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介護を受けることになってもハッピーでいるために。ケアプランは「自分でデザイン」しよう!

「幸せなコロリ」のために、自分がどんな介護を受けたいか、今から準備できます。介護や福祉のプロを対象にした研修講師、コンサルタントとして活躍する高室しげゆきさんは、「生きることを楽しむためにケアプラン(介護サービス計画書)を自分でデザインしよう」と提案します。

多くの人は、ケアマネジャー(介護支援専門員)が作成してくれるケアプランに従って介護を受け、「自分から要望するのはわがままで、いけないこと」と思っています。

 

「でも、介護というのは本来、その人が人間らしく生きるために支援するのが目的です。自分が納得のいく介護を受けるためにも、未来の自分の介護計画を自らデザインするのがおすすめですよ」と高室さん。

 

そうはいっても、どこから手をつければいいのでしょうか?

 

自分のこだわりや好きなことをリストアップしてみよう

 

ケアプランをデザインするための第一歩は、自分のこだわりや、好きなもの(食べ物、音楽、ファッション、本、映画)、心地よいこと、趣味などを万華鏡のようにリストアップしてみることです。まずは付箋などに書き出してみましょう。

 

「たとえば、単に『甘いものが好き』と書くだけでは、洋菓子か和菓子か、好みがわかりません。でも、『〇〇で売っている「△△羊羹」が好き』と書かれていると、その人の嗜好が何となく伝わってきますよね」

 

そもそもケアマネさんや介護スタッフは、介護される人のバックグラウンドをよく知りません。「だからこそ、自分のケアをしてくれる人たちに伝える意味でも、『好きなことリスト』を作成することに意義がある」と高室さんはいいます。

 

「すると、コミュニケーションの糸口となり、介護スタッフに『あなたの趣味・嗜好』や『あなたがどんな人か』を知ってもらうことができます。可能な範囲で『あなたの好きなこと』にこたえてもらえると思いますよ」

 

ノートに記録するだけでなく、インスタグラムなどに写真とともにアップするのもいいでしょう。その際、「未来の私をサポートしてくれる方に」というアカウントを作り、「好きな料理」「好きな公園」など、ひとことコメントをつけておくと、のちに検索しやすくなります。

「私はこんな人」と周囲の人たちに知ってもらう

 

嗜好というのは加齢とともに変化していくケースもあるため、年に1度アップデートするのがポイント。年末年始の休みに家族と一緒に『好きなことリスト』を作ると、家族とシェアすることができるので、おすすめです。

 

実は、子どもというのは親のことをわかっているつもりでも、知らないことがたくさんあります。そのため、ケアマネさんが親の情報を子どもからヒアリングして、ケアプランに反映したつもりでも、介護される本人が求めていることとズレてしまうことがあるのだそう。

 

「介護される側が『自分はこうしたい』と意志を伝えなければ、介護する家族が『よかれと思って』という思い込みから、違う方向に舵をきってしまうケースが少なくないのです。未来の介護生活をハッピーなものにするためにも、あなたが好きなことや、心地よいことを、家族に前もって伝えましょう」

 

『好きなこと&こだわりリスト 私はこんな人です』 書き出すこと一例
・生活の中で一番大切にしていること
・自分の性格、日常生活の癖や服装、こだわり
・生活習慣(食事や入浴など)の決まりごと
・1年の中で楽しみにしている行事やイベント
・好きな食べ物、嫌いな食べ物(食材や調理法、盛り付け方、味つけなど)
・なじみの店、ひいきのお店
・好きなテレビ番組またはジャンル
・好きな音楽またはジャンル
・好きな歌手、芸能人、アーティスト
・好きな映画またはジャンル

・好きな絵画、写真またはジャンル
・好きな色や柄
・嫌いな(苦手な)色や柄
・好きなファッション、嫌いなファッション
・気分が落ち着く香り、好きな香水
・愛用している日用品(化粧品、入浴剤、シャンプー、コンディショナーなど)

*高室さん著書『子供に頼らないしあわせ介護計画』(WAVE出版刊)より

自分ガハッピーになれることを書きだしている女性イラスト

 

50代で人生のお色直しをしよう

 

「多くの人は、『食事や排泄、入浴、歩行など、生きていくうえで必要な基本的動作のサポートを受けるのが介護』と思っています。でも、私は『生きることを楽しみ、人間らしい生活をサポートしてもらうこと』が介護の目的と考えています。〈要介護〉という言葉はマイナスにとらえられてしまいがちですが、人の手助けが必要になるだけ。時間がたっぷりとあるのが介護生活のメリットですから、もっとプラスに考えていただきたいと思います」

 

『好きなことリスト』の作成は、これまで歩いてきた道を振り返るきっかけにもなります。
「この先の人生を大切に生きていくために、自分の好きなことを確認するんです。いわば人生の棚卸し、お色直しですね」

 

もしも電車での移動が大変になったとしても、月に1回、介護タクシーを使えば外出することも可能です。「好きな食べ物を、好きなお店に食べに行く」という動機づけによって、満足感や喜びを味わうことができて、QOLのアップにつながっていくのです。

 

「このように、自分がやりたいことをリストアップすることが、未来の介護生活のデザインにつながっていきます。要介護になったとしても、時間がたっぷりとあるのですから。絵を描く、楽器演奏をするなど、これまでやりたくてもできなかった趣味を楽しむのもいいと思います」

 

介護生活を楽しく豊かにするために、SNSでネットワークづくり

 

シングルの人は、「もしも要介護になったら…」と、おひとりさまの老後に一抹の不安を感じてしまいがち。でも今や、Facebookやインスタグラムなど、SNSを通じて世界に発信し、多くの人とつながることができる時代です。

 

「時代は変わりました。パソコンやスマホを使いこなすことで、新しいシニアライフが開けると思います」

 

ちなみに高室さんの息子さんはドイツ在住ですが、ラインで頻繁にやり取りしているため、寂しいと感じることはないそうです。
「つい先日、『今どうしている?』と息子に連絡したら、『サイクリングしているよ』と、ライン川沿いの風景をスマホの動画に撮って、実況中継してくれたんですよ。おかげで、一緒にサイクリングしている気分を味わえました。ドイツにいる息子が見ている風景をリアルタイムで楽しめるなんて、すごい時代ですよね」

 

近年、わが子が遠方に暮らし、夫に先立たれた高齢女性が独居生活を送るケースも珍しくありません。家族が近隣に住んでいない場合、介護や福祉関連のスタッフに頼ることになりますが、SNSを利用すれば、普段会えない家族や友だちはもちろん、世界中のいろんな人たちとつながることができるのです。

 

「そんなふうに人生を楽しみ、ウキウキしていると認知症の予防にもなりますよ。そして、同じようにウキウキしている人たちとつながって、ネットワークを広げていきましょう。これからは自前のセーフィネットを作って、お互いに助け合っていく時代です。未来の自分のケアプラン(介護計画)をデザインしながら、自分らしく、人生を生ききりましょう!」

 

【教えていただいた方】

高室しげゆき
高室しげゆきさん
ケアタウン総合研究所代表
公式サイトを見る

地域福祉を支える「地域包括ケアシステム」づくりと、「新しい福祉の人材育成」を掲げ、行っている。ケアマネジャーや地域包括支援センター、社会福祉協議会、介護福祉施設のスタッフを対象に、研修や講演活動を行い、受講者数は延べ23万人以上になる。著書に『子どもに頼らないしあわせ介護計画』(WAVE出版)など多数

 

イラスト/内藤しなこ 取材・文/大石久恵

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