【教えていただいた方】
「元気が出るお金の相談所」所長。マネーセラピスト。ファイナンシャルプランナー歴27年目。家計管理、離婚後のお金相談をはじめ、これまでの相談件数は7000件以上。近年では、定年後の老後マネー相談、熟年離婚相談に加えて「親の介護と財産管理」「認知症対策としての家族信託」「相続対策」「相続の後始末」などの相談が増加中。著書に『そろそろ親とお金の話をしてくだい』(ポプラ社)など多数
安田さんのもとを訪ねる相談者の方たちの中で、いちばん多いのが「老後のお金はいくら必要ですか?」「2000万円ないと生活できないの?」という質問。
「そう聞かれても即答できないんですよ。なぜなら一人一人の人生が違うように、老後に必要なお金にも個人差があり、万人向けの答えなどないからです。そんなわけで、まずは<未来予想年表>を作って、この先の人生をシミュレーションするところから始めませんか?と、お話ししています」
<未来予想年表>を作ると、お金が必要になるタイミングが見えてくる
人生100年といわれますが、私たちが健康上の問題がなく、生活のQOLを維持できる健康寿命は、2019年時点で男性が72.68歳、女性は75.38歳とされています(内閣府の2022年版「高齢社会白書」より)。つまり、80歳以降は介護ゾーンに足を踏み入れるということ。
安田さんによれば、OurAge世代が最も注意すべきなのが「親の介護に関わる支出」なのだそう。実家に通う交通費もチリツモで家計を圧迫しますし、子どもの学費や住宅ローンに追われる中、親の介護に右往左往して介護離職したり、預貯金を切り崩してしまうと、自分の老後資金が足りなくなる可能性が高いからです。
「10年後に『こんなはずじゃなかった』と後悔しないためにも、作戦会議をしましょう。その手始めとして<未来予想年表>を書き、この先、どんなことが起こるかを把握することが大事。すると、『ここで子どもが大学に入学する』『親が80代を迎えて介護ゾーンに入る』など、お金がかかるタイミングが予測できますよ」と安田さん。
<未来予想年表の作り方>
・表の縦欄に時系列をとり、横欄に自分と夫、子ども、双方の両親(シングルの人は自分と両親)の年齢を書き入れます。
・自分や夫が定年退職を迎える年や、親が健康寿命(男性は72歳、女性は75歳)を超えて、親が介護ゾーン(80代以降)に入る年をチェック。
・右側に「子どもの大学受験」「退職金が入る」「自宅のリフォーム予定」「住宅ローン完済予定」など、想定される出来事を記入する。
*ダウンロードできる未来予想年表は、この記事から見られます!詳しい書き方もコチラから!
「親の介護は親のお金でまかなうもの。親の年金や資産の総額などを教えてもらうことが、近い将来の相続や、突然の病気・入院に備える準備にもなります。そのためにも、親が元気な今のうちから時間をかけてコミュニケーションをとる努力が必要です」
また、きょうだいがいる人は、相続の際にもめるのを防ぐために、グループラインなどで親の健康や介護に関わる情報を共有し、助け合うことが大事。きょうだいで知恵を出し合って、介護離職や貯金の切り崩しを防ぐことが、定年後の生活を守ることにつながっていきます。
この先の人生をまっとうするために「幸せリスト」を作ってみよう
<未来予想年表>を作る際、実はもうひとつ大切なポイントがあります。それは「自分が幸せに感じること」や「やりたいこと」のリストを作って、年表とリンクさせること。
「“終活”で大事なのは、人生の最終コーナーに向けて、自分の人生を悔いなく生きて楽しむこと。老後のお金はそのためのツールです。親の介護は片方の目でやり、もう片方の目で自分の幸せを探して、人生を生ききらなくては。自分の幸せは何?と自分の心に問いかけてみてください」
ちなみに、あなたが幸せを感じるのはどんなときですか?温泉のお風呂につかったとき?おいしいものを食べたとき?それともペットと一緒にまったりと過ごすひとときでしょうか。「うふふ」と頬が緩んでしまう幸せの尺度は人それぞれ。
「私の場合、幸せな気持ちになるのは大自然に触れたときです。広い海を見ていると、気持ちが晴れ晴れしますね。『くよくよ考えている自分が、ちっぽけだな』と思って、気持ちが切り替わって元気が出るんですよ」
まずは「幸せリスト」「やりたいことリスト」を付箋に書き出し、優先順位を決めていきましょう。そして、いちばんやりたいことを<未来予想年表>に貼りつけて、実現するにはどうしたらいいか、作戦を立てるのです。例えば、「海外旅行は難しいかも」と思ったら、国内旅行に変更する、あるいは「ほかにどんなことができるか?」と考えてみましょう。
「家計をギュッと引き締めれば、海外旅行に行く予算が立つかもしれません。頑張って1年間で50万円をためることができたのなら、そのお金で行ってらっしゃい。でも、30万円しかためられなかったら30万円で行くんです。あくまでも予算の範囲で楽しむ!これぞ、オトナの楽しみ方です」
老後の資金を確保するには、作戦を立てることが大切
定年退職後はいよいよ年金生活の始まり。60歳以降の生活をどうするか、作戦を立てなければいけません。最近は年金を受け取りながら働き続ける人たちが増えています。働くことは貯金の切り崩しを避けるために、最も有効な作戦です。
退職金が出ると気が大きくなってしまいがちですが、油断は禁物。例えば2000万円の退職金を60歳から30年間、360カ月にわたって切り崩した場合、なんと1カ月あたりに使える金額は約5万5000円です。あっという間に使い果たすことになりかねません。
「退職金で住宅ローンを完済しようと考える人が多いですが、あまりおすすめできません。住宅ローンは金利が安いのに、それを一括払いして貯蓄が乏しくなった直後、まさかの入院や手術が必要になったら大変ですから」
では、きたるべき年金生活に備えて、どのような暮らし方をするといいのでしょうか。
「退職金の一部で海外旅行や家のリフォームを予定している人も多いでしょう。必要なお金を支出したあとは、切り崩しを避けること。そのためにも家計を見直しましょう。皆さん、『生活費を今より減らすなんて、無理無理』というけれど、自分の幸せにお金を使って、残りの人生を生ききるためにも、メリハリをつけた暮らし方をしなくちゃ。ちなみに私は塩糀を手作りしてさまざまな素材を漬け込むなど、節約を楽しんでいますよ!」
イラスト/内藤しなこ 取材・文/大石久恵