ』という、三谷幸喜さんの作・演出作品が、5月31日から7月半ばまで、ニューヨーク公演も含めて予定されている。
「還暦をとうに過ぎた私の体力だけが心配ですが、頑張ります!」
そう言って笑う戸田さんは、いったいどんな40代、50代を過ごしてきたのか。
実はけっこう壮絶な時期も乗り越えて来た体験談は、私たちの元気の素になってくれそうだ。
(お母さまの介護と、戸田さん自身の病気についてのインタビュー後編はコチラ)
ミュージカル『20世紀号に乗って』
ブロードウェイ・ミュージカルの名作。20年、21年に日本で『ハウ・トゥー・サクシード』を斬新な演出で魅せたクリス・ベイリーを演出・振付に迎えて、5年ぶりの日本上演となる。舞台は1930年代初頭のアメリカ。舞台演出家兼プロデューサーのオスカー・ジャフィ(増田貴久)は多額の借金を抱えている。マネージャーのオリバー・ウェッブ(小野田龍之介)と宣伝担当のオーエン・オマリー(上川一哉)と共に世界一の豪華客室を備えた高級列車「特急20世紀号」に乗り込み、かつての恋人で今や大女優となったリリー・ガーランド(珠城りょう)と偶然を装って出会い、自分の次の舞台に出演させようという魂胆だ。ところが若い恋人ブルース・グラニット(渡辺大輔)と一緒のリリーは首を縦にふらない。そこに、オスカーの芝居のスポンサーになってもいいという、富豪の女性レティシア・プリムローズ(戸田恵子)が現れて…。
東京公演 2024年3月12日(火)~31日(日) 東急シアターオーブ
大阪公演 2024年4月5日(金)~10日(水) オリックス劇場
公式HP https://www.musical-onthe20th.jp/
『虹のかけら ~もうひとりのジュディ』
2018年に、戸田恵子生誕60周年記念作品として三谷幸喜が作り上げた一人舞台。『オズの魔法使い』など、世界的に有名なハリウッド女優ジュディ・ガーランドの専属代役兼付き人であったジュディ・シルバーマン(戸田恵子)の目を通して、大女優の数奇な運命を描く。
東京プレビュー公演 2024年5月31日(金)~6月6日(木) 銀座博品館劇場
ニューヨーク公演 2024年6月25日(火)、27日(木) Weill Recital Hall
東京凱旋公演 2024年7月14日(日)~15日(月祝) 有楽町よみうりホール
ほか、埼玉・新潟・愛知・大阪・三重にて全国プレビュー公演・凱旋公演あり